大阪革新懇がコロナ対策シンポ
医療、保健、介護の現場から
収束へ現状と課題を語り合う
進歩と革新をめざす大阪の会(大阪革新懇)が21日、大阪市北区内で「コロナ対策シンポジウム」を開きました。大阪府で2度目の緊急事態宣言が解除された後も、新型コロナの感染者が増える傾向にある中、医療、保健所、介護の現場から大阪のコロナ感染の現状と課題を語り合い、解決の方向を探ろうと企画されたもの。会場に49人が参加したほか、オンラインで68人が視聴しました。
大阪革新懇の代表世話人で医師の川崎美榮子氏が開会あいさつし、東大阪生協病院の橘田亜由美院長の司会・進行で、りんくう総合医療センター(泉佐野市)の感染症センター長で府コロナ対策会議専門委員の倭(やまと)正也、枚方市保健所長の白井千香(全国保健所長会副会長)、耳原総合病院院長(堺市堺区)の河原林正敏、府保険医協会副理事長で北原医院(守口市)院長の井上美佐、城東老人ホーム(特養、大阪市城東区)施設長の中島素美の各氏が報告しました。
第4波に入りつつある現状
変異株への対応など備えを
府コロナ対策会議専門委員 倭正也氏
倭氏は、2018年からエボラ出血熱に備えて診療体制を整え、研修などを積み重ねてきたことが、新型コロナの感染拡大に「間に合った」と指摘。昨年3月に医療機関向けの「診療の手引き」を作成し、関西空港からの入国者を対象にした水際対策などに取り組んできたことを報告しました。
3月17日から20日にかけて、大阪府の1日当たりの新規感染者数が140~150人となっていることについて倭氏は、「第4波に入りつつあるのが現状だ」と分析し、変異株への対応などの課題を提起。オリンピックをもし開催するなら、新型コロナ以外の感染症も日本に入って来るとし、その備えも行っていると述べました。
優先的に国庫負担を増やし
保健所機能の充実を求める
枚方市保健所長 白井千香氏
白井氏は、コロナ禍で一般市民も保健所の存在を認識するようになったが、コロナ対応だけでなく、地域の保健医療体制の整備、食品衛生など多様な業務を担っていると強調しました。
白井氏は、これらすべての機能の強化が必要だが、地域保健法が制定された1994年に全国で800カ所あった保健所が、469カ所に減っていると語りました。
緊急事態宣言解除後の大阪の感染者数が増加傾向にあり、「予断を許さない」と白井氏。全国保健所長会として対策の見通しについて、ロードマップ(行程表)を国が作ることや、保健所体制の強化を求めているとし、「保健所へ優先的に国庫負担をいただきたいし、人材や機能の充実へ私たちも頑張っていきたい」と語りました。
補助金がいまだ4割程度に
民間病院への支援を真剣に
耳原総合病院院長 河原林正敏氏
府の要請で陽性者を受け入れる民間病院の立場から発言した河原林氏は、昨年の第1波で外来・入院とも患者が激減、健診・人間ドックも中止したため、経営が厳しくなったと報告。医療機関外で心停止状態になった患者の搬送が前年比で倍増し、大阪市からの救急搬送も大幅に増え、ことし1月には過去最多を更新したと語りました。
河原林氏は当面、通常診療を維持しながら一般へのワクチン接種をどう進めるか、悩んでいると語るとともに、国や府の補助金がまだ約4割しか支払われていない現状を指摘。「補助金はコロナ対応で機器を購入することなど対象で、患者が減ったことに伴う減収補てんがなく、経営的には非常に厳しい」と訴えました。
減収補てんがなくて厳しい
半数が「将来展望が不安」と
府保険医協会副理事長 井上美佐氏
井上氏は、府保険医協会が2月に実施した診療所へのアンケート調査の結果を紹介しました。9日現在、4058診療所のうち542診療所(13・4%)から回答があり、約8割が前年度に比べ収入が減ったとし、その4割が20%以上の減収。受診や健診の抑制などで初診時に重症化していたり、慢性疾患が悪化している事例が4割に上ります。
将来展望では約半数が「不安」と回答しています。
井上氏は「多くの開業医は新型コロナや感染症に医療者としての使命を果たそうと頑張っているが、減収が回復していないところも多く、経営的に維持が困難になっているのが現状。ぎりぎりのところで踏ん張っている医療機関への支援を、国は真剣に考えるべき」と語りました。
濃厚接触や密は避けられず
施設職員への検査の継続を
城東老人ホーム施設長 中島素美氏
中島氏は、感染拡大の第1波の昨年4月から新しい施設で運営を開始することになり、感染対策を検討したと発言。インフルエンザの流行期に行っていた対策をより徹底して実施し、施設内の行事を原則中止したほか、外部からのボランティアや実習生の受け入れも見合わせてきたと語りました。
2月から始まっている大阪市による従業者への定期的なPCR検査を、今後も続けてほしいと中島氏。「要介護高齢者、特に認知症の方が暮らす特養では、濃厚接触や密は避けられず、呼吸が阻害され、顔も見えないのでマスク常時着用が難しい方ばかり。職員への定期的なPCR検査の継続、ボランティアや実習生の検査も行って欲しい」と話しました。
数年はたたかうことに
保健所増に政治の力が
欧米と比べ人員少ない
討論では、会場参加者などからの質問にも答えながら、各氏が発言しました。この中で倭氏は、急にウイルスがなくなることはなく、数年は一緒にたたかう必要があると指摘。緊急事態宣言のあるなしにかかわらず、マスクの着用や会食時には会話を慎むこと、行事では感染対策を守ることなどが必要だと語りました。
保健所を増やす課題について白井氏は、「復活には政治の力が必要」と強調。「統合するのは簡単だが、造るのは大変。保健所を増やすには、保健師や医師はじめ人材育成が欠かせない。応援をいただいて共に歩んでいきたい」と述べました。
河原林氏は重ねて、国や府の補助金の速やかな支給を訴えるとともに、「減収補てんが可能にならなければ、安心してコロナ患者を受け入れられない」と力説。井上氏は、日本の医師や看護師、保健師は諸外国と比べて少ないとし、「普段からぎりぎりでやっている医療機関が多い。危機ですぐ倒れそうになるのが問題」と訴えました。
中島氏は、介護現場で働くホームヘルパーは70歳代が中心で、感染の不安を抱えながら介護しており、在宅高齢者の状況も深刻だと指摘。介護報酬の改定も、コロナ対策が正面に据えられていないと語りました。
(大阪民主新報、2021年3月28日号より)