橋下知事「貸金業特区」申請 上限金利29・2%まで緩和.府民以外も対象に 「大阪から多重債務者増やすな」 弁護士・被害者の会が集会
橋下徹知事が、改正貸金業法で規制されたサラ金のグレーゾーン金利を合法化する「貸金業特区」を国に申請していることに対して、大阪弁護士会や日本弁護士連合会、日本司法書士会連合会、大阪司法書士会などが反対の声明を出すなど、批判の声が高まっています。金利引き下げの運動をしてきた大阪クレジット・サラ金被害者の会(大阪いちょうの会)や大阪弁護士会、大阪司法書士会などは「多重債務被害を全国に拡大させる」として2日、大阪市中央区で反対集会を開きました。
改正貸金業法は、年間3万人を超える自殺の要因の一つである多重債務被害と、「腎臓売って返せ」などの一部金融業者の違法な取り立ての問題解決を狙い、ことし6月に完全施行されました。個人向けの無担保貸し付け総額を年収の3分の1に抑える「総量規制」を導入し、グレーゾーン金利(注)も撤廃しました。 民意無視して国に特区申請 同法の完全施行を求める意見書を、府議会は09年10月に全会派一致で採択。府内全市町村も同趣旨の意見書を採択しています。
その民意を無視し、橋下知事は「(改正法は)まったく知恵がない」、「金利は市場に委ねるべき」と主張。「総量規制によって借りられなくなった人がヤミ金に流れる」として、改正法の完全施行から1カ月も経たないことし7月、国に特区申請をしました。政府は今月末に最終回答を提示します。
府の構想は、年15―20%に制限された上限金利を29・2%まで緩和し、個人向けの「総量規制」も撤廃するもの。府内に本店を置く業者が、府内の店舗で融資する際に適用することを想定していますが、借り手を府民に限定しておらず、全国に多重債務被害が広がる恐れがあります。
7月の府多重債務者対策協議会は、府の担当者が弁護士や被害者の会代表に対し「特区に協力していただけないなら、協議会の在り方についても考えなくてはならない」と発言し紛糾、無期限で流会になっています。
集会には約170人が参加。大阪弁護士会の三木秀夫副会長は開会にあたり、「反対ののろしを上げ、アピールしたい」とあいさつ。全国クレジット・サラ金問題対策協議会代表幹事の木村達也弁護士は「こういう発想を打ち出す知事の責任を徹底的に追及していかなければならない」と強調しました。
基調報告した大阪弁護士会の山田治彦弁護士は、構想はヤミ金根絶に向けた「行政の責任放棄だ」と指摘しました。政府が2007年にまとめた「多重債務問題改善プログラム」では、「(改正法によって)借りられなくなった人へのセーフティーネット貸し付けの提供」や「ヤミ金の撲滅に向けた取り締まりの強化」などを、「国・自治体及び関係団体が一体となって実行」することを求めています。
中小向け融資の打ち切りも
府は一方で、中小企業のセーフティーネットである制度融資から手を引こうとしています。
府の「財政構造改革プログラム(素案)」で、中小企業向け融資の安定化を目的にした預託金を金融機関から引き上げ、金融危機や災害時の緊急融資からも手を引くとしています。中小零細業者は直接、金融機関に融資を申し込まなければならず、規模の小さい企業ほど融資が受けにくくなり、大阪商工団体連合会(大商連)などが反対運動を起こしています。
(注)グレーゾーン金利
利息制限法で制限された上限金利を超え、出資法の定める上限金利には満たない金利のこと。貸金業法の改正前は多くのサラ金業者がこの金利で貸し出し、多重債務被害を生んでいました。
利息制限法は、制限を超えた部分の金利を無効にすることを定めています。制限は、元本が10万円未満で年20%、10万円以上100万円未満で年18%、100万円以上で年15%です。
出資法は法改正により、上限金利が29・2%から20%へ引き下げられ、これによりグレーゾーン金利は処罰の対象になりました。
ヤミ金根絶へ 取り締まり強化を
自殺も考えた
借金苦の自殺.年間8千人
法改正前は、罰則を定めた出資法違反すれすれの29・2%という高金利が、業界で常態化し、ヤミ金被害を誘発していました。ヤミ金は、サラ金への返済に苦しむ人を狙い、多重債務に陥れて、当人の家族や友人から現金を集めさせています。
ヤミ金の被害にあった豊中市の男性Aさん(25)は、「金利は10日間で元金の2―3割。返済に困るとタイミングよく別の業者から電話がかかってきた」と話します。社会人になった18歳から約7年間、給与の振り込まれる銀行口座を、ヤミ金業者に押さえられていました。
サラ金に手を出したのは母親。Aさんが小学生の時、ガス配管工の父親が、けがをしたため収入が不安定に。母親は自身のパート収入に加え、大手サラ金業者から30万円を借りて生活費に当てました。
年20%を超える金利で、返済に困るとヤミ金から融資を持ちかけられ、数年で42社から、借金は総額300万円にまで膨らみました。一度は親戚に頼り返済したものの、業者は「まだ元本が残っている」と、母親の職場に嫌がらせの電話を何度もかけました。
Aさんは今春、大阪いちょうの会に相談して解決。「自殺も考えた」と言うAさん。借金が理由の自殺は年間7―8千人と言われています。
投稿者 jcposaka : 2010年09月10日