維新政治転換し共同の大阪へ
たつみ知事候補が内田樹さんと対談
大阪府知事選挙に出馬表明した、たつみコータロー元参院議員が、思想家で武道家の内田樹さん(神戸女学院名誉教授)を、内田さんが主宰する神戸市の凱風(がいふう)館に訪ね、維新政治や自治体のあり方など、縦横に語り合いました。
対談 たつみコータロー氏 × 内田樹氏
「分断でなく協働の大阪を」たつみ氏
「公共のあり方問う選挙に」内田氏
◇ (たつみさんの出馬を知り、自身のツイッターで、「大阪市長選の野党統一候補は辰巳さんがいいんじゃないのと話をしたばかり」「応援します」とエールを送った内田さん)
内田 大阪市長じゃなくて府知事だったんですね(笑い)。
たつみ 年末に「明るい会」という政治団体から要請を受けて快諾しました。記者会見で、国政でやってきたが迷いはなかったかと聞かれましたが「ゼロです」と答えました。大阪の悪い政治の大本である維新政治をとにかく変えたいと。
内田 僕は学生時代は反代々木系の活動家だったので、共産党に対しては批判的でした。大学に勤めるようになって、同僚に党員が何人かいました。組合活動や学務をしているうちに、組織の中で一番信用できるのがクリスチャンとマルクス主義者だと骨身にしみて思うようになりました。思想的骨格が一本筋が通った人は頼りになるんです。一度約束したことは守るし、ぶれない。そういう党員たちと友人になってから、共産党に対する評価が変わってきたんです。
たつみ そうなんですか。
アメリカの最高裁判決
内田 平松邦夫さんが大阪市長の時に特別顧問を委嘱されて、教育関係について、哲学者の鷲田清一さん、宗教学者の釈徹宗さんたちと市長に提言する仕事をしました。平松さんは2011年の大阪市長選で橋下徹さんに負けましたが、平松さんがもう1期やってくれていたら、大阪はこんな悲惨なことにはなっていなかったと思います。
たつみ 橋下さんが市長になって一番最初にやったのが、大阪市職員への思想調査アンケートでした。政治活動への関与や誰に誘われたかまで書かせるもので、泣く泣く仲間の名前を書いた職員もいました。
内田 卒業式での「君が代」斉唱の口元チェックも、橋下さんの時に起きましたね。僕はナショナリストですから、国旗・国歌に対する敬意はあってしかるべきだと思っていますが、内発的なものでなければ意味がない。愛国心は政治的圧力で強要するものじゃありません。
たつみ 先生は以前、国旗の問題でアメリカの最高裁判決を引いておられましたね。
内田 アメリカ最高裁は1989年に、「国旗損壊を罪とする州法は憲法違反である」という画期的な判決を出しました。国旗損壊は個人の政治的意見の表明であり、その権利は憲法修正第1条が認めているとしたのです。判決を支持した判事の1人は「痛恨の極みではあるが、国旗は、それを侮蔑する者をも保護する」という補足意見を記しました。僕はこの「痛恨の極みではあるが」という葛藤を、公人として尊いものだと思いました。
たつみ なるほど。
政治と市場に巻き込む
内田 維新の政治で僕が強く批判しているのは、共同体が安定的に存続するために必須の「社会的共通資本」に手を突っ込んできたことです。社会的インフラ、ライフライン、行政、医療、教育などは専門家によって安定的に管理運営されるべきで、決して政治や市場とリンクさせてはならない。政権交代しようと、天変地異が襲おうと、恐慌があろうと、何事もなかったかのように淡々と継続されることが最優先なんです。
維新はそれを意図的に政治と市場に巻き込んだ。文化も敵視し、真っ先に助成を削ったのが、文楽とオーケストラでした。有料公演で黒字が出せない芸能には存在する価値がないという病的な市場原理主義も、維新以後の「大阪の常識」になってしまった。本来公共は、そういう文化の存続を支援するためのものなのに。
維新の政治手法は、人間の欲望や怨念や嫉妬といった本音を感情的基礎にしています。確かにそれもリアルなのですが、公共心や倫理のような「きれいごと」を手放したら世の中は持ちません。日本人の倫理的劣化に棹をさした維新の罪は深い。
たつみ 彼らの政治手法は、公務労働者と民間労働者、高齢者と現役世代、困窮者とそうでない人を対立させて分断し、「既得権益」といって攻撃するというものです。そんな分断・対立から連帯・共同の政治への転換を、この選挙で訴えていきたいと思います。
無駄をなくすと言って
内田 集団内部に「諸悪の根源」を探し出して、「既得権益を不当に享受しているやつらを排除すれば万事うまくゆく」というのは、陰謀論の基本です。維新は公務員バッシングから始めて、医療者、教員…と次々標的を拡げました。その結果、大阪の医療も教育も全国最低レベルにまで低下した。
たつみ 行政的には「二重行政」といって市民病院をつぶしたり。
内田 府立大と市立大の統合も「無駄をなくす」ためのはずでしたが、統合のための不要なタスクのせいで、膨大な教育研究のための時間が失われました。費用対効果を考えたら、信じられないほどの無駄をしたことになる。そもそも、校風も教育理念も教育方法も違う大学を統合することはナンセンスです。教育機関は多様なものが共生している方が、学問的には生産的であるに決まっているのに。
ツケ払うのは府民市民
内田 カジノは世界的に斜陽です。コロナによる行動制限、富裕層の偏在、人口減、どのファクターもカジノ商売には先がないことを示しています。大阪カジノは歴史的失敗となり、大阪は巨額の赤字を抱え込むことになると思います。
たつみ カジノはギャンブルだから、経済の成長にはなりません。吉村知事は依存症対策を進めていくと言いますが、ギャンブル依存症は1回なれば治癒が困難なんですよね。
世論調査でカジノ反対の理由の一番は、依存症が増えることと治安が心配だということ。現に警察官を300人増やすと言っています。公務員は減らす一方で。
内田 治安悪化もギャンブル依存症も、深刻な社会問題として顕在化するのは何年も経ってからです。その頃には「カジノをつくろう」と言い出した人たちは姿を消していて、誰も責任を取らない。ツケを払い続けるのは、未来の大阪府民市民です。
たつみ 「大阪都」構想の住民投票では、保守の方も含めて運動を繰り広げ、ぎりぎりのところで大阪市廃止を止めました。大阪は人情の街といわれてきましたが、分断をあおる政治ではなく、連帯・協働して大阪の経済や文化、教育、医療を守って支えていく大阪にすることこそが、私の一番の使命だと思っています。
記者会見でも言いましたが、とにかく討論会をやってほしい。吉村さんはコロナで自分の言いたいことだけ言ってますが、「頑張っている」のなら、なぜ大阪でこれだけ多くの人が亡くなっているのか。今の大阪がどうなっていて、どう変えるべきか、ぜひ可視化させたいと思います。
内田 討論会ぜひやってほしいですね。
中小零細企業に光当て
たつみ 大阪の経済を支えている中小零細企業にも光を当てたいと思っています。
この間、お会いした東大阪の工場の社長さんは、トヨタの車をつくるロボットのアームのねじを作っておられました。ねじがつぶれて車が造れないと、入院中の社長に電話が掛かってきたんですが、ねじを作れるのはその社長さんしかいないので、手術の翌日に工場に戻って作ったそうです。大阪の中小零細企業が日本の経済を支えているんだと思いました。
内田 僕たちが名前も知らない日本の中小企業が、世界的なメーカーに納品していますからね。
たつみ ところが後継者がなくてその代で終わりになると。国の政策として後継者継承支援策はありますが、府に独自施策がないんです。僕が知事になれば、まず東大阪、八尾などに視察に行きたいと思っています。
内田 資本主義の延命を図り、人口減の中でなお経済成長にこだわれば、できることは一つしかないんです。都市部に資源を集中させ、それ以外の地方は無住地化することです。人為的に過密地と過疎地を作る「囲い込み」です。
たつみ 国交省もコンパクトシティとか言っています。スーパーメガシティ構想でも、日本は関東、中部、近畿の3地域でいいという方向性です。
平成の市町村合併で、合併したところとしなかったところを比較した方がおられるんですが、合併しなかったところのほうが人口が保たれました。
内田 合併すると、行政機関も学校も病院も警察も消防も、何もない行政空白地ができる。それは「そこには住むな」という政府や自治体からのメッセージなんです。
たつみ 大阪でも人口減で悩んでいる自治体がありますが、そういうところで学校などがなくなると、さらに人が減るでしょうね。
町衰退させる維新政治
内田 地方都市でも、行政機関と病院と学校があれば雇用を創出して、地域経済を回せる。アメリカの地方都市には、州政府機関と大きな病院と大学だけで雇用と消費を創出しているところがあるそうです。
たつみ なるほど。
内田 合理化・統廃合を続ければ、いずれ都市部以外は「居住不能地」になります。それより津々浦々に行政機関、病院、学校を維持し、そこを中心に地域経済を回す仕組みをつくるほうが、はるかに合理的な解だと思います。
たつみ 今こそ大々的に打ち出して、これでこそ地域が活性化するということと、何でも統廃合、民営化の維新政治は、町を衰退させるばかりだということを話していく必要がありますね。
内田 すべての国民資源を都市部に集中する「シンガポール化」を行えば、人口減でも、そこだけは人口過密で、活発な経済活動が営めます。でも、それ以外の土地は無住地化して、居住不能になる。無住地になれば、地価はゼロだし、生態系を破壊しても、抗議する地域住民そのものが居なくなります。その無住地は、原発や太陽光発電や産業廃棄物処理場などに利用されることになると思います。
日本の山河がそういうふうに破壊されることに僕は耐えられないんです。たつみさんにはぜひ府内どこでも文化的な生活ができ、生業が営め、伝統的な祭祀や文化を守っていけるような地域を守る政策を掲げてほしいです。
今共感されている言葉
たつみ 街頭で訴えを聴いてくれている人の中には、僕と同世代で、就職氷河期世代で苦しんだ人たちが少なくありません。バブルの後、政策的に貧困がつくられる中で自己責任論を押し付けられてきた人たちに、今まで分断されてきたよね、でもそういう分断はやめよう、やめようと言ってもいいんだ、公務労働者をいじめるなと言っていいんだという言葉が共感されているのを感じます。
内田 たつみさんにはぜひとも知事になって、維新政治を止めていただきたいです。僕も応援します
(大阪民主新報、2023年2月5日号より)