自治体の役割に反する「改革」 具体化を許さない共同さらに 7月臨時市議会閉会 日本共産党大阪市議団.北山団長に聞く
7月27日に大阪市議会の7月臨時議会が閉会しました。7月臨時市議会では「市政改革プラン(案)」と「府市統合本部」での検討内容を反映させた補正予算案が維新の会、公明党の賛成で可決。8月1日には公募区長が就任するなど、橋下市長による大阪市政の「グレートリセット」が新たな段階を迎える中、臨時議会で浮き彫りになった問題点や今後の課題について、日本共産党大阪市議会議員団の北山良三団長に聞きました。
市民の声を無視した橋下市長
――7月臨時議会の審議を経て、「市政改革プラン」は「案」から正式の「プラン」になりました。
北山 「市政改革プラン」は4月の改革PTによる「施策・事業の見直し(試案)」に続いて5月の「素案」、6月29日に「案」となり、それに基づく補正予算案が7月臨時議会に提案されましたが、まずその過程が問題です。
「素案」に対するパブリックコメントには総数2万8399件に上る意見が寄せられ、そのほとんどが反対の意見でした。ところが橋下市長は「そんなものは読んでいない」「利害関係者の意見に過ぎない」という態度。これではパブリックコメントを実施する意味が失われ、市民の声を無視する許しがたいものです。
あらゆる世代に影響が
さらに問題なのは、その「プラン」の内容です。市民のあらゆる世代の暮らし・福祉を支える数多くの事業を削減・廃止するものです。敬老パスの有料化、上下水道料金福祉措置の廃止などで、高齢者や障害者をはじめ多くの市民の生活と健康に大きな影響をもたらします。
老人憩いの家運営補助、ふれあい型食事サービス補助などの大幅削減などで地域参加型の福祉活動は大後退を余儀なくされます。
加えて保育料の引き上げ、こどもの家事業への補助金廃止など、「現役世代に重点配分」(橋下市長)と言いながらまったく逆行しています。クレオ(男女共同参画センター)や住まい情報センターなどの廃止は、市民の相談場所や集う場を奪うもの。まだ何の提案もない8〜9の行政区への再編を先取りして、温水プールやスポーツセンター、老人福祉センターを削減する。大阪市音楽団の廃止や大フィル・文楽協会への運営補助削減など、全国に誇る文化を壊していこうというもので、こんな内容の「市政改革プラン」は、「改革」の名に値しません。
狙いは大開発への財源づくり
北山 さらに問題なのは、「市政改革プラン」を押し付けるために、「今後10年間にわたって年間500億円の収支不足になる」という、ごまかしを行ってきたことです。「収支不足500億円」の計算には、今年度254億円も見込んでいる土地の売却収入や昨年度末で残高1221億円に上る都市整備事業基金や公債償還基金剰余分などの活用を除外した不当なものです。
昨年度までの計算方式では収支不足は「100億円程度」で、その主な原因は、阿倍野再開発事業など巨大開発の失敗のツケが回ってきているものであり、橋下市長が「ぜいたく」という市民のための事業のせいではありません。
今後7〜8年を過ぎれば、債務負担は大きく軽減するので、基金の活用など財政的なやりくりで市民施策は守れるのです。
むしろ橋下市長の狙いは「収支不足」の解消にあるのではなく、「大阪都構想」に向けて大阪市の財源や資産を、カジノや関空リニアはじめ、大規模開発に集中投資するという財源づくりにあります。維新の会のマニフェストでは、大阪市の税収である固定資産税や法人市民税のうち4割を「都」に吸い上げ、「特別自治区」に残るのは6割。橋下市長や維新の会は大阪都になっても行政サービスは低下させません≠ニ公約していましたが、実は「大阪都」ができる前に行政サービスの水準を落してしまうのが、「市政改革プラン」に他なりません。
野田政権と同じ考えで
橋下市長は「市民の自立」「自助、共助」を説き、どうしても足らないところ、「真の弱者」だけ行政が面倒を見るとしています。これは憲法25条に基づいた社会保障の考え方と相容れないものであり、野田政権の「社会保障と税の一体改革」と同じ考え方です。
いま、消費税増税や原発再稼働、沖縄の基地やオスプレイ問題など、国の政治の体たらくで国民の暮らしと安全がいっそう脅かされ、国民の強い怒りの声が広がっています。その中で国の悪政に市民の立場からきっぱり意見を上げ、市民を守る防波堤となって住民福祉の増進という地方自治体の原点に立ち返ることが大阪市政に求められていますが、橋下市長の「市政改革」はこれに真っ向から反するものです。
市政の役割放棄の「統合本部」
――「府市統合本部」関連はどうでしょうか。
貴重な財産売り飛ばし
北山 法的にも、条例上も、何の位置付けもない「府市統合本部」で、長年にわたって築き上げてきた貴重な財産を売り飛ばし、統廃合へと道筋をつける計画が次々と打ち出され、補正予算もその方向で組み立てられています。
全国で初めて累積赤字を解消し、大きな累積黒字を積み上げつつある地下鉄事業を民営化し、バス事業は民営化と廃止の方向を打ち出しています。バス事業は139路線のうち58路線は「採算ベース」に乗せて民間に売り渡し、残る81路線は廃止。市民の足を守り、移動の権利を保障するという市の役割を投げ捨てるものです。
「府市統合本部」では水道事業の統合と柴島浄水場の廃止・土地売却の方向が示されています。補正予算では柴島浄水場の補修工事予算が計上されていませんが、廃止・売却の具体化に向けてのことだとすれば、許されないことです。
市民病院の独立行政法人化と府市の病院統合の方向が示されています。その中で住吉市民病院について、現地建て替えを求める地域の声が広がっているのに、建て替え事業を中止し、府立急性期・総合医療センターへの統合のための調査費などが補正予算に盛り込まれています。
「プラン」の予算化はこれから
――今後の橋下市政の動きや課題について聞かせて下さい。
混乱矛盾の噴出は必至
北山 橋下市長や維新の会の計画通りにことが進むのかといえば、私はそうは見ていません。来年度以降、「市政改革プラン」で廃止・削減するものが本格的に予算化されることになります。すでに、私の地元・西淀川区民の皆さんと対話しても、「橋下さんに投票したが、こんなことになると思っていなかった」という怒りの声が寄せられています。これから市民は住民サービス切り捨ての痛みを、ますます肌身で感じるようになるでしょう。「市政改革プラン」や「府市統合本部」の検討内容の具体化を許さない運動は、これからますます求められると思います。
民自公の各党合意で「大阪都構想」に法的根拠を与えるところまできており、橋下市長は今後、「大阪都構想」を具体化する提案をしてくるでしょう。しかし、実際に「区割り」でどの区とどの区を一緒にするのか、財政調整や財産処理をどうするのかなどをめぐって、大きな混乱や矛盾が噴出するのは必至です。
新区長を通じて新たな矛盾も
――8月1日には公募区長も就任しました。
北山 橋下市長の「市政改革」では、公募区長に一定の権限と財源が与えられますが、このこと自体は、区民の切実な要求を実現させていく可能性を大きくします。まちづくりや防災対策など、区民の願いを少しでも区政に反映させるために、区民的な運動を盛り上げて、新区長に要望を集中することが大切だと思います。
他方、公募区長は橋下市長が選んだわけですから、「大阪都構想」を実現するという橋下市長の意向を踏まえて区政を運営することが前提になります。ですから新区長は、区民要求と橋下市長との意向との間でさまざまな矛盾に直面します。区民は公募区長のやることを通しても橋下市政を評価するようになり、だからこそ、市長が進める「改革」なるものの反市民的本質をいっそう明らかにしていく取り組みが求められると思います。(2012年8月5日付「大阪民主新報」より)
投稿者 jcposaka : 2012年08月04日