最終回 自治体職員の責務 シリーズ大阪壊し 橋下流 ——維新政治を問う
「恐怖支配」の矛先は市民に
国保料滞納者に差し押さえ
「国保会計が黒字の大阪市ですが、高すぎる保険料を引き下げての声を無視しながら市が進めているのが納付率向上を口実にした債権回収の強制執行。つまり財産差し押さえです」。こう語る西淀川社会保障推進協議会の矢野正之さんは、大阪市24区の中で西淀川区が突出していると告発します。
大阪社会保障推進協議会の調査によると、国民健康保険料の滞納者に対し、財産差し押さえなどの強制徴収が実行されたのは大阪市全体で2013年度で1761件。最も多かった西淀川区は独自に182件の差し押さえを実施しました。
生活に必要な給与も対象に
差し押さえは徴税関連法に基づく行政権限によって、金融機関への預金照会や生命保険、給与、売上代金、不動産などの財産調査と強制執行などが可能になります。大阪社保協が情報公開請求で入手した行政資料などによると、生活費である給与や営業資金の売掛金を差し押さえたとみられるケースもありました。
矢野さんが告発します。「複雑な手続きに時間もかかり、必要経費は1件当たり数千円の差し押さえを強行する目的は何なのか。高すぎる保険料を市民に押し付けながら、生活に必要な給与まで差し押さえるやり方は許せません」
昨年秋、西淀川社保協と医療や福祉、業者など民主団体代表が区担当者と行った交渉の席上でのことでした。
「債券の時効を中断させる効果があり、債券管理の面から差し押さえる場合もある」。
こう差し押さえの必要性を述べた職員。社会的ニュースとなり平松市長時代に事実上禁止された学資保険をめぐっても、「事前協議」を廃止して差し押さえが可能になるよう、本庁部局に事務手続きの見直しを進言したと言うのです。
蓄財面もあると学資保険も
「学資保険は学費という側面もあるが、形態を変えれば一部蓄財の側面もある。バランスの問題として絶対禁止だとは認識していない。(差し押さえ禁止は)未来永劫コンプリート(完全)じゃない。学資保険差し押さえ自体はどの法も禁止していない。債権管理が不十分だと不作為を問われるケースもある」(職員)
「なぜそんなにまでして学資保険を差し押さえたいのか?」。沸き起こる非難の声に対し職員は言いました。
「債権を管理するのがわれわれの業務。本来は、不足している分を一般会計から入れているわけです。保険料収入が上がれば繰り入れ資金は少なくて済む」
行政本来の姿がゆがめられ
公務員が法律を守って業務を行うことは当然だが、だから差し押さえるんだという発想は危険だと語る矢野さんは続けて言います。
「地方自治体の責務は、安倍政権による医療と社会保障の連続改悪に苦しむ市民の暮らしを守ること。その行政本来の仕事と役割が橋下市政によってゆがめられているのです」
橋下市長は2011年12月19日の就任以降、住吉市民病院廃止や敬老パス有料化・赤バス廃止、公立保育所や幼稚園民間移管、身近な公共施設や文化行政の後退など、市民サービスを次々と切り捨ててきました。
そしてこれらの市民サービス切り捨ては、公務サービスを担う市職員に向けた敵意むき出しの攻撃と一体に進められました。
思想調査までする独裁政治
「組合と市役所の体質についてリセット」「組合問題に執念を燃やして取り組む」—そんな発言を繰り返した橋下氏は、大阪市役所労働組合(自治労連加盟)などの組合事務所の退去を迫り、12年2月、市長名の業務命令による憲法違反の「思想調査アンケート」を実施しました。
「アンケートに回答しない職員は処分も」——そんな懲戒の言葉で脅しつつ、「政治活動の有無」や政党などの街頭演説に同行した市民の名前まで記入するよう迫りました。文字通り「恐怖」支配による独裁政治の真の矛先は、市民の暮らしを切り捨てることにありました。それを象徴するのが2012年4月、橋下市長が新規採用者の発令式で語った「市民に対し命令する立場」との言葉でした。
違法な「思想調査アンケート」を強要された大阪市労組の組合員らはただちに提訴。憲法違反の暴挙を許すなと多くの弁護士が訴訟に参加し、市民の裁判支援活動も広がっていきました。
組合事務所の退去処分は不当労働行為だと訴えた訴訟は、すでに昨年9月に大阪地裁が原告勝訴(被告・市は控訴)の判決を出し、思想調査アンケート訴訟は3月30日、大阪地裁で判決が言い渡されます。
上に従わなければ処分対象
再び西淀川社保協の矢野さんが語ります。
「なぜ市民サービスを切り捨てるのかと当局担当者に尋ねると、“上の指示に従わなければ、私らが処分の対象になるんです”と打ち明けた職員がいました。市民の目線に立って市民が困っていることに手を差し伸べる、それが自治体職員のあるべき姿ではないでしょうか。歴史と伝統ある大阪市を解体してしまえば、住民の声はますます行政に届かなくなり、市民の税金がカジノ誘致など無駄な巨大開発に使われてしまいます。市民の暮らしを破壊する維新政治に選挙できっぱり審判を下し、5月の住民投票で特別区設置に『反対』の意志を示すために全力で頑張ります」
○「市役所職員が民意を語ることは許しません。行政的な視点、公務員的な視点からの反論・意見は当然ですが、民意というものを語るのは公選職、選挙で選ばれた者だけだ」(2011年12月28日、大阪市長就任直後の施政方針演説) |
○「皆さんはきょうから公務員です。市民に対し命令する立場となり、非常に重いが、ものすごくやりがいのある職務」(2012年4月2日、市職員の新規採用者の発令式で) |
○「組織自体が市長の顔色をうかがわなくてだれの顔色をうかがうんですか。僕の顔色をうかがって、しっかりとその方針に従って組織を動かしてもらって、あとは議会がチェックすればいい」(2012年4月13日、大阪市議会財政総務委員会。「職員基本条例」での区長や局長など幹部の「原則公募」について日本共産党の山中智子議員が「側近政治ではないか」と質問したことへの答弁) |
(大阪民主新報、2015年3月29日付より)