大阪市廃止は百害あって一利なし
臨時大阪市議会 日本共産党の質問から
8月18日から9月3日まで開かれた臨時大阪市議会の委員会質問で、大阪市を廃止・分割する「特別区設置協定書」の問題点を日本共産党の各議員がただしました。
教育・子育て分野の水準維持の保証なし
教育こども委員会 井上議員が質問
8月27日の教育こども委員会で井上浩議員は、大阪市を廃止して「特別区」に分割すれば、これまで政令市として積み上げてきた市民の暮らしを守る財源や権限がなくなり、「18歳までの医療費助成」はじめ大阪市独自の住民サービスが維持できなくなると批判。同時に、府の財政をもゆがめることになると述べました。
政令市の利点を生かした施策が
井上氏は、政令市のメリットを生かし教育分野で実施してきた独自施策を、「特別区」で維持するには相応の財源が必要だが、「協定書」にはその科学的な根拠である運営経費が示されていないことなどを指摘。「(『特別区』で)サービスを維持するというが、根拠が明確にされなければ、財源確保の見通しはない」と迫りました。
市教委は「財政シミュレーションで現行の住民サービスを維持しつつ、収支不足が発生しない見込みだ」と答弁。井上氏は財政シミュレーションには、コロナ禍による税収不足などが反映されていないと反論しました。
また、地方交付税で措置されている学校給食や学校施設整備などに言及。地方交付税は直接「特別区」ではなく府に入り、府から使途を限らない一般財源として「特別区」に配分されるとし、「府が政令市の水準維持に責任を持つようになる。府の財政にも影響を与える」と述べました。
子育て分野では、保育料の金額は「特別区」ごとに規則で定められるが、金額がばらばらになれば、旧大阪市民にとって不公平だとし、保育料をどう決めるのかとただしました。こども青少年局は、住民投票で「特別区」設置が可決された場合、「設置準備期間中に検討される」と答えるにとどまりました。
妊婦健診や公立保育所運営費、児童扶養手当なども交付税措置されており、「特別区」でこれまでの水準が維持されるかどうかは、府の判断に左右されることになると指摘しました。
わずか20人の体制で災害で役割果たせぬ
市政改革委員会 寺戸議員が質問
8月27日の市政改革委員会で寺戸月美議員は、「特別区」に移行した場合の、災害時の危機管理体制や権限などについて質問しました。
現在の大阪市の危機管理室の職員体制は43人で、自然災害や大規模事故が発生した際には、危機管理の基本的な政策を立案し、各局を指揮して全庁的な調整を行うことになっています。「協定書」では「特別区」の危機管理室の体制は4区で計90人、1区当たり20人強の職員数になり、業務はほぼ変わりません。
危機監理の役割や責任果たせぬ
寺戸氏は、現淀川区では、市民協働課が区内の地域振興や街づくり、危機管理に関わる防災・防犯などの業務を25人で兼務していると指摘。5つの行政区を合わせて設置する新「淀川区」で、たった20人の配置で、災害から区民の安全を守る役割や責任を果たせるのか疑問だと強調しました。
「特別区」での災害対応について危機管理室は、住民投票で「特別区」設置が可決されて以降に検討されると答弁しました。寺戸氏は、南海・東南海地震は30年以内に80%の確率で発生すると予測されおり、「特別区」移行の直前でも起こりうると指摘。新「淀川区」の本庁職員の約8割が、区外の中之島庁舎に勤務するため、災害時の初動対応や被害状況の把握に困難が生まれるとし、「(『特別区』に)司令塔となる危機管理室があっても、何らその役割や責任は果たせない」と力説しました。
府内では、基本的に各自治体が消防局や消防本部など消防業務を担っていますが、独立した自治体であるはずの「特別区」は自前の消防局を持たず、府知事が消防組織の管理責任者になります。
寺戸氏は、「消防のことを審議して決定するのは府議会になり、『特別区』の自己決定権が失われる」と指摘。「消防業務の府への一本化は、市民の安全・安心を守るためのものではない。自前の消防局を持てないようなら、『特別区』にする必要はまったくない」と批判しました。
介護保険や社会福祉後退必至の「特別区」
民生保健委員会 長岡議員が質問
8月28日の民生保健委員会で長岡ゆりこ議員は、介護保険制度や保健所体制などについて質問しました。
「協定書」では介護保険の業務は「特別区」ではなく、各「特別区」が共同で設置する「一部事務組合」が実施。「特別区」間での保険料やサービスの格差が生まれないよう「公平性」を重視したというのが、その理由です。
長岡議員は、大阪市の介護保険料は政令市の中で最も高いとし、「保険料のばらつきを生じさせないためといって、『一部事務組合』にすれば、その保険料を下げる可能性が限りなくゼロになってしまう」と指摘しました。
「一部事務組合」は各「特別区」で地域の実情を反映した高齢者施策を進める上で大きな障害となり、保険料の引き下げや介護サービスの充実などの要望も反映できないと強調。「住民の声が届かない、『特別区』の自治権も行使できない。そこに介護保険という重要な施策を当てはめてはならない」と批判しました。
市社協や区社協が解散・消滅に
大阪市は介護や障害者支援の区分認定を併せて、大阪市社会福祉協議会(市社協)に委託。各区行政区の区社協は地域包括ケアセンターの委託を受け、コロナ対策でも緊急小口資金の貸付などで大きな役割を果たしています。
長岡議員は、大阪市と二人三脚で福祉の取り組みをしてきた市社協・区社協は、「特別区」が設置されれば解散・消滅すると強調。「大阪市がなくなれば、そのあおりで一緒になくなる、まさしく被害者だ」と断じました。
長岡氏は、市がコロナ専門の感染症対策チームを強化しているが、兼務や臨時任期職員によるもので、実際の職員増にはなっていないと指摘。「必要なのは職員体制の強化であって、(『特別区』ごとに)バラバラの体制の弱い保健所を造ることではない」とし、いまの大阪市のまま、横の連携、縦の情報伝達を確保したまま、整備していくほうがいいと述べました。
(大阪民主新報、2020年9月13日号より)