大阪市廃止=「都」構想 住民投票の焦点
5.公明と取引 政争の具
大阪市を廃止・分割することの是非を問う住民投票は、2015年に続き、2度目です。住民投票にかけるためには議会での可決が必要ですが、過半数を持たない大阪維新の会は、公明党を篭絡(ろうらく)することに力を注ぎます。
1回目の住民投票では、府議会、大阪市議会が制度案を否決しましたが、橋下徹大阪市長(当時)らが「官邸頼み」の闇取引で、公明党の態度を変えさせ、住民投票が行われました。
今回も、公明党は17年4月に維新と住民投票の実施を密約。さらに19年4月の知事・大阪市長ダブル選後には、それまで反対していた「都」構想に「賛成」すると転じました。
公明党が府内に衆院議席を持つ4小選挙区に、維新が対立候補を立てないことを取引条件にしての動きです。松井一郎大阪市長、吉村洋文知事は「住民投票」に至ったのは「奇跡のような形」(『大阪から日本は変わる』)とうそぶきますが、そこにあるのは、政争で大阪市廃止・分割をもてあそぶ醜い姿です。
維新の党利党略
コロナ禍の下で住民投票をなぜ急ぐのか。各紙は次のように指摘します。
「市関係者は、『ここ数年の大阪の経済はインバウンド一本で支えられてきた。都構想後の維新の政策の目玉は万博とIR。コロナで二つのカンフル剤の不透明感が増す前に住民投票をやってしまう方が得策だ』と強調した」(「毎日」4日付)
「新首相が早期の衆院解散・総選挙に打って出るとの憶測が出始めた」「大阪維新幹部は『同日なら投票率が上がり、浮動票を狙うわれわれにとって有利な状況になる』と見立てを披露する」(「大阪日日」4日付)
党利党略が浮き彫りです。
情報隠して強行
松井大阪市長は、8月に大阪メトロが今まで以上に業績が上がり、今までの1・7倍にもなる配当・税収増、そしてプールなどを廃止する「改革効果」額を積み上げた財政シミュレーションを発表し、「特別区は赤字にならない」と宣伝しています。しかし、メトロは、4~6月期にコロナの影響で62億円もの赤字を出しています。新たに加えたメトロなどの配当金などがなくなれば特別区は大赤字です。
しかも、大阪市は9日に来年度の税収が496億円減となることや、メトロの配当金はコロナの影響で、来年度は無配当になると試算しています。特別区は財政破綻の可能性が指摘されています。
ところが、松井市長は「新たな試算はしない」と居直っています。
市民が的確な判断ができる情報を隠して住民投票を強行する―。民主主義と無縁の維新の姿が鮮明です。