9月1日、教育基本条例問題についての党府委員会の見解を発表しました
「教育基本条例案」で大阪の子どもと教育はどうなるのか
――憲法と教育の条理、地方自治の原則からみて
2011年9月1日 日本共産党大阪府委員会文教委員会
いま、子どもと教育をめぐって、貧困の広がりや、解決が望まれるさまざまな教育問題が多くあるなかで、子どもの成長を願う府民と保護者の要求は切実です。
東日本大震災と福島原発事故は、歴代自民党政権とそれに続く民主党政権のもとでの教育政策のあり方をするどく問うものとなっています。被災地での住民と子どもを守る学校教職員と教育行政関係者の奮闘は、あらためて子どもの命を守り成長・発達を保障するという教育の原点の大切さを示しました。いま、「自己責任」論を国民的にのりこえ、温かい社会的連帯を求める大きな変化が生まれています。
こうしたなかで、大阪府の橋下徹知事が代表を務める「大阪維新の会」は、「君が代」強制条例の可決強行に続いて、大阪府、大阪市の9月議会、堺市の11月議会に「教育基本条例案」と「職員基本条例案」を提出しようとしています。
「教育基本条例案」は、子どもの成長にとっていいのか、府民と保護者の願いに応えるものなのでしょうか。
私たちは、「条例案」のもつ問題点を提起して、子どもと教育問題についての府民的討論と共同をよびかけるとともに、府民の切実な教育要求の実現に向けて力を尽くすものです。
●民主主義を守ってこそ教育は成り立つ
「条例案」は、「君が代」強制条例と同様、いっせい地方選挙での「維新の会」マニフェスト(公約)になく、議会制民主主義の基本問題として厳しく問われます。
橋下「維新の会」が6月3日夜の府議会で「君が代」強制条例を可決強行した暴挙は民主主義を破壊するものであり、子どもと教育の問題をまともに考える政党であればやれないことでした。民主主義を破壊する勢力に、子どもと教育を語る資格はないということをあらためて厳しく指摘しなければなりません。民主主義を守ってこそ教育は成り立ちます。
「条例案」が示す問題の一つひとつが大きな問題ばかりであり、9月議会という短期間のうちに強行すべきではありません。子どもと教育に関わる問題は“問答無用”で扱ってはならず、教育現場の実情をよく踏まえて、時間をかけた丁寧な議論・検討が必要です。
教育に“政治の多数決原理”はなじまない
「維新の会」は教育へ「民意を反映する」として、「君が代」強制条例に続き“政治の多数決原理”により教育に全面的に介入しようとしています。教育は何よりも、子どもの成長・発達のために行われるものであり、憲法と教育の条理に立脚して行われるべきです。教育内容は学問・研究の成果に立った真理・真実に基づくものであり、“政治の多数決原理”とはなじまないものです。政治の教育への関与は「抑制的」でなければなりません。
戦前の軍国主義教育と侵略戦争の歴史を振り返れば、教育への政治介入と統制がどういう結果をもたらしたのかは明らかです。歴史の教訓・反省を今日に生かすべきです。
●「教育基本条例案」の問題点について
「条例案」は、次に述べるような3つの重大な問題点をもっています。
(1)憲法に保障された教育の自由・自主性を踏みにじる
第1に「条例案」は、学校と教育委員会に対して特定の教育政策を押し付け、全面的に介入し統制しようとするものです。これは、憲法に保障された教育の自由・自主性を踏みにじるものです。
教育目標や学力テスト、学区制、入学定員などの教育問題は、府民と保護者の願いにもとづき、学校と教育委員会で議論・検討すべき問題です。学校教育目標は、教育の専門家である教職員が、その学校の子どもの実態に即して設定すべきであり、そのさい、教育行政としての専門性をもつ教育委員会の役割は、教育内容の大綱的基準による指導・助言を行うとされます。知事・市長が教育目標を定めて上から学校に押し付け、“教育委員が目標を実現する責務を果たさない場合、罷免できる”などというのは、教育への「不当な支配」(教育基本法第16条)そのものです。
教育における地方自治――教育委員会制度の意義
「条例案」は、教育行政に対する政治の関与を強めるとして教育委員会の役割を弱め、知事・市長の権限強化を図ろうとしています。
教育委員会制度は、戦前、侵略戦争を推進するために国家権力が国民の人権を抑圧し、軍国主義教育を強制した歴史の教訓・反省の上に、戦後の憲法・教育基本法(1947年)の具体化の一つとして確立されたものです。ここで、教育行政は一般行政から独立し、その任務は、教育の自由・自主性を尊重しつつ、教育の基礎を支える諸条件の整備確立を行うとされました。教育委員会の職務権限は地方自治法などで明記されています。教育委員会は公選制から任命制(1956年)に変えられましたが、教育行政の任務・役割は今日においても重要な意義をもっています。
このことは、大阪府の教育行政が、府民と教育関係者の要求と運動のなか、小学校1・2年生の少人数学級実施や、中学校給食の導入促進、空調使用料を含む公立高校授業料無償化と私立高校一部無償化などの教育諸条件整備や教育費保護者負担軽減を一定の範囲で行っていることからみても、明らかです。
なお、「維新の会」が条例制定の根拠にあげる「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」第25条は、教育委員会や首長が事務を執行するさい、法令などに基づかなければならないことを示したものであり、教育行政に対する政治の関与を定めたものではありません。
教育の専門家としての校長の役割
さらに、「条例案」は「校長とは学校をマネジメントする経営者」だとして校長、副校長の公募と任期付採用などを打ち出し、教育委員会に押し付けようとしています。これも教育の上で重大な問題を含みます。
校長は教頭と協力して、教育の専門家として学校教育に携わり教職員への指導・援助を行いまとめる役割を担い、子どもの教育を受ける権利、成長・発達を保障する教育条件整備を行政職員とともに行うなど、学校管理職として重要な任務をもっています。また、保護者や地域との協力・連携などのとりくみも大切です。それだけに、校長には教育の専門家としての力量と資質が求められており、その役割発揮が期待されているところです。「条例案」が示す人事方針は、こうした校長の重要な役割からみて強い危惧をもたざるをえません。
(2)ゆきすぎた競争教育をさらに推進し、教育をゆがめる
第2に「条例案」は、いっせい学力テスト結果の市町村・学校別公表や公立高校学区制撤廃など、教育に弱肉強食の競争原理を持ち込み、ゆきすぎた競争教育をさらに推進し、教育をゆがめるものです。
競争的な教育制度は、1960年代以降、財界の強い要求を受けて歴代の自民党政権が推進し、今日の民主党政権に引き継がれています。橋下府政はこれまで、いっせい学力テストの実施と市町村別公表や府立高校「進学指導特色校」など高校「多様化」を行い、ゆきすぎた競争教育を進めてきましたが、「条例案」の内容は、これをさらに強めようとするものです。
こうした競争的な教育制度は、世界の中でも異常なものです。国連子どもの権利委員会は、日本政府に対して「高度に競争的な教育制度」が子どもの発達にゆがみをもたらしており「学校システム全体を見直すこと」を勧告しました。子どもの成長・発達のためには、こうした競争的な教育制度を是正することが必要です。
いっせい学力テスト結果の市町村・学校別公表
全国と大阪府のいっせい学力テストが実施されたなかで、教育現場に対して、点数を上げるための“テスト対策学習”として特定の教育内容・教育方法が押し付けられ、教育をゆがめ子どもの成長・発達を妨げています。いっせい学力テスト結果の市町村別公表に加えて、学校別公表が強行されれば、学校が序列化され、ゆきすぎた競争教育がいっそう激化されることが危惧されます。子どもの成長・発達にとって有害ないっせい学力テストは廃止すべきです。学力調査は、これまでも行われてきたように抽出方式で十分です。
公立高校学区制の撤廃
公立高校の学区(通学区域)は、2007年度から旧9学区から4学区に拡大されました。学区を撤廃し全府1区ということになれば、競争主義と序列主義の教育がいっそう激化することが予想されます。教育をゆがめ、子どもの発達にゆがみをもたらす学区の撤廃はやめ、学区の縮小をめざすことが求められます。同時に、高校・大学の入試制度の抜本的な改革など競争的な教育制度の見直しを進めることが重要です。
公立高校入学定員と統廃合問題
私学と協議のうえで、公立高校で十分な入学定員を確保することは、すべての希望する子どもに高校進学の機会を保障するための教育条件として重要です。「条例案」は、「入学定員を入学者数が下回る」ことを理由に学校統廃合を押し付けようとしますが、これは、子どもの高校進学への機会を狭め、奪うことにつながるものです。
高校教育でいまやるべきは、30人学級など教育条件の拡充です。高校教育のあり方については、学校関係者のあいだでの議論と合意、府民的討論が大切です。
(3)憲法違反の「君が代」強制条例の実行を「処分」で迫る
第3に「条例案」は、憲法違反の「君が代」強制条例の実行を「処分」を振りかざして教職員に迫り、府民と教育に「国旗・国歌」を強制するものです。
「君が代」強制条例は、憲法19条が保障する思想・良心・内心の自由を侵害し、憲法が要請する教育の自由・自主性を踏みにじるとともに、教師の人間としての尊厳を否定し、教育をゆがめ子どもの成長・発達を妨げるものです。憲法と教育の条理からみて、重大な問題点をもちます。こうした憲法違反の「君が代」強制条例の実行を「処分」を振りかざして教職員に迫るのが「条例案」です。「君が代」強制条例は廃止すべきです。
●民主主義と教育を守り、子どもの成長・発達を保障するために
このように「条例案」の狙いは、教育に対する全面的な介入を行い、教職員を統制することを通じて、子どもと府民に競争主義教育や「愛国心」教育を押し付けるという、時の権力者や財界が望む「人材育成」政策を推進することにあります。これは、「条例案」を提出しようとする橋下「維新の会」の中枢に、過去の侵略戦争と植民地支配を正当化する「靖国」派が座っていることと結びついています。特定の政治勢力による教育への介入を許すかどうかがいま問われています。
こうした、やり方も内容も狙いも、いずれも憲法と教育の条理、地方自治の原則からみて重大な問題点をもち、教育をゆがめ、子どもの成長・発達を妨げる「条例案」の提出は許されません。
いまやるべきは府民の切実な教育要求に応えること
いま政治がやるべきは、府民と教育関係者の切実な要求に応えて、少人数学級の拡充や学校耐震化の推進、中学校給食の導入促進など教育諸条件の整備・確立を行うことです。また、子どもをめぐる貧困が広がるなか、小・中学校での就学援助の拡充や高校・大学での給付制奨学金制度の創設、授業料無償化の私立高校全体への拡大など教育費保護者負担軽減のとりくみが必要です。大阪の教育に求められているのは、憲法と教育の条理、子どもの権利条約に立脚し、子どもの成長・発達を保障する教育政策への抜本的な転換です。
さらに、大阪の教育をどう良くしていくかの府民的な討論が大切です。
日本共産党は、広範な府民・教育関係者のみなさんと力を合わせて、民主主義と教育を守り、子どもの成長・発達を保障するために、「教育基本条例案」の提出を許さず、府民の教育要求実現にむけて力を尽くします。
投稿者 jcposaka : 2011年09月01日