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日本経済団体連合会の「経営労働政策委員会報告」批判――大阪の状況をふまえて

2010年02月26日

2010年2月24日 日本共産党大阪府委員会労働部 柴田外志明 

 日本経済団体連合会(日本経団連)が、企業側の春闘対策方針である「経営労働政策委員会報告」(以下「報告」という)を発表しました。ことしのテーマは「危機を克服し、新たな成長を切り開く」ですが、「報告」からは、危機を克服する展望が見えません。

日本の経済危機の最大の原因は、外需依存と労働者・中小業者の使い捨てによる内需縮小

 日本経済の危機を深刻にしている最大の原因は、行き過ぎた外需依存と、「国際競争力強化」の名の下で推し進められた賃金の低下や不安定雇用の拡大、大量の非正規切りや中小零細企業などの倒産による失業者の増大などで生活の土台が壊され、国内消費が冷え切っていることにあります。危機の克服にはまず、労働者・国民が安心して働き生活できる雇用と賃金、中小企業の営業と生活を保障する改善を思い切って進め、輸出依存から内需主導の経済に切り替える必要があります。ことしの春闘は、この方向に向かう契機にしなければなりません。

経済危機を引き起こした原因を反省しない「経労委報告」

 「報告」は、こうした社会的な要請に完全に背を向けています。「報告」が主張する中心は、アメリカ中心の輸出から「アジア新興国」をターゲットにした相変わらずの輸出頼みと、「国際競争力強化」のための大企業の新たな成長・発展に向けた規制緩和や大企業減税、FTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)の促進です。その上で、ことしの春闘では、国際競争に勝つには「総額人件費管理の徹底」が必要だとして、ベースアップも一時金(ボーナス)も「困難だ」と言い、人件費総額が変わらない定期昇給の凍結にも踏み込むなど、ひたすら人件費削減を訴えています。さらにFTAやEPAの促進は、日本の農林漁業を破壊に導くものとなり、これではますます内需を冷え込ませ、経済危機の悪循環から抜け出せません。
 今回の「報告」では「非正規切り」に対する社会的批判を受けて「雇用の安定・創出に向けた取り組み」という一章を設けています。しかしその内容は、国の雇用調整助成金制度の活用や賃金・ボーナスのカット、無給の休日や残業規制、配転・出向など、労働者犠牲の「日本型ワークシェアリング」による「雇用確保」を「成果」とし、今後も「一層推し進めていく必要がある」と強調しています。増大する失業者の生活保障については、雇用保険制度の適用拡大など政府頼みの主張を並べるだけです。これでは生活と雇用の不安は募るばかりです。
 労働者派遣法の改正についても、「市場に混乱をもたらす」などと述べ、反対の態度を変えていません。非正規雇用の拡大で貧困と格差を広げたことや大量の非正規切りで失業者を増やしていることに反省もなく、派遣社員の多くが正規雇用を求めているにもかかわらず「需給双方のニーズ」があるなどとして正当化しています。
 チームワークを壊し際限のない労働強化と低賃金化を狙う成果主義賃金については、「短期の個人業績に偏ることなくチームや人材育成の視点を取り入れる」と事実上破たんを認めながらも「仕事・役割・貢献度を機軸とした制度へと見直す」と固執しています。
 最低賃金制度の見直しについては、大企業自らが推し進めている下請企業への大幅な単価切り下げの強要には言及せず、中小零細企業の経営危機を引き起こし、「結果として採用や雇用安定に多大な影響を及ぼす」として最低賃金引き上げに反対しています。さらに、全国一律の「全国最低賃金制度」導入の審議や「特定賃金(旧産業別最低賃金)」についても反対や廃止を求めています。

大企業のため込み過ぎた内部留保の還元で経済危機の打開を

 「報告」は、「企業は、豊かな国民生活に資する財やサービスを提供することで、付加価値を継続的に生み出し、雇用を確保するとともに、その付加価値を賃金や法人税などを通じて社会に還元するという重要な役割を担っている」と述べています。しかし、労働者と中小企業を「使い捨て」にし、国民犠牲の上に一握りの大企業が巨額の内部留保をため込み、内需を冷え込ませ、今日の経済危機を深化させてきたのが実態です。
 大企業には、あり余るほどの体力があります。企業の内部留保は、1998年の209・9兆円から08年の428・6兆円へと10年間で2倍の218・7兆円も積み増しています。一方、雇用者報酬は、この10年間に27兆円も減っています。
 大阪府内でみると、府内に本社を置く、資本金100億円以上の大企業122社を対象に実態を調査した大阪労連の発表では、この10年間で内部留保を1兆9830億円増加させる一方、16万3千人の人減らしを行い、正社員の平均年収は1人当たり31・4万円も削減しています。
 大阪労連は、調査企業の従業員への1万円賃上げが、内部留保を0・29%取り崩すだけで可能だと指摘し、その経済波及効果は531億円にも上ると試算しています。さらに、非正規労働者約130万人の時給100円引き上げについても0・85%の取り崩しで可能としています。
 また、府内の企業倒産件数は09年の1年間に2375件で、08年比227件増えて、倒産の増加件数は全国一です(東京商工リサーチ)。長引く不況の中で、中小企業の多い大阪の深刻な実態がうかがえます。経済の安定した成長のために、大企業の巨額の内部留保を、賃金、雇用の改善、下請け単価の改善、社会保障の充実などに活用すべきです。内部留保は「会計上の概念」で手元にないから「取り崩せない」などとする「報告」の弁明は、大企業の社会的責任をわきまえない無責任なものといえます。

国民的な共同のたたかいで賃上げも雇用も

 政府の「新成長戦略」は、これまでの自民党政治の問題点として、「選ばれた企業のみに富が集中し、中小企業の廃業は増加。……国民全体の所得も向上せず、実感のない成長と需要の低迷が続いた。いわゆる『ワーキングプア』に代表される格差拡大も社会問題化し、国全体の成長力を低下させることになった」と分析しています。イギリスの新聞「フィナンシャル・タイムズ」も、「(日本の)内需主導の成長のためには、企業蓄積を削減させる必要がある」と主張しています。
 「報告」が主張するように、相変わらずの外需依存と賃上げも雇用もかたくなに拒否する姿勢は、「危機克服の展望」どころか一層の経済危機をもたらすことになります。
 2010春闘は、内需主導の経済への転換を目指し、最低賃金を時給1千円に引き上げることや全労働者の賃上げを求めると同時に、非正規社員の正社員化と雇用の拡大、大企業と中小企業との公正な取引のルール確立と下請け単価の改善、社会保障の拡充などのために、大企業の横暴を規制し、巨大な内部留保を吐き出させ、大企業に社会的責任を果たさせる国民的な共同のたたかいを展開していくことが重要です。(しばた・としあき)

投稿者 jcposaka : 2010年02月26日

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