梅田北ヤード問題「宮本たけし政策委員長に聞く」
梅田貨物駅の移転問題は、吹田市でこの是非を住民投票で問おうという運動が大きく広がっているさなかに、坂口吹田市長が2月10日、大阪府、摂津市、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構、日本貨物鉄道株式会社の5者間で事業着手の合意を行い、吹田市、摂津市でも、大阪市内百済地域でも、住民の怒りの声が広がっています。これを受けて一部マスコミは、梅田貨物駅移転と「北ヤード」開発がいよいよ本格化などと報じるなど、予断を許さぬ展開となっています。この問題について、宮本たけし日本共産党府政策委員長・前参議院議員に聞きました。
財界・大企業の「最後の一等地」獲得が最大のねらいに
いま進められようとしている梅田貨物駅移転・「北ヤード」開発問題は、どういう問題なのですか。
宮本:梅田貨物駅は大阪駅の北側に面する24ヘクタールにものぼる広大な土地であり、国民の貴重な財産です。一日250万人が利用する大阪駅前の表玄関ですから、そこを開発しようというのなら、駅前をどうするかをしっかり議論して、府民合意で進めるべきです。
ところが、この開発は、一貫して財界主導で進められてきました。関経連の秋山喜久会長は、会長所感や定例会見で「梅田北ヤードの再開発プロジェクト推進」「大阪駅北ヤードについて、スピードある取り組みを期待」などと繰り返し要求。2004年2月の定例会見で「都市基盤整備公団、自治体、民間の三者協調によるスキームを具体化していく予定」と述べると、3月2日には、関西の産官学のトップが集まって「大阪駅北地区まちづくり推進協議会」が発足しました。そしてこの事業を推進する「大阪駅北地区まちづくり推進機構」の会長には秋山会長自身が座っています。
そしていま、この国民の財産は、「大阪最後の一等地」獲得で一儲けねらう財界・大企業に切り売りされようとしているのです。3月28日付けの「日経新聞」も、「北ヤード開発の二期工事は、梅田貨物駅の移転時期が不透明だったため開発スケジュールが定まらなかったが、これ(5者間で事業着手の合意−宮本)により全面着工に向けメドが立った。企業の不動産開発に対する意欲も高まっており、最後の一等地を巡る争奪戦はしれつを極めそうだ。」と報道しています。
住民が大反対しているにもかかわらず、急いで吹田操車場跡と東住吉区のJR百済貨物駅に移転させようとしているのも、貨物駅機能が開発のじゃまになるからです。また、利益をあげやすいように、大阪市は規制緩和で容積率を400%から800%にまで大幅にアップしました。こんなやり方は本当に間違っていると思います。さらに北ヤード構内を通る鉄道の地下化や新駅の建設など、膨大なインフラ整備にも多額の公金投入が予想されています。
移転先は住宅密集地。深刻な大気汚染と振動、騒音
移転先ではどのような影響が予想されるのですか
宮本:そもそも貨物駅の移転先とされている吹田操車場跡地は、住宅地や学校、保育所などを抱える地域です。それらに隣接してトラックの貨物駅へのアクセス道路が建設される計画で、1日1000台のトラックの往来は、大気汚染や振動、騒音の新たな発生源をつくり出すことになります。また、予定されている通過道路は東淀川区、淀川区、吹田市内を縦断し、これら地域に交通渋滞や環境悪化をもたらすことは火を見るより明らかです。また、残り半分の移転先となっているJR百済貨物駅周辺も同様です。この地域は国道25号線を中心に交通量が多く、しょっちゅう渋滞がおきているところです。現在のトラック量に加えて1日1200台ものトラックが増えれば、出入りするトラックは今の約3倍以上になると見込まれており、大気汚染や振動、騒音がいっそうひどくなることは明らかです。
ですから吹田でも、百済でも、住民の皆さんから反対の声が上がるのは当然です。1999年に吹田、摂津両市が大阪府などと結んだ「基本協定」でも、「吹田、摂津市の環境基準、目標を遵守するとともに、環境を悪化させないような対策を講じる」、「住民の意見を可能な限り事業計画に反映させ、円滑な合意形成に努める」、「大阪府、吹田市及び摂津市の合意を得た上、事業に着手するもの」とされており、環境を悪化させないことや、住民合意を得ることが明記されています。その精神に照らしても、移転計画の是非を問う住民投票条例の制定を求める直接請求運動のさなかに、吹田市長が工事の着手合意協定書に調印をしたことは、二重三重に許されません。
当初の口実も破綻。何の道理もない貨物駅移転計画
梅田貨物駅移転のそもそもの目的は、何だったのですか。
宮本:この問題の出発点は国鉄の「分割・民営化」を強行した1987年にさかのぼります。本来国鉄の資産は国民の財産であるはずですが、分割・民営化を強行した「国鉄改革法」では、鉄道事業に必要な資産はタダ同然の簿価でJRに引き継がせるとともに、その他の資産は25.5兆円の長期債務とともに国鉄清算事業団が引き継ぎ、それを売却し長期債務の穴埋めにあてることとされました。このときの閣議決定で、梅田貨物駅を吹田操車場跡地に移転して、梅田の土地を売却することが打ち出されました。
しかし、吹田市でも、摂津市でも、貨物駅移転によるトラック公害など、環境悪化への住民の不安が噴出し、住民の強い反対で、この移転計画は止まったままになってきました。そこで、清算事業団は、吹田への全駅移転をあきらめ、1997年6月に吹田に機能の半分を、残り半分は大阪市内の百済貨物駅に移転するという計画の変更を吹田、摂津両市に申し入れました。その後、国鉄清算事業団を継承した日本鉄道建設公団とJR貨物、吹田市、摂津市、大阪府の5者の間で「基本協定」が結ばれましたが、新たに移転先にあがった百済貨物駅周辺地域でも住民の強い反対が巻き起こり、今日まで事態は止まったままで来たのです。
いまではこの計画の当初の目的は、まったく道理がなくなっています。だいたい国自身が、膨大な貨物駅の移転費用を使ってまで売却して本当に利益があがるのかどうか明確にしていません。示せないのです。2005年4月、日本共産党の小林みえこ参議院議員が参院決算委員会で、梅田貨物駅の移転と跡地の売却について、土地の「売却見込みはいくらで移転費用はいくらになるのか」示せと迫りました。しかし国土交通省は「現在の段階では売却収入等の見込みについて明らかにすることは・・・難しい」などと言うばかりで、利益がでる根拠すら示せませんでした。
緊急性のない貨物駅移転。移転反対・環境守る運動はこれからが大事
マスコミなどは、「梅田貨物駅移転と北ヤード開発がいよいよ本格化」などと報じていますが。
宮本:今、更地にされてフェンスが張られているところは「先行開発区域」と呼ばれているものですが、これは貨物駅の移転とは関係のない土地です。実際、「大阪市都市計画審議会(都計審)」でも、この「先行開発区域」について「梅田貨物駅の機能移転に関わらず更地化が進められ、開発可能な区域」と大阪市自身が繰り返し説明しているように、仮にこの売却が行われ、開発されたとしても、それと貨物駅の移転とは直接には関係がないということです。
しかし、マスコミなどの報道では、北ヤード全体の構想があたかも決まったことのように打ち上げられています。これは、関西財界主導の「まちづくり推進協議会」が全体構想のイメージなるものを発表し、企画案のコンペをおこなうなどして、イメージ先行を進めているからです。
「貨物駅の移転」のほうは、そもそも緊急性がありません。私が直接国土交通省に確認したところでも、彼らの計画通りに運んだとしても2011年(平成23年)までかかるということでした。
ですから、「北ヤード開発も本格化するし、貨物駅移転に反対してももう遅い」などと現時点であきらめる必要は全くないのです。移転反対の運動はこれからが大事です。
吹田・百済移転は白紙に戻し、府民的討論を
では、日本共産党は貨物駅移転や北ヤードの問題をどうすべきだと考えていますか。
宮本:大切なことは、そもそもの前提が崩れた今、梅田貨物駅の移転計画はいったん白紙に戻すこと。そして広く大阪府民の参加の下で、冷静な議論を進め、府民合意のもとで大阪駅北地区のあり方を探っていくことではないでしょうか。
大阪駅は毎日250万人が利用する、大阪のまさに「表玄関」です。関西財界のもうけ仕事ではなく、大阪府民の立場から「表玄関」にふさわしいまちづくりのあり方を、識者の意見などもよく踏まえて、真剣に考えていく必要があります。新たなトラック公害の拡散を押しつけるような移転はもちろん論外ですが、快適で文化的な都市環境という面からも、防災という面からも、将来を見据えた府民的な議論が大切だと思います。
実はそういう問題提起は、「大阪市都市計画審議会(都計審)」の場でも、少なくない学識経験者からも繰り返し指摘されてきました。
今年2月の第4回「都計審」で、大東文化大学の土井幸平教授は、「東京の汐留を見ても、丸の内を見ても、六本木を見ても、みんなどこにも大きなオープンスペースがある」「大阪地区というのはちょっと非常に不十分である」「パニックになったり災害があったときに安心感を与えるような、そういう公園をつくる計画が本当に欲しいと、これも最初からみんな思ってる」と主張されています。
また、緑地計画の専門家である大阪府立大学の増田昇教授は、阪神淡路大震災のような災害時に発生する「帰宅不能者」を収容するだけの「空間量」が必要であることを指摘されています。
日本共産党は、「北ヤード」を今のままで放置せよと主張するものではありません。私たちは、新たな環境破壊を生み出すような吹田・百済への貨物駅の移転計画はいったん撤回し、白紙から「大阪の表玄関」にふさわしいまちづくりのあり方について府民参加で議論を進めることを主張しているのです。
今でも、梅田駅周辺は商業施設が高度に集積し、オーバーストアー状態にあります。また、大阪市内ではオフィスビルの空床率も非常に高くなっています。ところが今の計画は、いっそう商業施設やオフィスビルを集積させ、高層ビルを林立させようというプランです。これで本当によいのでしょうか。
大地震など災害の際に、100万人を超えるといわれる梅田駅とその周辺利用者の命と安全をどう守るのか、また、大阪の表玄関にふさわしい緑と環境、ゆとりと景観をどう作るのか、文化や芸術、健康増進など府民要求にどう応えるのか、100年先、200年先のスパンで真剣な検討が必要です。
また、将来的には、環境問題を含めたこれからの輸送のあり方も検討が必要になるでしょう。
日本共産党大阪府委員会はそういった立場から、あらためて「北ヤード」問題について、広く府民的な討論を心から呼びかけるものです。
投稿者 jcposaka : 2006年04月16日