虐待なくすには 事件受け住民が「集い」 子育て安心≠フ街目指して
大阪市西区
背景に雇用問題も
大阪で、ことしに入って虐待による乳幼児の死亡事件が7件、発生しています。多くの府民や教育・子育て関係者が心を痛め、「2度と起こしたくない」と願っているにもかかわらず、次々に起こる子どもの虐待事件。7月に、3歳と1歳の幼児が食べ物を与えられずに放置され、死んでいたことが明らかになった大阪市西区で、地元住民が「私たちに何ができるのか」「政治の役割は何か」と、「考えるつどい」を開催。「安心して子育てできる街」を目指して、地域からの発信を始めています。
「考えるつどい」は、事件が発生した西区内のマンションの近くに住む、NPO法人「カフェミロ」の松枝克子さんらが呼び掛けたもの。同区民のほか、近隣の行政区や大阪市外などから約70人が参加しました。 呼び掛け人を代表してあいさつした、同区にあるポプラ保育園園長の北田真理子さんは、「非正規雇用で若い世代が苦しみ、離婚も増えている。保育園で一時保育や子育て相談などを行い、虐待をなくすために何ができるか、話し合っている。一人ぼっちの親をなくしていきたい」と語りました。 行政で虐待相談対応を担当したことのあるケースワーカーの男性は、カナダでの対応件数は専門職員1人当たり20人なのに対し、大阪府では100件を超える場合もあると紹介。現場での仕事には「年数や経験が必要」と述べ、専門職員の重要性を訴えました。孤立した子育て
同区在住で、児童虐待防止法の制定に尽力した日本共産党前衆院議員の石井郁子さんは、相次ぐ事件の共通点は、若い世代の親で、経済的な困難や複雑な家族関係を抱え、「孤立した子育て」になっていることだと強調。国や自治体の責務を明記した児童虐待防止法を生かすと同時に、「虐待をなくし、すべての子どもを育て、親をケアできる社会へ、一緒に考えていきましょう」と語りました。
若い世代の参加者からは、「マンションで近所付き合いも少ない中、保育所に子どもを通わせることで結び付きが生まれている」(滋賀県から参加した男性)などの意見も。同党の宮本たけし衆院議員も参加し、「皆さんの知恵から、国会も学ばなければならない」と語りました。
どこでも起こる
同区靱(うつぼ)地区の主任児童員の辻幸子さんは、子育て支援活動に取り組んで9年目になります。辻さんは、「集まりに来ることができない親に、どう手を差し伸べるか、日々悩みながら模索しています。虐待事件は、どこで起きてもおかしくありません。そう考えることが、まずスタートラインになる」と話していました。
専門職増は急務
日本共産党・山本府議が要求
開会中の9月府議会では、代表質問などで全会派が児童虐待問題を採り上げて質問しています。日本共産党の山本陽子議員(大阪市平野区選出)は、7日の一般質問で、虐待事件が多発する要因に「貧困」や「社会的孤立」があると強調。子ども家庭センターの専門職員の抜本的増員をはじめ、虐待対応を抜本的に強化するよう、橋下徹知事に迫りました。
大阪では、ことしに入って虐待による死亡事件が7件発生。全国の児童虐待相談対応件数4万4210件(09年度)のうち、大阪は2番目に多い5436件(前年度比1082件増)。山本議員は、「子どもにとってあまりに残酷な社会」と述べた上で、府がテレビで呼び掛けたことで虐待通報も急増しているが、「問題は対応できる体制があるかどうか」と指摘。府内6カ所の子ども家庭センターのうち、一時保護所が1カ所(定員50人)しかない中、増設や定員拡大を求めました。
府は、同センターの専門職員を08年度と09年度で計9人増員しましたが、1人当たりの対応件数は約80件。中でも虐待対応には非行相談の3倍、心身障害相談の13倍の時間と労力が必要との調査結果も出ています。山本議員は、「昼間働いている職員が、帰宅後も連絡が入れば夜間出勤し、休む間もなく翌朝から業務することもたびたび」(専門職の児童福祉士)との実態を紹介し、各センターに2人ずつ増員するよう、強く要望しました。
橋下知事は、「貧困」「社会的孤立」が虐待の要因であると認めましたが、専門職員の増員をはじめ山本議員の要求には、「増やしたいと思うが、僕は予算全体を見る立場。議員のように何でも増やせというのは楽だ」などと答弁。山本議員は、虐待問題への対応は「現在の最重要課題だ」と力説し、検討を始めるよう求めました。
傷ついた心は決して癒されない
できること常に考え
大阪市西区の虐待事件
シングルマザーの思い
大阪市西区で起きた幼児放置虐待事件。多くの人が「一人の大人として何ができるのか?」と、自らに問い掛けてきました。大阪市北区に1歳5カ月の息子と暮らす、シングルマザーのAさん(34)も、そんな一人。事件や子育ての思いを聞きました。
事件報道後、いても立ってもいられなくて現場のマンションに行って、亡くなった桜子ちゃんと楓ちゃんの冥福を祈りました。幼子の泣き声が聞こえるようで、「なぜ守ってあげなかったの?」と母親への怒りを感じました。
でも考えてみると、「いままでの虐待事件と少し違う」「周りの大人の力があれば絶対に助けられたはず」と思い、インターネット上の日記に事件の感想を書き込むと、30人以上から共感のコメントが寄せられました。
それから毎週必ず現場を訪ね、母子が遊んだという公園に立ったりして、「一人の親、一人の大人として何ができるだろう」と問い続けてきました。
私自身も親から虐待を受けて育ちました。小学2年生のある日、母親が1週間姿を消し、再会した時は再婚相手の男が一緒でした。新しい父親は感情の起伏が激しく、ささいなことで激しい暴力をふるい、次第にエスカレート。母親に訴えても取り合ってくれず、私は13歳のときに家を飛び出し、その後生活の糧を得るためホステスとして働きました。
私が伝えたいのは、虐待を受けた子どもの心です。逃げられず、助けを求めることもできない。自分が受けている暴力の意味も分からず、自分が悪いからだと思い込んでしまいます。傷ついた心は決して癒されない。虐待は決して許されることではないのです。
息子を出産した日のことは忘れられません。最初の陣痛から40時間後に産声を上げました。「この子を全力で守っていこう」と心に誓いました。
いまもホステスとして働いていますが、夕方24時間営業の託児所に子どもを預け、迎えに行くのは朝5時ごろです。
公園で新日本婦人の会の皆さんに声を掛けられたのがきっかけで、大阪市北区で開かれた「子どもを守るつどい」(9月15日)に参加し、その後、虐待根絶を目指す「ひまわり」署名には友人ら200人以上が賛同してくれました。
集いで、日本共産党の石井郁子さんが講演された「子どもを放置することは虐待だが、それを見過ごしてしまった社会そのものが子どもを虐待している」との言葉は、私が探し求めていた答えを示してくれた気がします。
虐待のない社会へ一歩でも近づくために、自分のできることに取り組んでいきたい。
投稿者 jcposaka : 2010年10月16日