編集長のわくわくインタビュー 前進座女優 妻倉和子さん
阿国ってどんな人ですか? 私の理想の女性・女優です
1月3日から京都・南座で開かれる前進座初春特別公演 『出雲の阿国』 (有吉佐和子原作、 津上忠脚色、 鈴木龍男演出) で主人公・阿国を演じる妻倉和子さん。 前進座の財産演目の一つとして、 長年いまむらいずみさんが演じてきた阿国を引き継いだのが2002年。 これまでに100を超える舞台を踏み、 「いつも体当たりで命懸けで演じてきた」 と語る妻倉さんに、 作品への思いなど聞きました。 (聞き手 佐藤圭子編集長)
18年前、 山本周五郎の 『赤ひげ』 のおゆみ役をやられた時にインタビューさせていただいたんですが、 当時からとてもサバサバしておられて女前な方でした。 その後、 阿国をされることになり妻倉さんにぴったりの役だと。 妻倉 ご覧いただいたお客様からも、 「すごい似おてるわー」 と言われるんです (笑い)。 有吉先生の作品に出てくる女性は、 『紀ノ川』 などもそうですが、 一本筋の通った女性が多いんですね。 私も色気で迫る役よりそういう役どころのほうが好きだし、 何より阿国さんというのは芸と踊りに対して情熱的で、 すごく真摯 (しんし) な態度で突き進んだ方。 私にとっては理想的な女性であり女優です。 阿国は踊りの名手として一世を風靡 (ふうび) し、 秀吉様からも天下一阿国歌舞伎という称号をいただき、 淀君様の前でも踊るようになりますが、 偉い方の前で踊っても御簾内 (みすうち) の向こうで笑い声も拍手もない。 だけど河原の民衆の前で踊ると、 汗水垂らして働いて得た銭を握りしめて木戸銭を払ってくださり、 心から楽しんで唱和してくれたり手拍子してくださる。 そういう人たちの前でこそ踊りたいと、 阿国は出世志向の座員とたもとを分かって自分の道を進むんですね。 『出雲の阿国』 はこれまでいろんな方が演じてこられましたよね。 妻倉 ええ。 特に京の都で華やかに踊るところはとても有名で、 さまざまな舞踊にもなり歌舞伎にもなっています。 有吉さんは阿国を、 奥出雲の製鉄所鑢 (たたら) の職人の娘という設定にして、 炎のような情熱を持った出自であることと、 芸に対して情熱を持った女性とをかけて書いておられます。前進座はそこをやらないと
それで、 阿国がさまざまなことがあって出雲に久しぶりに帰った時、 出雲平野の真ん中を流れる斐伊 (ひい) 川が頻繁に洪水を起こすことと、 その原因が製鉄した後の砂を下流に垂れ流していたことだと知って、 その土地の長に嘆願に行く。
それも原作にあるんですが、 お芝居に仕立てるとあまり華やかじゃないし、 大変なのでやらない場合が多いんですね。 でも前進座はそこをやらないと阿国ではないということで、 鑢の長に嘆願しに行くところに阿国の生きざまを表しているんです。
妻倉さんの一番のお気に入りのシーンはどこですか?
妻倉 やっぱり鑢の長田部荘兵衛の元へ嘆願に行く場面です。 荘兵衛の前で躍った後、 かなり息が上がっているところでピタッと土下座して、 「お願いがござりまする!」 と言って斐伊川の砂止めを願い出るシーン。 身体的にもものすごくハードで、 かなり長ゼリフなんですがここが一番好きで、 セリフも最初に覚えました。
「阿国とやら、 よう踊った。 褒美を取らしょうぞ、 何なりと言うてみよ」 と荘兵衛に言われ、 阿国は控えめに2つのことを言うんですが、 「なんだそれだけか」 と荘兵衛が豪快に笑うのを止めるように、 「いま1つ、 大事な願いがござります」 と言って本題に入っていくんです。
相手は徳川のお殿様にも顔が利き、 下手したら手打ちにいたすと言われる可能性もある。 「何じゃ?」 と言われた後、 非常に緊迫した中で、 砂止めを願い上げるまでの間合いは、 その日の舞台によって違うんですよ。 ハッと見据えた向こうとの息で、 すぐに言える日もあれば、 ひと呼吸置いて言う日もあるんです。
苦しみを芸に転化した阿国
なるほどー。 その日その日がまさに相手との真剣勝負なんですね。
阿国から妻倉さん自身が得られたものは何ですか?
妻倉 1つ1つのセリフや生きざまが、 演劇人として共通することが多々あるんです。 たとえば阿国は、 夫の三九郎からも、 妹分としてかわいがってきたお菊からも二重三重の裏切りを受けるんですが、 私なら三晩ぐらいやけ酒飲んで立ち直れないだろうと思うような状況です。 ところが阿国は、 失意のどん底にいる時にも、 ふと雨音が聞こえてくると、 「この雨の音で踊れるか」 と、 表現のほうに入っていく。 苦しみを芸に転化して不死鳥のように立ち直っていくんですね。
すでに100ステージを越されたということですが。
妻倉 3時間ほとんど出ずっぱり、 踊って歌って、 おしまいにいけばいくほどパワフルになっていきます。 2002年から務めさせていただいていますが、 毎回、 この公演で最後だという思いで、 「もうこれで死んでもいい」 と体当たりでやらせていただいています。 1つの作品が終わるといつも満足感とやり残した部分への思いと両方残りますが、 再度、 阿国に挑戦できること、 しかも阿国歌舞伎発祥の地にある南座でやらせていただけるのは役者冥利 (みょうり) に尽きますね。
今回は南座の舞台機構も駆使して、 装置も衣装もお正月らしくさらに華やかにします。
4回生の夏にこの道を選ぶ
妻倉さんは学生時代に見た山本周五郎の 『さぶ』 がきっかけで前進座に入られたんでしたよね。
妻倉 そうです。 小さいころから、 家族がみんな演劇が好きでよく芝居に連れて行ってもらいました。 大学に入ってからも、 自分のお小遣いで週に数本、 宝塚歌劇からミュージカル、 歌舞伎、 新派といろんなお芝居を観ていました。
ある日、 大学の先輩からチケットをもらって見てみると前進座の 「さぶ」 でした。 それまで前進座だけは、 古臭そうでカビ臭そうで説教臭そうで、 自分からお金を出して見る気がしなかった (笑い)。 義理で行って、 1幕見て、 あと適当に良かったと言っときゃいいやって行ったんですが、 実際見たら、 1幕どころか2幕、 3幕も席を立てず、 3幕のどんちょうが下りた時には涙もボロボロ、 うろこもポロポロ。 生きた等身大の人間模様と心のひだががんがん伝わってきて、 周五郎もすごい、 前進座もすごいと。 それで4回生の春休みに前進座の養成所を受けて、 夏に中退してこの道を選んだんです。 家族もびっくりしてましたが、 「仕方ないなあ。 自分たちがそうやって育てちゃったからなあ」 と (笑い)。
今後の夢は?
妻倉 森光子さんの 『放浪記』 じゃないですが、 体力づくりも健康づくりもして、 続けられるところまで妻倉の阿国をやり続けていけたら。
それと、 若いころは苦手な役だと、 のたうちまわって苦しみましたが、 自分では不得意だと思っていた分野も、 苦しめば苦しむほど自分の芸域が広がると考えられるようになって、 いまではどんな役でもやってみたいと思えるように。
前進座は、 現代劇からミュージカル、 歌舞伎、 古典から赤毛もの (翻訳もの) まで幅広く取り組めるし、 これからも庶民の目線から、 庶民の心に寄り添った作品を幅広く取り組んでいきたいですね。
前進座初春特別公演 『出雲の阿国』 1月3日 (土) 〜22日 (木) 京都・南座。 昼の部11時、 夜の部4時。 料金=特別席1万4千円、 1等席1万2500円、 2等席6500円、 3等席4千円。 問い合わせ・申し込み先075・561・6300前進座京都営業所。
日本共産党後援会新春観劇のつどい 1月3日 (土) 午後4時、 南座。 料金=特別席9千円、 1等席7500円、 6千円、 2等席4千円。 申し込み先06・6768・8103府後援会 「前進座」 観る会。
つまくら・かずこ 東京都出身。 舞台芸術学院本科を経て前進座付属養成所 (9期) を卒業、 1980年4月、 前進座に入団。 『出雲の阿国』 阿国のほか、 『羅生門』 の沙金、 『ベニスの商人』 のポーシャ、 『赤ひげ』 のおゆみ、 『おれの足音』 の大石りくなどに出演。
投稿者 jcposaka : 2008年12月19日