主張 「表現の不自由展」――
吉村知事は「表現の自由」を侵すな
16日から開催予定の「表現の不自由展かんさい」の利用承認をエル・おおさかの指定管理者が取り消した問題で、大阪地裁は9日、会場側の処分を執行停止とし、会場の使用を認めることを決定しました。実行委員会が会場の使用を求め提訴し、処分の執行停止を求めていたものです。
決定では、憲法21条で規定された「表現の自由」を制限できるのは、「公共の安全に対する明白かつ現在の危険があるといえる場合に限られる」と指摘。抗議活動を理由にした使用承認取り消しは、「警察の適切な警備などによっても混乱を防止することができない特別な事情があるとは言えない」と結論付けています。これに対し吉村洋文知事は、同日の記者会見で、この決定を不服とし、「抗告」を表明しました。
「表現の自由」は「言論の自由」とともに民主主義社会の根幹であり、これを暴力や脅しで侵すことは絶対にあってはなりません。
同時に、住民の多様な表現の機会を保障することは自治体としての責務です。それを具体的に保障するため地方自治法244条では、「公の施設の利用」について、「正当な理由がない限り、これを利用することを拒んではなら」ず(第2項)、「その利用について不当な差別的取り扱いをしてはならない」(第3項)と定め、地方自治体が不当な制限を加えてはならないとの立場を明確にしています。
吉村知事は「施設を安全に運用する観点から取り消しを求める」(会見)と言いますが、抗議し、中止を求める相手は、言論・表現活動を封じ込めようと安全を脅かす側であって、主催者側ではありません。
会見で「抗告」について何度も問われ、「そんなに表現の不自由展を推すんだったら(記者の)会社の会議室で使わせてあげたら」と逆ギレした知事には、憲法と地方自治法の下での「公の施設」が果たす役割についての理解が全くないと言わなければなりません。
今回展示が予定されているのは、「あいちトリエンナーレ2019」(2019年・愛知県)で中止に追い込まれた「表現の不自由展・その後」の作品の一部です。当時吉村知事は、日本軍「慰安婦」を題材にした「平和の少女像」の展示を「反日プロパガンダ」と批判。展示を認めた大村秀章愛知県知事に、「知事として不適格」と悪罵を投げ付けました。のちに大村知事の「リコール署名」の契機となり、活動団体の事務局長を務めた維新愛知5区の支部長が、署名偽造の罪で逮捕されています。
「慰安婦像」を巡っては、2018年11月、サンフランシスコ市が像の市有化を決めたことを理由に、60年続いた同市との姉妹都市関係を解消したのは、大阪市長時代の吉村氏でした。日本維新の会としても、今年4月「従軍慰安婦」「強制連行」などの表現に関する質問主意書を提出、「不適切」との政府答弁を引き出し、新たな教科書攻撃を強めています。
指定管理者による施設使用取り消し支持を表明し、取消処分の執行停止を求めた裁判所決定への「抗告」に固執する吉村知事の態度は、自らの立場や考えとは違う者には、公の施設の展示を認めないというものであり、「表現の自由」を保障した憲法とも地方自治法とも相容れないものです。民主主義社会における自治体の長として、根本から資質が問われます。
会場使用の取り消しは「表現の自由」に反する
「表現の不自由展かんさい」 地裁決定を見る
大阪府立労働センター(エル・おおさか)の指定管理者が、「表現の不自由展かんさい」の会場利用の承認を取り消したことについて、大阪地裁第2民事部が9日に出した取消処分の執行停止の決定は、同処分が憲法第21条の「表現の自由」に反し、地方自治法や大阪府立労働センター条例に照らしても処分の合理的理由はないとしました。
決定によると、指定管理者側は、今年3月に同展の施設利用を承認しましたが、6月25日、主催者側に、同センター条例の「センターの管理上支障があると認められるとき」(4条6号)に該当するとして利用承認を取り消し。今後、正式に利用の承認の申し込みがされても、同条例の「センターの管理上知事が適当でないと認める場合」(3条2項4項)に該当するとして承認を認めないと通知しました。
地方自治法は「公の施設」の利用は広く認めている
決定では、同センターは、地方自治法244条にいう「公の施設」に当たり、大阪府から管理を委ねられた指定管理者は、「正当な理由がない限り、これを利用することを拒んではならず」(同条2項)、「利用について不当な差別的な扱いをしてはならない」同条3項)と述べています。
また、「地方自治法が、公の施設の利用を広く認めるのは、設置者である地方公共団体等による不当な利用制限が、住民に対する集会の自由や表現の自由の不当な制限につながりかねないからであると解される」とし、「設置者である地方公共団体等が公の施設の利用を拒むことができる正当な理由があると言える場合は、当該公の施設を利用させることにより、他の基本的人権が侵害されたり、公共の福祉が損なわれたりする危険がある場合に限られるというべきである」と述べています。
施設利用拒否は集会・表現の自由の不当な制限に
その上で決定では、「管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由、表現の自由の不当な制限につながるおそれがある」と指摘。施設側が主張する「センターの管理上支障があると認められる事態」については、「本件催物に反対するものによる抗議活動に起因するものであって、本件催物それ自体に起因するものではない」と指摘。「憲法上の表現の自由の一環として、その保障が及ぶべきものといえる」と述べています。
「表現の不自由展かんさい」が開催されると、「反対する団体や個人により、主催者等に危害を加えるなどの危険が発生することが明らか」とする管理者側の主張には、「直ちに、警察による適切な警備等によっても防止することができないような重大な事態が発生する具体的な危険性があるとまではいえない」と指摘しています。
多様な価値観で共存、反対意見は避けられない
同展へのクレームや街頭演説、街宣車による街宣活動についても、「催物の開催に対する反対意見の表明にとどまっている」とし、「催物が開催されれば、より激化することが想定されるとはいえ」「重大な事態が発生する具体的な危険性があるとまではいえない」とするとともに、「そもそも、住民が多様な価値観を持ちながら共存している以上、広く住民に開かれている公の施設において、本件催物に限らず、何らかの表現活動や集会をするについては、常に反対意見が存在することは避けられない」と述べています。
また、同展が開催されると、「これに反対する団体や個人により、センターの入居者や利用者らに静謐な環境の悪化その他の危害が及ぶことが明らか」だとする管理者側の主張に対しても、「本件センターで行われる集会や催物等に対する抗議活動には、表現の自由の一環として保障されるべきものであるから、一定の限度では受忍するしかないともいえる」とするとともに、街宣車によるセンター前の走行の程度が「著しく、業務妨害等として看過し得ない状態に至れば、警察による検挙その他の適切な対応を期待することができる」と述べています。
管理者、府、実行委、府警による相互協力で
その上で、改めて「本件催物を開催するには、これに反対する者による抗議活動等が想定されることについて、本件センターの職員等による適切なクレーム対応のほか、本件実行委員会、相手方及び大阪府警が、相互に協力した上で、本件実行委員会による自主警備、相手方ないし大阪府による警備、大阪府警察による警備等が適切に行われることが必要になるが、本件において、警察の適切な警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情があるとはいえず、本件センターの管理上支障が生ずるとの事態が、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されるとはいえない」と指摘。「本件センターの管理上支障があると認められるとき」に該当するとは「一応も認められない」と述べています。
(大阪民主新報、2021年7月18日号より)