大阪府政をつぶすのか 橋下府政2年 (4)府政を動かすのは誰か
シリーズの最後に、橋下府政の2年を振り返って担当記者で語り合いました。
世論を背景に強権的手法に
A 就任2年を迎えた橋下知事の支持率は70〜80%という異常な高率だ。橋下府政が始まった当初から、強権的な手法で「行革」を進めてきたが、そもそも府庁WTC移転などという計画を持ち出せるのも、高い支持率に示される「世論」を背景にしてのことだ。
B 昨年2月府議会では移転条例案もWTCビルの購入予算案(債務負担行為)も大差で否決され、府民の代表である府議会は「ノー」の意思を鮮明にした。それなのに移転案を再提案すること自体、常識では考えられないやり方だ。 C 昨年9月府議会では移転条例案は再び否決されたが、ビルの「購入予約」である債務負担行為は可決された。最終盤には橋下知事が、賛成に回るよう公明党などに脅しを掛けたようだが、「橋下人気」を圧力にしたのだろう。 A マスコミの世論調査では個別の政策に対する支持は低いのが特徴で、知事の思惑どおりにことが進んでいるわけではない。特に「財政再建」の目標である「府庁解体・関西州づくり」では、矛盾が明らかになっている。 B 府営水道事業を大阪市に丸投げする「コンセッション型指定管理者方式」で橋下知事も平松市長も合意していたが、市町村からは不安や反発が噴出し、撤回を余儀なくされた。 C 府庁WTC移転をてこに、大阪湾ベイエリア地域の再開発を進めるという構想にも矛盾がある。ベイエリア地域は「呼び込み型」開発の失敗の典型だが、橋下知事はこの地域が発展しなかった原因は「アクセスに問題があった」として、阪神高速淀川左岸線の延伸やJR桜島線の延伸を打ち出した。 B ところが、関経連や関西経済同友会も参加する「夢洲・咲洲地区まちづくり推進協議会」がまとめた「活性化策」で「短期的な取り組み」とされているのは、すでに大阪市が計画しているもので、知事が思い描く巨大開発は、20年から30年先の「中長期的な検討課題」となってしまった。 A ことしに入って橋下知事が声高に「府市再編」を叫んでいるのはなぜか。シリーズ㈰で見たように、すでに関西財界がシナリオを書いていたものだが、ベイエリア開発を強引に進めるためにも、府市が一体になる必要があるわけだ。国民要求には「物は申さず」
B 橋下知事を支持する理由で、「国に物を申している」という声も多い。国直轄事業負担金の問題で「ぼったくりバー」などとマスコミ受けするワンフレーズの発言や、最近では国の新しい空港政策をめぐって、関空のハブ空港化や大阪空港の廃止で「命を懸ける」など、政治への国民の怒りが強い中で、国と「対決」する「分かりやすい」イメージがある。
C だが、国民が切実に求めている問題ではどうだろう。民主党政権が、総選挙で公約した後期高齢者医療制度の廃止を4年後に先送りしたことに、怒りが広がっている。橋下知事は昨年2月府議会では「現役世代と高齢者でともに支え合う制度。廃止を国に求めることは考えていない」と述べ、新政権の発足直後の昨年9月府議会でも、「一定の所得のある人には一定の負担を求めなければ、国の財政は破たんする」と、国に対して物を申す姿勢はまったくない。
A 労働者派遣法の抜本改正問題でも、橋下知事は「民間企業は、赤字になったら首が飛ばされる覚悟で頑張っている」などの持論を繰り返し、「自治体が雇用確保を言うなら、まず職員給与を削る覚悟がいる」と公務員攻撃にすり替えてきた。
C 結局、知事が「国に物申す」のは、開発の推進のための権限や税財源の委譲、空港政策であって、府民の暮らしや雇用を守る立場での「対決」や「抗議」はない。安全保障は「国の専管事項」としながら、米軍普天間基地を関空で受け入れる用意があるかのように示唆した発言も重大だ。
政治を変える世論と運動を
B 橋下府政2年間の取材で、忘れられないのは、「大阪の高校生に笑顔をくださいの会」と知事との面談(08年10月23日)だ。「私学助成を減らさないでほしい」と訴える高校生たちに、橋下知事は「いまの日本は、自己責任が原則。それがいやなら、国を変えるか、日本から出るしかない」と言い放った。
C 「自己責任」を強調するのは、まさに新自由主義的な「構造改革」路線そのものだ。「あなたたちが政治家になって変えればよい」とも言った知事の姿に、高校生たちは面談を終えて、「私たちは有権者ではないが、主権者」と堂々と主張したが、それから1年も経たないうちに、軍配は高校生たちに上がったと思う。
B 昨年8月の総選挙で主要政党がすべて教育の無償化を掲げ、新政権が公立高校授業料の無償化を打ち出す中で、全国一高い授業料となっている府の対応が注目された。最終的に府立高校は新年度からエアコン代も含めて無償、私立高校も来年度から年収680万円以下を無償にする考えを知事は表明している。
A 総選挙で自公政権に「退場」を下したのは、「これまでの政治を変えたい」という府民、国民の思いだった。橋下知事が世論を最大の「支持基盤」にする以上、この国民の願いは無視できない。高い支持率という最も強い「武器」こそ、橋下知事のアキレス腱だろう。
投稿者 jcposaka : 2010年02月19日