「少子化・子育て支援を考えるシンポジウム」《詳細》
シンポで課題・展望ハッキリ
宮本たけし(党府委員会政策委員長)
日本共産党大阪府委員会と大阪女性後援会が共催した「少子化・子育て支援を考えるシンポジウム」は各界から多彩なパネリストのご協力を得、会場いっぱいの150人の参加で成功しました。パネリストの各氏をはじめ、成功のためにご尽力下さった皆様に心から厚くお礼を申し上げます。
個々の内容はこの報告書を読んでいただくとして、シンポジウムをコーディネートさせていただいた者として概括的に述べると、大きく4つぐらいの特徴があったと思います。
第一は、そもそも少子化問題への対応を考える時に、結婚・出産はあくまで個人の選択の自由であり、「産めよ増やせよ」式の強制などは絶対にあってはならないことです。個々人が「産みたい・育てたい」と思ったときに、どれだけ安心して子どもを産み育てられる条件を、行政がすべての国民に保障するか、これが対策の基本だということです。
第二は、少子化の要因として考えられる問題は多岐にわたるが、先ほどの「基本」から考えたときに、(1)労働者の働きかた、労働条件の問題、(2)保育料の高騰など子育て環境の悪化と行政の公的責任の放棄(3)医療現場の困難、とくに産科、小児科をはじめとする医師不足などの問題が、政治の問題としては鋭く問われているということがシンポジウムを通じてうきぼりになりました。そして、小林みえこ参議院議員からは、それらの最大の原因が「大企業中心の政治」にあることも語られました。
第三に、特に今回有意義だったことは、パネリストの長岡さんをはじめ、会場からも子育て真っ最中の当事者が実体験にたった発言をして下さったことです。そのことでシンポジウムが机上の議論でなく、現在進行形で子育てにとりくむみなさんからの声や苦労、悩みをしっかり反映するものになったと思います。こういう場を今後もっともっと増やしていかなければならないとの思いを強くしました。
そして第四に、知恵もまた現場にあるということです。子育てをすすめる上で「大企業中心の政治」を変える必要はよくわかるが、それまで待てない。今すぐ何をするかという問題でも、現に取り組んでおられる地域から「子育てネットワーク」や「子育て相談会」、新日本婦人の会の「子育て小組」の活動など、すでに多彩にとりくまれている報告もありました。私たちはこういった活動にも学んで、「子育ての本音や悩みを語り合える場」をつくり、そのネットワークを地域に網の目のように広げていきましょう。
最後に、子どもが大切にされる社会というものは大人も大切にされる社会です。シンポジウムでも紹介しましたが「自分は他人に劣らず価値がある」と思っている子どもの比率は中国でも米国でも9割程度に対して、日本では驚くべきことに3分の1の子どもしかそう思えていないという国際比較調査があります。子どもが大切にされる社会をつくるためには人間を大切にする政治が不可欠です。このシンポジウムを機に、府下各地で今後もこのようなとりくみが広がってゆくことを希望して、まとめにかえたいと思います。
各パネリストの報告(大要 文責・大阪民主新報編集部)
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社会・労働問題として全精力を
華頂短大教授 藤井伸生さん
少子化は2つの見方があると思います。労働力不足、消費者が減ってしまうということ。もう一つは、人間の生命力の証である恋愛、妊娠、出産、家族の営みの危機。この後者の立場から少子化問題を考えることが大事です。ライフステージから考えると、平均初婚年齢がずいぶん遅くなっている。この背景に、子ども自身が今「3間―時間と空間と仲間」がなく、本音の対話がないという中で、恋愛も自然うまくいかないということがあるのではないか。
それから長時間労働、低賃金でデートする時間さえない、さらに結婚資金がない。
出産レベルでは、不妊症や流産がけっこうあるのではないか。これも長時間労働や疲労、そして喫煙も原因としてかかわっていると思います。
子育ち・子育てレベルでも、長時間労働が父親の不在となり、2人目3人目の意欲をなえさせてしまう。保育所整備の遅れ、医療費、住宅費、教育費という経済的な理由が子どもを作ることをはばむということも指摘しておきたいと思います。
どう打開するかについては、政府もそれなりにやっているんですが、何を重点にするかビジョンがしっかりなければいけない。基本は社会政策、労働問題対策です。ここに全精力を傾ける政治、国民の意見、これが大事じゃないかと思います。
最後に、こういう問題を、対話をしながら、みんなで考えみんなで解決していく課題なんだという社会問題認識を広げていくことが欠かせない。悩みを職場でも地域でも共有し合う、その中で何をしていけばいいかを考えていくような子育てが大事だと思います。
家族や友人、地域で子ども守れ
子育て中の長岡美由紀さん
結婚して2年、製造業の現場で働く夫も、専業主婦の私も26歳です。娘は1歳半と6カ月の2人で、ようやく子育てに慣れてきたところです。
子どもを育てる上で困難なことが3つあります。まず環境です。私の地域には産婦人科や小児科は多いのですが、夜間救急病院がありません。先日も夜に上の子が高熱でおう吐しました。病状が分からず不安でした。「少子化」というだけでなく、今存在する子どもたちのことを行政はよく考えてほしいです。
公園や自然が多く、遊ばせる場所には困りませんが、移動手段に困ることがあります。駅にはエレベーターがなく、ベビーカーに子どもを乗せたまま階段を上がらねばなりません。近くに大学があり、(登下校と)時間帯が重なると大変です。高齢者や障害者の方も助かるので、バリアフリー化を働きかけていきたいと思います。
第2に夫の仕事です。今は夫の収入だけで生活していますが、基本給が安く、残業があって何とかやっている状態です。私も働きに出たいのですが、なかなか仕事はなく、勤務証明がないので保育所に入れません。
第3に子どもと向き合うことです。上の子はコップやスプーンを使ってもまだこぼします。分かっているつもりでも、つい叱ってしまうことがあります。私が自分の時間を持てず、イライラしていることは子どもにもわかっています。
テレビをつけると、いじめや虐待、子どもを傷つけることばかりです。子どもを育てるには母親だけではだめ。家族や友人、地域の人たちが子どもを守っていかなければいけないと思います。
多忙で体と神経すり減らす医師
産婦人科医植木佐智子さん
日本の医師の総数は26万人で、人口1千人当たり全国平均2・0人と、OECD(経済協力開発機構)平均2・8人の7割程度。OECD並みだと12万人の医師が不足しています。
一方、1人の医師が1年に診察する患者数は日本8500人。OECD平均は2400人です。外来患者1人当たりの診察料平均は日本が7千円に対し、アメリカ6万2千円、スウェーデン8万9千円と違いがあります。
大阪の病院勤務医の週平均超過勤務は16・8時間で、過労死判定基準(20時間)を超える医師は29・3%とされています。厚労省調査では全科の1週間当たりの勤務時間は平均63・3時間、産婦人科69・3時間、小児科68・4時間。
勤務の多忙さ、訴訟の多さ、新しい医師研修制度のための指導医師の集中などが重なり、分娩を取り扱う施設が減っています。全国で4年間に6398から3063施設へ、大阪で2年で241から206施設に減っているとの報告もあります。分娩に立ち会う医師は体も神経もすり減らしています。
2つめに、月経の不順で婦人科を訪れる人が増えています。職場の上司の圧力、お姑さんとの葛藤、荒れる息子さんの悩みなど、家の内にも外にも精神的ストレスがあります。
ダイエット食品でホルモンのバランスを崩し、妊娠しにくい状況になっている方もいます。
最近、若い女性に広がっている性感染症。とくにクラミジアによる炎症は、卵管の閉塞や狭窄の大きな原因で、閉塞は不妊症を、狭窄は子宮外妊娠を引き起こします。
大企業中心の政治が最大の原因
参院議員小林みえこさん
少子化を問題を考える上で、結婚・出産は個人の選択の自由であることが前提です。しかし、子どもを産みたいが産めない、育てにくいなど、人間らしく生きることが可能な社会の構造になっているかどうかが根底から問われる、日本の社会の未来にかかわる重大問題です。政府も少子化に関する法を制定し対策を講じていますが、私が所属する少子高齢社会調査委員会の提言も「少子化に歯止めがかかっていない」と書くなど、抜本対策になっていません。
少子化の要因と背景には若者の非正規雇用と長時間労働の拡大、低い年収の問題があります。教育費はじめ子育て世代への経済的負担も深刻です。こうした要因を作り出してきた最大の問題は、大企業中心の政治のゆがみがあります。日本経団連は保育分野への民間企業の参入促進などの「規制緩和」を相次いで要求。それに沿った規制改革民間開放会議の答申に基づき、政府は労働法制の改悪や保育分野での公的責任の放棄を進めています。
政府が少子化対策を課題に掲げる今こそ、国民・子どもの立場に立った少子化克服・子育て支援の運動が重要です。OECD社会保障大臣会合報告「世界の社会生活の動向」(05年)でも、日本の出生率は政策努力で向上するとしています。
日本共産党は昨年の総選挙政策でも、雇用・労働、保育・学童保育など各分野の政策を打ち出しています。
少子高齢社会調査会である委員が「育児保険制度」創設を主張していますが、子育て支援策を理由に国民にさらに負担を求める財源論は本末転倒だと思います。
少子化シンポジウム参加者の発言から
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金・時間・情報なし
小学校1年の子の母親=お母さんたちはもっと産みたいと思っているが、お金がないので産めない。長時間労働で時間がない。さらに子育てって楽しいよという情報がない。競争社会の中で、お互いに悩みを言えず、横のつながりをつくることも大変になっている。
DCI(子どもの権利条約を守り生かそうという国連NGO)大阪セクション=子どもの意見表明権の保障は、子どもたちが安心して願いや思いを伝えられる、語れる場を作ることだが、親自体が安定したところにいない。保育士、教職員がゆとりをもって子どもや親を見れるような社会をつくるためには絶対教育基本法を変えてはならない。子どもの権利条約を生かすという視点からも、子育て支援、少子化の問題を考えていきたい。
4歳と1歳前の子の母親=上の子が3歳から保育所に通っているが、同じ年代の子どもたちと一緒に過ごすことで、すごく生活が広がった。専業主婦でも、仕事をあまりしていない人でも保育所を利用できるように保育所を増設したり、待機児童問題を本気で解決してほしい。
逆行する民間委託
大阪市公立保育所の保育士=子どもや親の生活が大変しんどくなり、早寝早起き、朝はしっかり食べようね、というのがなかなかできない。早く寝ないとだめと一律に言っても、ストレスを溜めるだけという労働実態がある。 大阪市はこの4月に保育所の再編整備計画を出し、50カ所も民間委託という少子化対策と逆行する施策を進めようとしている。民間委託に反対する運動、保育・学童保育を充実させる運動を、頑張って進めていきたい。
大阪市大正区の女性=10年以上前に結成した「子育て教育ネットワーク」を再開した。保育士、小中高の先生、新婦人、学童保育の指導員、父母などが月に1度会議、8月にはサマースクール、12月にはもちつき大会をした。 今の子どもたちは集団で遊んだり何かするということが少ない。先生と父母が手をつなぐことが大事だと感じている。
11歳と3歳の子を持つ港区の女性=働いているお母さんや一人親家庭が多い中で、仕事と家、保育所しかいけないお母さんがたくさんいる。そんな中で、母親同士の悩みを話し合う機会も友達もないという人も結構いる。ネットワークが大事だと思うがどうしたらいいか分からず、みんなが寝た後ひたすらパソコンに向かっている。働いているお母さん同士の悩みなど共感し合いたい。
職場環境の整備を
8歳と1歳の子を持つ此花区の女性=12年勤めた職場を出産を機に辞めた。産休と育休を取ろうと職場に願い出たとき、会社要覧には全部完備と書いてあるのに、総務に「取った人は今までにいない」と言われた。それでも上司に掛け合って頑張って復職すると、周りから「あんた何でそこまで赤ちゃん預けて働くの?」と言われた。今、ベビーカーを押して女の子2人も連れてたら、「2人も連れてえらいなあ」と言われる。これまで屈辱的に思っていたことは何だったのと思いながら、3人目を産むかどうかと思っている。
会場からの発言を受けてパネリストの発言
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会場からの発言を受けて最後にパネリストの各氏が発言。長岡さんは、夫婦の両親などさまざまな人に支えられて子育てしている日常や、赤ちゃんマッサージのグループをつくって交流していることを紹介しながら、3人目の子どももほしいが、困難な現実があることも語りました。
植木さんは、若い世代で性感染症が広がっている現状をあらためて指摘するとともに、「女性の働きやすさは男性の働きやすさにも通じる。全体に長時間労働ではだめ」と強調しました。
小林議員は「子育てが楽しい」という思いを保障するには生活と雇用の安定が必要だと指摘。政府与党が狙う労働契約法制を許さず、重大局面を迎えている教育基本法改悪に反対する世論を集中しようと呼び掛けました。
藤井教授は3人の子育ての経験を紹介しながら、今、家と仕事と保育所の3カ所を往き来する日々の親たちの現状に触れて、「身近なところで、子育ての本音を語れる場をつくることが大事」と述べました。
宮本氏は、国際的な意識調査で、日本では「私が他の人に劣らず価値のある人間と思う」と感じているのは子どもたちの3分の1しかないことを紹介。子どもが大切にされる社会へ政治を大本から変えていく取り組みと同時に、保育や医療の充実、地域の子育てネットワークづくりなど今すぐできる運動を広げたいと語りました。
山下よしき副委員長の主催者あいさつから
冒頭の主催者あいさつで、元参議院議員の山下よしき党府委員会副委員長は、「先進国で出生率が下がり続けているのは日本だけ。特に大阪は出生率が1・16と全国ワースト5。児童虐待は年間3800件を超えて全国一高い。これが100年続くと人口が半減することになる」と述べ、どうすれば打開できるか一緒に考えていければと呼び掛けました。
投稿者 jcposaka : 2006年11月11日