>>>ひとつ前のページへトップページへ

編集長のわくわくインタビュー  「笑顔の奥につらい体験が…」 歌手 円広志(まどか・ひろし)さん「涙の熱さに俺、生きてるって」

2009年03月26日

 不安や孤独感に襲われ、時には発作を起こすパニック障害。日本にも数十万人いるといわれるこの病気と10年来つきあい続けてきた歌手の円広志さんが、これまでの体験を『僕はもう、一生分泣いた〜パニック障害からの脱出』(日本文芸社)にまとめました。「同じ病気で悩む人たちの励ましになれば」と語る円さんを、生番組に出演された後、テレビ局に訪ねました。(聞き手 佐藤圭子編集長)

 ご本、読ませていただきました。健康には人一倍自信のあった円さんが1999年に突然、体のふらつきを覚えられて、その後、高速道路でブレーキを踏んでるのに景色が動いて見えたり、呼吸ができなくなったり。

 それでも我慢して仕事を続けられて、発症後8カ月でギブアップ。すべてのテレビ番組を降板し療養生活に入られたとのことですが、「探偵ナイトスクープ」(朝日放送の人気番組)ではいつも元気な歌声(テーマソング)を聞くし(笑い)、当時、テレビで拝見していた笑顔の奥に、こんな苦しい姿があったとは知りませんでした。 円 そうなんです。  パニック障害は本人にとってはすごくつらく、苦しい病気ですが、なかなか周りの人には理解されにくく、僕自身も、病気のことを公表してない時には「わがまま病」と言われたりもしました。  パニック障害というのは強い不安感を持つ精神疾患で、何の前触れもなく突然パニックの発作が始まるといわれています。そして発作が再発するのではないかとい不安に襲われて症状が慢性化して、特に高い所や、狭い空間、暗闇とかを極度に恐れるんですね。  僕の場合、最初は逃げ場にしていたトイレまで、扉を閉めてできなくなったし、これを下りてしまったらもう二度と上がれなくなるかも知れないという不安から、下り坂も下りられなくないこともありました。とにかく一人でいるのが不安で、ずっと妻に手をつないでもらっていました。 この本は、インタビューをまとめられとのことですが、当時のことを話されること自体が大変だったようですね。 円 ええ。本当は去年の夏に出版するつもりで始めたんですが、病状はずいぶん良くなったものの、いざ話し始めてみると、当時の苦しかったことを思い出してすぐしんどくなる。それで何回にも分けて、少しずつしか話せなかったので、ずいぶん延びたんです。  同じ病気でも、僕よりも症状が軽い人もいれば、ずっと重い人もいます。だけど僕の場合はこうでしたと知らせ、そしていまもこの病気とつきあいながら仕事をしている僕の姿を見てもらうことで、同じ病気に悩んでいる人に少しでも希望を持って生きてもらえたらと思って本を出したんです。 最初はどのお医者さんに行っても原因が分からず、やっと「あなたの病気はパニック障害と思われる」と診断された時はどうでしたか? 円 聞いたこともない病気でしたが、それまでは得体の知れん不安や恐怖に苦しんでいたでしょう。いまから考えたら原因が分からん時が一番つらかった。40代半ばで、50歳まで絶対、生きられへんと思ってましたから。だけど病名を聞いた途端、ああ、病気なんやったら絶対治る。薬飲んだら治るんやと確信持てるようになって、ずいぶん楽になりました。 パニック障害はだれがなっても不思議でないとご本の中でもおっしゃっていますね。実際、円さんのことを「病気になったのは、精神が弱いから」と話しておられたお友達も発症されたと。  ええ。僕にそう言った後、しばらく会わんなあと思ってたら、「おれもパニック障害になってた」と。  僕の場合は、寝不足と過労、過度のストレスのせいだと思っています。原因は人それぞれいろいろあるでしょうが、許容量が超えた時に、人間誰でもなりうるし、とくに几帳面で繊細な感受性の人はなりやすいと思います。  本にも書きましたけど、黒柳徹子さんの「徹子の部屋」に出た時に病気のことを話したんですけど、番組が終わってからも話し込んで、僕が、島に行くのが好きやという話とかしてると、黒柳さんが、「マンモスの時代にはなかった病気ね」と言われました。ほんまに太古の時代にはなかった病気やと思います。現代はそれだけ人間が生きにくい時代になってるんですね。 病気になって得たこともあると。「虹をつかんで」というオリジナル曲の中に、「無くしてばかりの人生だと嘆いていたね/涙の熱さに気付いたらめっけもんだよ」という下りがありますね。  ええ。この病気になって、自分が生きてることも実感できないことがありました。とにかくすぐ泣くようにもなった。それである日、目から流れてくる涙の熱さに、「あっ、俺、生きてるわ」と思えたんです。  ものごとって、考える角度を変えたらぜんぜん変わって見えることがあるでしょう。  たとえば日本では1年のうち雨の日が結構多いですが、雨が嫌いな人は雨の日は楽しくない。だけど、遠くにかすむ街とか、静けさとか、雨の日も好きになったら人生楽しくなる。  いまもレギュラー番組で、1週間に1度、1日5、6時間歩くロケがあるんですけど、それを、なんでこんなしんどいことやるんやと思うのでなく、「あーいい運動になるわ」と思えたらぜんぜん違うんですね。マイナス面でなくプラス面を探すようになることが大事やと。  病気になって失ったものもあるけど、それまで感じなかったことを感じるようになれたことは、大きな収穫でした。 円さんが、自らパニック障害であることを公表されたことで、同じ病気に悩んでおられる方にも大きな励ましになってるようですね。  テレビで公表したら相談が殺到しました。「私も同じ病気です」という人も多かった。  偏見を持たれやすいこの病気ですが、たとえば「パニック障害やから車、スピード出し過ぎんといて」とか「話短めにして」とか当たり前のように言えるような社会になってほしいし、パニック障害でも普通の人と同じ仕事ができるということも知ってほしい。  そして同じ病気に悩む人には、この障害で死んだ人はいないこと、パニック障害は絶対治るということを知ってもらいたいですね。  いつか、パニ友の会をつくって、「俺はこんなんやった」とかお互いに交流できるようにしてみたいですね。

(プロフィール)
まどか・ひろし 195年高知県生まれ。78年、「夢想花」で第16回ヤマハポピュラーコンテストグランプリ受賞しデビュー。以後、森昌子の歌う「越冬つばめ」はじめ、数多くのアーティストに楽曲を提供。テレビ番組でもタレントとして活躍。現在のレギュラー番組は「クイズ!紳助くん」「ナンボDEなんぼ」「よ〜いドン!」など。99年にパニック障害を発症。一時期、テレビ番組をすべて降板、療養に入る。現在も病気とつきあいながら、以前と同様、仕事をこなしている。

投稿者 jcposaka : 2009年03月26日

トップページへ ひとつ前のページへ ページ最上部へ
ご意見・ご要望はこちらから