師弟対談
宮本たけし衆院近畿比例候補
山本健慈元和歌山大学学長
和歌山大学で学んだ宮本たけし前衆院議員(衆院近畿比例・大阪5区重複候補)が、恩師で和歌山大学学長、国立大学協会専務理事を務めた山本健慈さんと師弟対談。話は学生時代のエピソードに始まり、「宮本プラン」を巡る話題に…。
少人数学級と学費無償は世界の流れ 宮本氏
政党政治、政策そのものが問われる 山本氏
市民と野党の共闘の発展に
宮本 先生お久しぶりです。国会議員時代はいろいろアドバイスをいただいて、昨年4月の衆院12区補欠選挙でも応援していただきありがとうございました。
山本 去年の選挙では、国会議員のバッジをはずして立候補してびっくりしたよ。
宮本 身を捨ててこそ前に進むことがあるんですね。でもその結果、夏の参院選では1人区での野党統一候補が実現し、高知では共産党候補が統一候補としてたたかいました。市民と野党の共闘を発展させる上でも、野党連合政権が実った後、政権を進める上でもさらに先生の力をお借りしたいと思っています。
山本 先生、先生と言うけれど、大学時代、私の授業なんか1回しか来てなかったじゃない(笑い)。けど答案を見たらえらそうなことが書いてあって、こいつなかなかできるなと思ってたよ(笑い)。
宮本 本日は先生の本をしっかり読んできました。国会質問も関連の本や資料を読んだ上でやっていましたから。
山本 麻生さん(太郎財務大臣)もうならせたというぐらいだもんなあ。
少人数学級と学費の無償化
宮本 今日は7月に発表した「ポストコロナに子どもと学生に希望を届ける宮本プラン」をお持ちしました。
石井郁子さんの後を継いで国会に送っていただき、教育問題をずっとやって来ました。論戦で前進も開きましたが、今回は、日本の厚い壁に阻まれてきた少人数学級や、大学の学費無償化という問題に特化して、コロナ禍を受け、何としても突破したいという思いで作りました。
山本 今日(9月10日)の新聞もOECD(経済協力開発機構)加盟国で、GDP(国内総生産)に占める教育の公的支出が、日本は下から2番目だという記事が出てたよね。
宮本 ええ。日本がいかにこの点で遅れているか。
少人数学級では、コロナを受けて知事会や市長会、町村会も、感染予防の上でも少人数学級が必要だという緊急提言を出しました。
大学の問題では、政府の新型コロナ対策の学生支援は学生の1割にしか届いていません。コロナ禍で半分ぐらいしか大学が開いていないのに満額の授業料を払えと言われる。大学をやめようかと思った学生が4人に1人いるという調査もあります。学費を半額に引き下げるというのは道理があるんですね。
無償化の流れが自公政権で
山本 国公立大学の授業料もOECD加盟国で日本が一番高いしね。
宮本 そうです。先生の時は京都大学で年間1万2千円だったでしょう?
山本 そう。しかも3年の時に父親が亡くなって授業料免除の申請に行ったら、担当教授から「お兄さんに収入があるでしょう?」と言われ、「私は兄の扶養家族でもない。兄が学費を出す責任はありません」と返すと、「君の言うことはよく分かる」と言われて無償になりました。
宮本 今は初年度納入金が80万円を超えています。国会で授業料無償化への世界の流れを示し、「大学学費の段階的無償化」を定めた国際条約の留保撤回を求め続けたところ、民主党政権下で留保が撤回され、無償化の流れをつくりました。ところが直後の解散総選挙で自公政権が復活、第2次安倍政権が誕生すると、無償に向かうどころか、私学の学費は上がり続け、国公立も徐々に上がり始めました。
コロナ禍で政治の重要性を
海外では学費無償、給付型奨学金は当たり前。先日は、「高等教育無償化プロジェクトFREE」という学生団体が超党派の宣伝を京都でやると聞いて、民主党の山野井和則衆院議員や学生たちと宣伝してきました。
山本 政策的な提言も大事だけど、学生が主体となるムーブメントが重要。そこに国会議員も参加するというのはいいことです。
毎年、財務省の財政制度審議会のレポートが予算編成前に出てくるけれど、少人数学級や国公立大学の学費の問題などでも、財務省は相手にエビデンス(根拠)を示せと言いながら、こちらが発したことは顧慮しない。そして自分たちに都合のいいデータしか出さず、20人学級をやっても学力が伸びるわけではないとか、屁理屈を言って受け付けないんです。
ところが今回のコロナ対策では、政治の判断で10兆円が出てきた。コロナの経験を経て、いかに政治が重要かということを、どれだけの国民が思ったかが非常に重要です。そして自分が当事者だという自覚と、状況は自分の行動で変えられるという経験が、紙一枚(投票)で状況を変えようという思いにつながると思うんだよね。
ギアチェンジのチャンスに
国立大学協会で役員と議論していた時、私が言ったことに対して、「共産党が言っているみたいだね」と言われたことがあります。私が、「共産党しか言ってない日本の政治はおかしいと思いませんか?」と言うと、「そうだ」と返ってきました。
宮本 「宮本プラン」に書いた問題で言うと、学費無償化の国際条約の留保撤回も高校の所得制限無しの無償化も民主党政権時代に実現に向かっていたのに続かなかった課題。今度はそれを求め続けてきた共産党も一緒になって歩き通そうということです。世界で非常識だと言われているクラスサイズと高学費。これぐらいはOECDで先進国として胸を張れるところまでいこうじゃないかと。
山本 未来への投資だよね。そういう意味で言うと、この2つに焦点を合わせたのは非常にタイムリー。政治、政党政治の政策そのものが問われていると思います。
たとえばリニア新幹線などと言うけれど、新型コロナを経験し人間の暮らし方が問われている中で、どういうギアチェンジができるか。それをいろんなセクター(部門)で考えて組み合わせることを、政党や学校などいろんな組織や市民が動かしていく。今をそのチャンスにしなければと切実に感じています。
効率の重視で多人数学級に
宮本 競争原理や経済効率が、教育の分野にも影響を及ぼしています。
山本 財務省幹部との激論で感じたことは、競争させないと人間は怠けると思っていること。自分の人生観で人間を見ている。少ない生徒数や学級数では切磋琢磨できないという意見もあるけれど、切磋琢磨は小規模でもできます。大きいほうがいいというのは、切磋琢磨ではなく経済効率重視のためです。
宮本 大阪では全国学力テストの他に、チャレンジテストもやっています。現場の先生に聞くと、点数を上げるために、とにかく白紙で出すな、全部塗ったら確率で何点か取れるなどと指導しているところもあると。
山本 ある県の教育長は「学力テストがこんなにひどいと思わなかった」と話していました。小さな町では、勉強が苦手な子に学校を休ませていると。1960年代の香川県や愛媛県と同じことがやられているわけです。
社会に正気を取り戻すため
宮本 和歌山大学で学長をされていた時の卒業式の式辞が話題になり、2014年には、特定秘密保護法、ドイツのヴァイツゼッカー元大統領の言葉や治安維持法などに触れ、学び続ける自由と民主主義を説かれました。
山本 あの時は、東大で南原(なんばら)繁総長の式辞を聞いたという卒業生からも、「南原先生の話を聞いた時と同じぐらい感動した」という手紙が来ました。
5年間務めた国立大学協会の専務理事を、今年3月で退任しました。あいさつで5年間を、国立大学をテーマとした政治学臨床研究、実習だったと言って、研究の結論は「日本の学術、国立大学の衰弱、衰退の原因は、社会を支配している人たちの在り方にある。それは知性ではなく反知性、法ではなく脱法、不法、論理でなく詭弁、論理の喪失だ」と話しました。そして今後はそういう人たちを退場させ、この社会に正気を取り戻すために尽力したいと言いました。
宮本 そんなあいさつした専務理事、初めてでしょう。
安倍総理辞任は政権の行き詰まりの結果であり、継承する菅政権が誕生しましたが、早晩、国民の信を問う時が来るでしょう。その時に本当に希望ある選択肢を国民に示し、私も必ず国会に戻って、新しい政治実現のために頑張りたいと思います。
やまもと・けんじ
1948年、山口県生まれ。京都大学卒業。文科省中央教育審議会臨時委員、和歌山大学学長、国立大学協会専務理事など歴任。専門は社会教育・生涯学習論、子育て支援システム論。社会福祉法人アトム共同福祉会会長理事。
(大阪民主新報、2020年9月20日号より)