糖尿病35 肝臓・胆嚢・膵臓の病気
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「こんにちは、 Mさん、 お変わりない?」
「変わらんとやってまっせ」
「そやな、 Mさん、 まめやもんな」
大正生まれのMさんと出会って数年になる。 肝硬変で入院して糖尿病も悪いのが分かって、 インスリンを打ち出して退院後という時期であった。 子どもの拳ほどもある背中の粉瘤 (脂肪の塊) が感染していたのを処置しようと搾り出したものだからたまらない。 診察室は猛烈な異臭で充満し、 勢いよく飛び出した膿と冷や汗で、 私もぐしょぐしょになってしまった。
「えらい目に遭わせてしもてすんまへん」 と恐縮するMさんの姿が浮かんでくる。 血糖が上がらないように、 と工夫した特殊な食事を自分のために作っていたMさん。 肝臓のためにも栄養は大事と普通に3食を食べることと、 肝臓をもたせるためにもインスリンをきっちり効かせることの大切さを説明した。
糖代謝の最大の舞台
肝臓は糖代謝の最大の舞台といえる。 小腸から吸収されたブドウ糖と膵臓から分泌されたインスリンはまず肝臓に流れ込む。 1回肝臓を通り過ぎる間に、 インスリンの働きで余分なブドウ糖はほぼ肝臓の細胞に取り込まれ、 肝臓から出ていく血液の中のブドウ糖は正常レベルまで下げられている。
肝硬変で肝臓の細胞が弱ってブドウ糖を取り込む力が弱ってしまうと、 いくらインスリンがあっても食後の血糖はおそろしく高くなる。 高血糖は膵臓を弱らせてインスリンの出が減ってくる。 この悪循環を切るためには超速攻型と呼ばれる食後の血糖を下げるインスリンを食事毎に打つことが必要になる。
もう1つ肝硬変があるときの糖尿病をややこしくすることがある。 グリコヘモグロビンが異常に低いことが多いのだ。 肝臓が慢性に弱って硬くなっていく肝硬変では、 血液が肝臓を流れる時の抵抗が大きいので脾臓が腫れてくる。 脾臓は血液の清掃工場の働きをしているので、 脾臓が大きくなると血液の成分を早めに壊してしまうために赤血球の寿命も短くなってくる。 若い赤血球が増えるとブドウ糖が結合したグリコヘモグロビンが減ってしまい、 糖尿病の程度を反映しにくい、 ということになる。
「朝ごはん食べて2時間だね、 Mさん。 血糖が329でグリコヘモグロビンが4・9%か、 3%ほど低めだね」。 グリコヘモグロビンを目安にすると、 肝硬変のある人の糖尿病は過小評価されてしまい、 治療のタイミングを遅らせてしまうことになる。
インスリンで長生き
腰痛のある奥さんを手伝って掃除と洗濯を受け持つMさんは、 毎日血糖を測りながらインスリンを打って、 障害のある子どものために少しでも長く元気で生きるんだ、 と踏ん張っている。
「Nさん、 お食事召し上がってます?」 「はい、 おいしゅうございます」。 Nさんは昭和一けたのおしゃれなおばあちゃんだ。 「やせてしまって、 見苦しくて。 どうしたら太るんでしょうね」 とうらやましくなるせりふではある。 数年前膵臓がんで手術したNさんは元気になって、 食事はそこそこ食べているのにどんどんやせていった。 切り取られて小さくなった膵臓から分泌されるインスリンが減ってきて糖尿病が悪化してきたのだ。
糖尿病のために入院して1日4回のインスリン注射を始めたが、 食事時間の間隔が長いと低血糖になる。 毎日寝る前におやつが出てきて眼を丸くしていた。 「それがねえ、 たこ焼きが出てきたこともあるんですよ」。 何とか食べさせたい、 と工夫した栄養士さんの顔が浮かぶ話である。
小さくなった膵臓を応援するインスリンさえきっちり打てば大丈夫です、 ともかくしっかり食べましょう、 ともう数年。 10`近くは増えたようだがそれでも超スリムでおしゃれなNさん。 去年乳がんの手術をした娘さんを気遣いながら、 2人で温泉旅行をされるようになった。
「病気が親子の時間をくれたんですね。 お2人でしっかり楽しんでくださいね」
(いのうえ・あけみ 耳原老松診療所糖尿病専門医)
右のわき腹を、 拳を作ってどんどんとたたいてみてください。 次は左を。 どちらが痛いですか?ここが肝臓です
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投稿者 jcposaka : 2008年12月04日
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