おおさかナウ

2022年07月23日

大阪カジノ誘致計画
「国は認可するな」の声を上げよう
桜田照雄阪南大教授の訴えから

万博会場の南側、「ウォーターワールド」となる区域=4月24日、大阪市此花区内

 カジノを核とした統合型リゾート(IR)を大阪に誘致するための計画を、国が認可するかどうかが大きな焦点になっています。「カジノ問題を考える大阪ネットワーク」代表で、阪南大学の桜田照雄教授はこの間、府内各地の街頭演説などで、誘致計画の問題点を明らかにし、このまま計画を進めれば大阪の経済や府民の暮らしが破壊されると訴えています。その要旨を紹介します。


 私は大阪へのカジノ誘致に反対です。大阪湾の埋め立て地である夢洲へのカジノ誘致はまったく割に合わないからです。
 理由は2つ。1つは土壌汚染の対策費用がいくらかかるか見当がつかないこと。もう1つは地盤沈下対策をカジノ事業者に約束してしまったことです。この2つのことで、大阪の経済は破滅に追い込まれるという危機感を抱いています。
 カジノ誘致は、どこから始まったのか。2015年のラジオ番組で、当時の松井一郎知事は、私の目の前でこう言いました。
 「今どき1兆円の投資をするやつがどこにおる?」
 目の前にぶらさげられた人参を食わん馬がどこにいるのかと言わんばかりに、カジノ誘致に名乗りを上げました。

負担は府民や大阪市民へと

 松井さんは、夢洲の造成に投じた金は6千億円だと言います。さらにカジノとIRのためのインフラ建設に7500億円を使う。6千億円の造成費用は、土地を売って回収する算段でしたが、土壌汚染を認めたので土地の価値は10分の1に激減。その上、巨費を投じて地盤対策をやるので、回収のめどはありません。負担は大阪府民や大阪市民に押し付けられます。
 現に、大阪市は阿倍野再開発で発生した2千億円の赤字を、20年かけて一般会計から返済しています。年間100億円。それだけのお金があれば、市民のためにどんなことができるでしょうか。

有毒な物質が埋め立てられ

桜田照雄阪南大教授

 夢洲は産業廃棄物の処分場です。発がん性物質であるダイオキシン、さまざまな健康被害をもたらすPCB、中毒を引き起こすヒ素、青酸カリの材料となるシアンなどが大量に埋まっているのです。土壌汚染対策法の環境基準ができる2006年まで、化学物質を製造消費する工場は、敷地の中に有害物質を埋め立てていました。工場が廃止されて土地が売却され、そこにタワーマンションをつくろうとして有害物質があると分かり、処分に迫られました。その処分地が夢洲だったのです。
 大阪湾に注ぐ尻無川、安治川、木津川には工場廃液が垂れ流されていました。公害が問題となり、工場廃液の規制を始める1960年代の終わりまで、100年近く垂れ流しが続いていました。その川底をさらった土砂が夢洲の埋め立てに使われました。

360億円でとても済まぬ

 驚くべきことに、川底をさらって埋め立てに使う土砂は、廃棄物ではないと法律で定められていました。埋め立てを進めるための手続きも不要。そうして造成したのが夢洲です。この事実を知った松井市長は、「なんでもありやったんかい」と言ったそうです。
 大阪市はカジノ用地の対策に790億円の公費を投入します。内訳は、地盤沈下対策410億円、土壌汚染対策360億円、地下埋蔵物処分20億円。1億㌧もの土砂が埋め立てられているので、土壌汚染対策が360億円ではとても済みません。

夢洲の沈下はとどまらない

夢洲1区の入り口付近にある掲示。産業廃棄物の最終処分場であることを示しています=4月24日、大阪市此花区内

 大阪湾は世界でもまれな地層・地質だと専門家は指摘します。2万年前、氷河期が終わってから堆積した地層が沖積層。2万年以上前、氷河時代に堆積した地層が洪積層です。洪積層は沈下しないというのが世界の地質学や土木界の常識でした。
 ところが関空を造って初めて、大阪湾の洪積層は沈下することが分かりました。関空の1期島は造成後13㍍、2期島は16㍍も沈下しています。空港として造ることを前提に、地盤が沈下しないように何百本、何千本もの杭を打ってから埋め立てました。それでも沈下しています。
 夢洲はカジノを造るために商業用地に変えましたが、もともとは工業用地として活用する計画でした。ですから杭打ち作業はしていません。地盤沈下は、とどまるところを知らないでしょう。
 重大なのは、カジノ計画を進める吉村府知事、松井大阪市長はこうした事実を知っていたのに、無理やりカジノを造ろうとしていることです。
 大阪府とカジノ事業者が交わした契約書には〝地盤沈下の恐れがないことがはっきりしなければ、カジノは造らない〟と書かれています。「ない」と証明するのは不可能なのに、なぜそんな契約を交わしたのか。背後に隠されている意図は何か。大阪府は口を閉ざしたままです。

住民の合意が認可には必要

 国が誘致計画を認可するには、住民の合意が必要です。だからこそ「カジノの是非は住民が決める」と住民投票を求める署名運動が取り組まれ、約21万人もの賛同が寄せられたのです。
 カジノ誘致は大阪の経済を、大阪府民の生活を破壊しかねません。事業計画もずさんで荒唐無稽。安倍元首相は参院本会議(2018年7月)で、「国際競争力の高い魅力あるIR施設でなければ区域整備計画の認定を行わない」と答弁してしまいました。
 大阪の誘致計画は、6400台ものゲームマシンを並べるとしています。巨大なゲームセンターを造るようなもので、ラスベガスやマカオのカジノとは全く違い、国際競争力などありません。汚染土壌、地盤沈下、交通不便の夢洲に外国から富裕層が押し寄せるとは、専門家の誰もが考えていません。カジノには地方税を5年間無税にします。踏んだり蹴ったりです。
 こんな大阪でまともな商売をする気になりますか。真面目に稼ぐという気分になりますか。普通の人はどうやって暮らせばいいんでしょうか。国はこんな誘致計画を認可してはならないし、「国は認可するな」の府民の意思を示しましょう。

(大阪民主新報、2022年7月24日より)

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