橋下府政「教育こわし」許さず、大阪の学校・教育のあり方を府民と共に考える 大阪教職員組合委員長・田中康寛さんに聞く
先月開かれた大阪教職員組合第179回臨時大会で、2010年度の中央執行委員長に信任された田中康寛さん(52)。4月からの就任を前に、大阪の教育の状況や新委員長としての抱負などを聞きました。
――前任の辻保夫さんの後を継いで8年ぶりの新委員長ですね。
大阪の公立学校の教職員は約5万人ですが、団塊の世代が大量退職し、この5年間で1万7千人以上が新しく採用され、大規模な世代交代の時期を迎えています。激動の情勢の下、たたかう労働組合として大きな出番を迎える中で、これまでの運動を継承発展させながら、組織をさらに大きくしていきたいと思っています。
新政権後の前進と府の「教育こわし」
――2年前の橋下府政誕生、昨年の新政権誕生で大阪の教育はどのように変わりましたか?
昨年の総選挙で新政権が誕生し、教育の分野では国民の声に押されて公立高校授業料不徴収など一歩前進しました。実現の大きな原動力になったのは、国民の声と重ねた私たちの長年のたたかいであり、今後もさらに国民の願いに応える政治を実現させるために、運動の発展がいっそう求められています。
大阪府では、高校生との懇談で自己責任論を展開した橋下知事も、新政権の教育政策の変化、国民の声を無視できず、全国一高かった公立高校授業料を不徴収とし、私学授業料の一部を無償化しました。しかし知事は、これによって公立と私立の高校を競争に駆り立て、学校を淘汰する構想を述べており、危険な動きに注意を払う必要があります。
同時に、今回の府の予算をみると、橋下知事による「教育こわし」がいっそう進められようとしています。
「教育日本一」といいながら、実際には教育予算を大きく削減し、「切り捨て日本一」へ進んでいます。橋下知事が誕生した08年度には350億円、09年201億円、今回32億円と、3年間で583億円もの教育予算が削られました。一般会計に占める教育予算は1984年には35%でしたが、いまは17・6%と半減。削減の大部分が人件費となっています。
橋下知事になる以前からも人件費は減らされ、生徒指導をはじめ学校ごとの府独自の加配教員は全廃されました。これに加えてこの間、正規教員を採用せず、「非常勤に変えれば、1人分で2〜4人を雇える」という「定数くずし」で非正規化が急速に進み、生活さえ維持できない官製ワーキングプアを生み出しています。こうした中で、約5万人の教職員のうち講師の数は常勤・非常勤を合わせて1万1千人となり、だれかが倒れたり、介護休暇などで休んだ場合、代わりの人を配置できず「教育に穴が開く」という、日常の教育活動さえ、まともに保障できない異常な事態に陥っています。
特徴は競争と切り捨ての教育
橋下府政の「教育こわし」の特徴は、競争と切り捨てです。
一部のエリート育成をねらう、進学指導特色校10校には1高校当たり1千万円、合計1億円かけ、ピアノやバレーボールなどで優れた「成果」をあげている専門学科に3千万円の予算を措置するなど、「できる子」だけに大きなお金を注ぎ込む、「えこひいき予算」になっています。公教育は、すべての子どもに公正・公平に教育を保障すべきものです。
さらにすべての子どもを大切にする35人学級の拡充をかたくなに否定し、「できる子」と「できない子」に振り分けて指導を進める習熟度別指導の押し付けに22億円もかけています。橋下知事による小1、2年の35人学級廃止を、府PTA協議会、府小・中学校校長会をはじめ、幅広い府民の共同で押しとどめたように、35人学級の拡充は保護者・府民の切実な願いです。それをしないで、「できない子」を切り捨ててしまう習熟度別指導をいっそう推し進めようとしています。
もう1つ重大なのは、抽出方式へと変わった「全国一斉学力調査」ですが、全国の流れに逆行し、橋下知事は、学校別も公表が可能となる「大阪一斉学力調査」を新たにやろうとしていることです。2年間で1億9千万円ぐらいかけるとしています。このほかにも、中学校の「学力テスト対策」に10億円、府教委が作ったテスト対策用のプリントに5億円と、ずらっと並んだ教育予算はテスト対策ばかりになっています。
また教育力向上プランで数値目標を設け、子どもたちの日常生活や心のあり方まで統制しようとしています。
さらにこうした競争・管理の教育の推進へ、学校訪問して点検する府教委メンバーを増やす予算も組んでいます。
大阪の失業率が全国最悪になるなど、保護者の厳しい雇用と生活状況により、子どもたちの学習と生活をめぐり深刻な状況が続いています。こうした目の前の子どもの生活や発達状況から出発するのが教育の基本です。
なのに橋下知事は、「できる子」にだけ、そしてテストの点数を何点上げるかであらゆる施策を組み、すべての子どもの成長・発達の保障のためではなく、点数を上げるために子どもたちを追い詰めるという逆立ちした教育を進めようとしているのですす。いまの子どもたちに大事なのは、激しい競争の下で、ばらばらにされている人間的なつながりを取り戻し、建て前ではなく、人間らしい本音を豊かにつなぎ、育む、確かな学力と自立の力、自治の力を育てていくことです。そのためには、子どもを主人公に、保護者と教職員が信頼で結ばれる学校づくりを府内各地から進めていくことが重要です。
広がる共同のたたかい確信に
――橋下「教育改革」に対して共同の取り組みも広がってきました。
学力テストの問題では教職員だけでなく、各地教委からも疑問の声が出ています。私たちはこの間、都市教育長協議会や町村教育長協議会などとも懇談を進め、橋下知事の「教育こわし」を許さないたたかいを進めてきました。
こうした中で、授業料無償化と合わせて、高校の入学枠を3千人以上拡大させるなど中学生の進路保障でも大事な前進を勝ち取りました。実際の府民の願い、保護者、子どもたちの願いと結んでいけば、勝手な「教育こわし」も打ち破っていけるという確信を共同の取り組みで深めてきています。
いま求められているのは、競争と管理ではなく、教育の自主性を大事にし、子どもも教職員もいきいきと学び成長しあえるような学校づくりだと思います。教職員の生活と権利を守りながら、同時に教育・学校づくりを共同で進めていく取り組みを大きくしていく。そのためにもさらに大きな大教組を目指して奮闘したいと思います。
たなか・やすひろ
1957年生まれ。高槻の市立中学校で理科教員を務めながら、生徒会顧問として生徒の自治と自立を育む教育に力を注ぐ。大教組中央執行委員、教文部長、書記次長、書記長など歴任。高槻市在住。趣味は渓流釣り。
投稿者 jcposaka : 2010年03月18日