府立高校・市立高校の教科書選定は学校が主役で ――憲法が保障する教育の自由・自主性を守って
大阪府委員会文教委員会は高校教科書問題で提言を発表しました。
2013年8月29日
日本共産党大阪府委員会文教委員会
「維新の会」共同代表の橋下徹大阪市長と同幹事長の松井一郎府知事のもと、大阪府と大阪市の教育委員会は今年の夏、府立・市立高校生が学ぶ教科書の選定・採択に関わる「見解」などを相次いで明らかにしました。
私たちは、これらの問題点や背景を明らかにするとともに、府民の立場から教科書採択のあり方について提案し、府民的討論と共同を呼び掛けます。
1 府教育委員会「見解」などの問題点について―憲法と教育の条理からみて
(1)特定教科書についての府教育委員会「見解」
大阪府教育委員会は7月9日、府立学校が2014年度に使用する教科書を選定する作業を行っている最中に、特定教科書(実教出版『日本史A』『日本史B』)の「国旗・国歌」法などに関する記述(※)は「一面的」だとする「見解」を府立学校長・准校長あて通知しました。教育関係者によると、この「見解」を受けて学校現場では、校長が日本史担当教員に対し同教科書の変更を迫るなどの事態も起こっています。
特定教科書を批判する府教委「見解」は、これを府立学校に通知すること自体、学校に対してその教科書を選定しないよう求めたことに等しく、教育の自由・自主性を保障する憲法と教育の条理、教育関係法に反する、教育への不当な介入です。
文部科学省は、この教科書について「検定上誤りとは考えられず、許容されるものである」との見解を示しています。
府教育委員会は「見解」をただちに撤回し、府立学校の自主的な教科書選定を尊重すべきです。
各府立学校が教科書選定結果を府教育委員会に報告したことをうけて、松井府知事は、特定教科書について「一面的である」と批判、「維新の会」府議団は、同教科書を採択しないよう府教育委員会に求めたことが明らかになりました。これらは、教育への露骨な政治介入であり許されません。
(※)実教出版「日本史」教科書記述
「国旗・国歌法をめぐっては、日の丸・君が代がアジアに対する侵略戦争ではたした役割とともに、思想・良心の自由、とりわけ内心の自由をどう保障するかが議論となった。政府は、この法律によって国民に国旗掲揚、国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。しかし一部の自治体で公務員への強制の動きがある」
(2)教科書採択についての大阪市教育委員会「附帯決議」
一方、大阪市教育委員会は8月6日に開いた教育委員会会議で、2014年度に市立高校で使用する教科書を各学校からの答申どおり採択すると同時に、2015年度については学校から使用教科書の答申は受けるものの、学校に対して教科書の「推薦順位や優劣」をつけず複数記入することを求め、教育委員会が自ら「調査研究」し「採択する」方針を示す「附帯決議」を上げました。今後、採択方式の決定などを「しかるべき時期までに講じる」としています。
この「附帯決議」は、市立高校が選定した教科書を教育委員会が採択せず、別の教科書を採択することもありうることを示しており、教科書採択を通じて教育に介入し、教育を統制することを可能にする重大問題です。「附帯決議」は撤回し、採択方式の決定などの具体化はやめるべきです。
橋下徹大阪市長は「附帯決議」について、「これが当たり前なんですよ」(8月7日)と述べ、教育行政が教育に介入することを当然視しました。
2 これらの背景にある問題について
(1)大阪府・市の教育関係条例――政治権力の教育への介入
こうした府・市教育委員会の動きの背景には、2012年3月の府議会と同年5月の大阪市議会で橋下・「維新の会」などが強行した、政治権力が教育に介入できる教育関係条例などの問題があります。こうした教育関係条例の立場で、首長の意を受けた教育行政が、教育に介入し、介入しようとしているのです。
(2)「維新」などが強行した「国旗・国歌」強制条例
加えて、「国旗・国歌」の扱いについては、2011年6月の府議会と2012年2月の大阪市議会で、「維新」などが強行した「国旗・国歌」強制条例の問題があります。これは、学校施設で「日の丸」を常時掲揚し、卒業式や入学式で「君が代」を起立して斉唱することを学校と教職員に強制するものです。
この条例のもと現府教育長は、府立高校長在任中に同校の卒業式で、教職員が「君が代」を斉唱しているかどうか「口元チェック」を行い、識者をはじめ府民的な批判を受けました。
特定教科書について「一面的」だとする府教育委員会「見解」は、こうした「国旗・国歌」を学校教育に強制することは当然だとする立場からのものです。
3 教科書採択のあり方について――日本共産党の提案
私たちはこうした点を踏まえ、府民の立場から教科書採択のあり方について、次の3つの提案を行います。
(1)憲法が保障する教育の自由・自主性を守り、教育への統制をやめる
まず、前提となる問題として、憲法が保障する教育の自由・自主性を守り、教育への統制をやめることが大切です。“首長や教育行政が教育に介入することは当然だ”という「維新」流の教育観は、憲法と教育の条理、子どもの成長を願う府民要求とは相いれないものです。
(2)教科書は学校ごとに選ぶことを基本に
府立高校や市立高校で使用する教科書は現在、学校教育法などにもとづき、学校が子どもと地域の実情を踏まえた教育課程を編成するなかで、教育の専門家である教師が調査・研究し、保護者の意見も聞き、学校が選定し教育委員会が採択事務を行っています。こうした制度を守り、さらに学校関係者の意見を踏まえて充実をはかることが大切です。このなかで、子どもの意見表明を尊重することも重要です。
こうした、学校ごとに教科書を選ぶということは、世界の流れです。日本政府も賛成して採択されたILO(国際労働機関)・ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「教員の地位に関する勧告」(1966年)は61項で、「教員は……教材の選択および使用、教科書の選択ならびに教育方法の適用にあたって、不可欠の役割を与えられる」と教科書選択における教員の役割を明確に述べています。
(3)学校を支援する教育委員会の役割
教育委員会の役割は、教育への介入にあるのではなく、教科書選定にあたる学校と教師の調査・研究活動を支援し、学校の選定結果を尊重することにあります。そのためにも、教育予算を増やし、少人数学級の拡充や正規教職員を増やすことなど教育条件整備を拡充することが必要です。
政治権力の教育への介入を許さない府民共同の発展へ
今回の教科書選定・採択をめぐる諸問題は、政治権力が教育に支配・介入し、教育を統制しようとする動きの一つとして重大です。
日本共産党は、橋下・「維新の会」による教育への介入を許さず、子どもと教育、民主主義を守る府民共同の発展へ力を尽くします。