「希望の国」なのか、国民生活破壊の道なのか
―――――大阪の実態から日本経団連の経労委報告をみる―――― 日本共産党大阪府委員会 労働部長 伊藤 定
昨年12月に日本経団連が07年版経営労働政策委員会報告「イノベーションを切り拓く新たな働き方の推進を」を発表しました。この報告は、「『いざなぎ景気』を超える拡大期間を記録したが、先行きは決して楽観できない」と「国際競争力」論で危機感を煽(あお)りながら、「多様かつ柔軟な働き方を可能とする選択肢を用意する」として、非正規雇用の拡大と低賃金による無法な雇用形態の常態化をねらっています。
社会問題になった「偽装請負」などについても「法律で一律に規定することは適当でない」と無法を合法化する意図を明らかにし、野放しになっている長時間労働についても「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入を打ち出しました。
春闘について「賃金水準を一律に上げる余地はない」として賃上げ抑制を説いています。こうしたむき出しの資本の論理にたいして、企業の社会的責任の追及の声があがっています。
“大企業は儲けを国民に還元すべき”が国民の声
財界・大企業の横暴とそれを応援する自民党政治のもとで、ワーキングプア ― まじめに働いても生活保護水準以下の生活しかできない貧困層が10世帯に1世帯、400万世帯を超えて広がっています。大阪府下の生活保護世帯は154,541世帯、220,540人にものぼり97年の2.5倍に、西成区では、17,969世帯、20,426人と15%の世帯にまで広がっています。住民のくらし破壊がすすんでいます。
「自民党雇用・生活調査会」事務局長の後藤田正純氏は、雑誌『エコノミスト』(1月9日号)のインタビューで「健全な労働市場と消費社会がなければ、経済社会の安定はない」「経済界は、まだ金儲けが必要なのか。市場万能主義を主張する時期は終わりを告げている」との発言を載せました。また新年に安部総理が、経済3団体の新年祝賀パーティのあいさつで「景気回復を家計にも広げる1年にしたい」と賃上げを暗にもとめる(1.6朝日)など、一斉地方選挙と参議院選挙を意識しての発言とはいえ、「大企業は儲けを国民に還元すべき」という社会の要望に耳を傾けざるをえない状況が生まれています。
ところが経労委報告では「生産性向上の如何にかかわらず、賃金水準を底上げするベースアップはあり得ない」として拒否しています。『いざなぎ景気』の時は、賃金が10年間で4倍以上になったことと比較しても、今回は大企業だけが利益をためこんでいます。
大阪に本社をもつ資本金100億以上の大企業138社の06年度の内部留保額は33兆4,924億円にものぼり、05年度から1年間で8兆4,274億円を積み上げ、過去最高の内部留保額です。138社のすべての従業員(47万9,677人)に1万円の賃上げを実現するには815億4,509万円、内部留保をわずか0.25%取り崩すだけで可能です。また、大阪のパート労働者などすべての非正規労働者(139万人)に時給100円(週15時間労働)を還元するために必要な取り崩しは1,084億円、0.32%に過ぎません。(大阪労連ビクトリーマップ調べ)
雇用の破壊、長時間労働、低賃金もいっそう深刻に
雇用破壊の進行も深刻な状況です。マスコミ各紙が取り上げた松下プラズマの吉岡さん(偽装請負問題でたたかっている)の例を通じて、家電メーカーでの実態は多くの人々に知られていますが、その他の業種でも、JR西日本などの鉄道、また航空関係の下請け工場での違法な「偽装請負」の横行も取りざたされています。また郵便局のユーメイトが最低賃金スレスレのうえ、4時間〜6時間勤務では生活できない、養護学級介助員の時間給が750円で健康保険もないなど、「雇用破壊」をテコにした「賃金破壊」がすすんでいます。
サービス残業(不払い残業)も蔓延しています。この問題ではこの間、日本共産党や労働組合のたたかいもあって、大阪における残業未払いを労基署と一緒に支払わせた額は05年度で41億7,800万円、01年度から5年間に103億円にも達しています。しかし、これは氷山の一角にしか過ぎません。
ところが、経労委報告は労基法違反状態を「企業の労使自治にゆだねるべき」だとして「無法地帯化せよ」と飽くなき利潤追求をしようとしています。さらに、経団連は、ホワイトカラーエグゼンプション(労働時間規制の適用除外制度)=“長時間労働野放し、残業代取り上げ制度”導入など労働時間規制の撤廃を打ち出しています。
すすむ健康破壊
また、長時間・過密労働が原因でメンタルヘルス不全について深刻な状況も広がっています。大阪府庁の職場では、「7日以上の病休者のうちメンタルヘルスが原因の病休者がトップを占め、平成15年度20.7%、平成16年度24.3%、平成17年度25.5%と年々増加し、休職期間が長期化しているのが特徴」と組合機関紙で掲載しています。JR西日本大阪支社では、メンタルヘルスで病院に行っている人が60人以上、何らかのストレスで病院通いや薬を併用しながら勤務している人は300人を越える実態(労働組合調査)になっています。経団連が「社会への貢献を果たす『公徳心』」をいうならば、こうした点こそただすべきではないでしょうか。
最後に、経団連は「規制改革とは、競争条件を公正・公平な形に整える」と強調していますが、JR福知山線事故やタクシーの相次ぐ事故、トラック事故、自動車産業での相次ぐリコール、不二家事件など、どの問題を取ってみても、規制緩和が弱肉強食・ルール破りの不公正競争を助長し、国民の安全や安心が破壊されていることは明らかではないでしょうか。
投稿者 jcposaka : 2007年02月02日