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シリーズ 明日をみつめて 貧困打開への道A 胸が締め付けられる子どもたちのシグナル

2008年03月06日

赤ちゃんの体重が急激に減った

  「増えているはずの赤ちゃんの体重が急激に減っていることにがくぜんとしました」。 北摂地域のケースワーカーの女性 (39) が、 生後8カ月の女児と暮らす女性 (22) の木造アパートを訪ねた日を振り返ります。
 夫の暴力から逃れて暮らす女性は、 派遣先企業の社員に暴言を浴びせられ、 うつ状態に。 失業をきっかけに保育園に行くこともできず、 間もなくミルクも買えない状況に追い込まれたと言います。
 大阪南部、 未婚の女性 (21) と生後間もない男の子が暮らす文化住宅の2階。 「最初に訪問した日、 玄関から異臭が漂い、 床にはごみが散乱。 床に置かれた真っ黒に汚れたカセットコンロが唯一の調理器具。 湯あみさえできない状態でした」。 保健師の春野陽子さん (47) =仮名=は、 週に何度も女性を訪問し育児指導を継続。 ところが6カ月を過ぎたころ、 赤ちゃんの体重がガクンと落ち込みました。 母子を支えてきた50代の祖父が失業、 短期間のうちにミルク代さえ払えない状態になっていました。

ワクチン接種も受けられない 

  「98年を境に母子家庭や10代の母親、 父親の不安定就労、 さらにDVや児童虐待など問題を抱えるケースが急速に目立つようになりました」。 年間平均500人が出産するクリニックで14年間、 子どもの健康指導や発達支援にかかわってきた春野さんが指摘します。
 このクリニックでは92年に0・5% (出産数650) だった母子家庭の割合が、 98年には3・7% (同590)、 02年には6・7% (同464) に上昇。
  「格差社会のゆがみが、 子どもの健康と発達に重大な影響を与えている」。 その例証として春野さんは、 ワクチン接種を受けられない子どもが増えている問題を指摘します。
  「気になる家庭を訪問して母子手帳を見せてもらうと、 BCGや1回目のポリオぐらいは受けていても、 DPTや麻疹、 風疹の接種は少なく、 有料のおたふくかぜや水ぼうそうは皆無の例も。 予防医学で先進だった日本が、 今はワクチン後進国です。 弱い立場の子どもたちを守るために、 今すぐ手を打たなければなりません」

母親が昼夜働き詰めの果てに 

 私、 頑張れるから…。 小さな声が朝の保健室に響きました。 昨夜からの発熱を我慢して登校した小学1年生のA子さん (7) が出した体温計は、 38度を超えていました。
 お母さんに電話しないで。 養護教諭の杉本弘子さん (53) =仮名=を見つめてそう訴えた次の瞬間、 A子さんの瞳から大粒の涙があふれ、 ポロポロとほおを伝っていきました。
  「派遣社員として朝早くから夜遅くまで働く母親に、 迷惑をかけたくなかったのでしょう。 つらいはずなのに我慢する姿に、 胸が締め付けられる思いでした」 (杉本さん)
 同じ小学校の4年生B君は中学生、 保育園児の兄弟と母の4人家族。
 母親は家計を維持するために、 ダブルワークで昼夜働き詰めでした。 末っ子が病気の時は、 母親の代わりにB君が学校を休んで看病、 兄と一緒に保育園にお迎えに行きました。
 いつも 「気丈」 に振る舞っていた母親が、 過労で倒れるとたちまち暮らしは困窮、 ほどなく電気やガスがストップ。 学校や行政関係者が連携し、 子どもたちは児童施設に入所し、 母親は現在、 生活保護を受給しながら、 社会復帰に向けて治療を続けています。

子どもの声なき叫びに耳澄まし

 97〜98年にかけて税や社会保障負担の引き上げ、 さらに労働法制の改悪による雇用環境の悪化など、 国民生活の各分野に貧困を広げる重大な事態が引き起こされました。
 消費税率は97年4月から5%となり、 同年9月から健康保険本人の定率負担が1割から2割に (03年に3割負担に) 引き上げられました。
 97年6月に労働基準法の女性保護規定が撤廃され、 男性賃金の約半分の女性労働者も深夜、 時間外、 休日労働が可能に。 過労死を生む過酷な男性の働き方が、 そのまま女性に適用されました。 98年までの5年間で女性正社員は20万人減る一方、 派遣社員は9万人増の約2倍に。 国内の自殺者が3万人を超えたのが98年。 それ以降、 9年連続で3万人以上が自ら命を絶っています。
 朝から保健室の前の廊下は、 子どもたちが脱いだ上靴で真っ白になるぐらいいっぱいです。 杉本さんは、 「子どもたちが発するサインは大人社会へのシグナル。 その声なき叫びに耳を澄まし、 まさにいじめのような貧困と社会格差の構図を変えなければ」 と話します。

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投稿者 jcposaka : 2008年03月06日

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