大阪市の地下鉄・バス民営化修正案について
公営の意義を認めながら民営化の強行は許されない。民営化計画はきっぱり撤回を
2013年5月17日 日本共産党大阪府委員会
大阪市は5月8日、地下鉄・市バス民営化方針(案)の一部を修正した「民営化基本プラン(案)」(以下、「修正案」)を発表しました。「修正案」は、これまで一言も触れていなかった「公営企業の意義」を明記するなど、民営化方針の矛盾と破たんがうきぼりになっています。にもかかわらず「民営化ありき」の立場から、新たなごまかし策を盛り込んだ内容となっています。日本共産党は、このような民営化計画はすみやかに撤回し、公営企業としての役割を発揮し、安全・快適・便利な公共交通を確立する方向へと、舵を切り替えることを求めます。
1、民営化計画の破たんあらわす「修正案」
「修正案」には「公営企業の意義」の項や「民営化のデメリット」が追加されました。「公営企業は住民生活における身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する役割を果たしており、公共の福祉を増進していくことが本来の目的である」とのべています。
民営化案に対し、日本共産党は、公営企業は「公共の福祉の増進」を目的にしたものであり、「営利」を目的にした民間事業とは根本的に違うことを明らかにしてきました。これにたいして大阪市は、これまで「市民サービスは公営ではなしえない」などと、「公営敵視」というべき議論を展開してきました。今回の「修正案」の変更は、市議会での論戦と世論の前に、市当局の「民営化ありき」の議論が通用しなくなったことを示します。
また、市バスの民間譲渡問題でも、日本共産党は、全財産を時価で売却したとしても、企業債の償還や退職金、補助金の返還などで315億円が不足し、市民負担を招くことを明らかにし、民営化の中止を求めてきました。この点でも「修正案」は「当面、民間事業者に貸し付ける」として、当初計画の売却方針を撤回しました。
これらは当初の民営化計画のずさんさを示すものです。
2、公営でこそ「市民の足」は守れる
「修正案」が認めたように、公営企業は「公共の福祉の増進」が目的です。大阪市は一貫して、「都市の電気鉄道は其の事業本来の性質上、市民の日常生活と密接な利害関係を有するを以って、之が経営は個人若しくは営利会社の手にゆだねるべきものにあらず」(第2代市長・鶴原定吉氏)との立場にたってきました。市公営企業審議会も、交通事業の目的を「市民の生活快適化と社会的活動の円滑化、すなわち、都市機能の活性化を移動便宜の面から確保すること」としています。
いま重要なことは、これらの積極面を受け継ぎ、発展させることです。それでこそ、黒字の地下鉄・バス一体のネットワークを維持し、「市民の足」を確保できます。地下鉄を株式会社にし、株主に巨額の配当(当面毎年25億円ともいわれます)をするのでなく、安全対策と乗客サービスの向上=料金値下げやホームドア設置、さらに南海トラフ巨大地震の津波対策などに使うべきです。また、8号線についても、「修正案」は、公営企業だから「初期投資が多大にかかる民間では参入しにくいインフラ整備」ができることを認めています。市営地下鉄を維持してこそ、都市ネットワークの確実な整備がはかれます。
さらに、バス事業がおこなったオスカードリームの276億円ともいわれる負債の処理について、橋下市長は「民営化」と引き替えに、市民負担にまわす考えをのべています。日本共産党は当初からオスカードリームに反対してきましたが、破たん処理にあたっては失敗の尻ぬぐいを市民に押し付けるのでなく、地下鉄とバスの一体運営を続けながら、その利益をあてて解決することがもっとも現実的で、合理的と考えるものです。
3、「修正案」の新たなごまかし
「修正案」には「議会での議論、意見をふまえた」として新たな対策が盛り込まれました。しかし、その対策もウソとごまかしがあらわになり、あらたな矛盾と混迷をもたらすものとなっています。
(1) 生活に必要なバス路線維持の担保はなし
バスの生活路線の維持をどう担保するかは、3月市議会でも大きな焦点になりました。民間バス事業者は、採算がとれない路線は運行しません。市議会でも「豊中市で、阪急バスは、補助金5000万円を出したところは走るが、それ以外は走らない」と指摘されました。赤字を理由に、住民と市長が存続を要望した路線であっても民間バスが撤退し、廃止された例は多くあります。
これへの対応について、「修正案」は、「譲渡後5年以降のサービス水準の維持・向上方策」を掲げ、その中に譲渡事業者が「改廃等を必要と判断した場合、対応方策を協議・調整する」こと、そして、「譲渡先事業者が路線を維持できないと申し出た場合には、(市の)交通政策部門が代替交通事業者を確保し必要な路線を維持する」こと、さらに「交通政策部門として路線が不要と判断した場合は、廃止もあり得る」としています。
これでは民間バス事業者が廃止を申し出ても、「協議・調整する」だけです。
また民間バス会社ができないという場合、市で代替業者を見つけるといいますが、どんな代替路線になるかは不明です。しかも「廃止もあり得る」としており、路線の維持は担保されていません。
また、「修正案」は、譲渡を受けた民間バス事業者の撤退に際しては、市の外郭団体・大阪運輸振興(株)を活用するとして、あたかも、市が撤退後のバス路線を維持できるかのごとく宣伝しています。しかし、地下鉄が完全民営化されれば、大阪運輸振興(株)へのコントロールはできません。しかも、利益のでない民間バス事業者は撤退し、市の外郭団体で穴を埋める――要は“黒字路線は民間に、赤字路線は大阪市に”というもので、市民の理解が得られるものではありません。
また「修正案」による大阪運輸振興(株)への随意契約による譲渡案は、新たな既得権益を生み出すとの批判がで、橋下市長は、「今後透明性が確保できるように検討体制を別につくる」と語っています。結局、どういう姿になるかは不鮮明なままです。
市民の足を守るバス路線の確実な維持は、市営地下鉄とバスの一体運営でこそ担保されます。バス事業、路線とサービスを守るために、「民営化」はきっぱり中止すべきです。
(2)「8号線延伸」など新たな都市ネットワーク整備の保障はない
8号線延伸について、「修正案」は、「検討委員会を設置し、市としての考え方を明確にし」「新会社は最大限に尊重していく」としています。しかし、これが市議会の全会一致の「早期整備に関する決議」にこたえたものでしょうか。
もともと橋下市長は「(8号線は)市民の足という視点だけで事業をすすめるなんて、こういうことを止めるために大阪都構想を掲げた」(2012年1月12日)などと記者会見でのべていました。今回の「修正案」についても、「市長という立場で旗は振らない」と凍結の考えをあらためて強調したうえで、「新会社で合理的に判断し、リスクを伴いながらでもやろうというのであれば口は出さない」というだけです。
また、民営化後の新会社が8号線延伸をやる場合の収支見通しも示していません。これで前に進むという保障はありません。
(3)津波対策など安全・安心の計画に触れず
「修正案」は、安全・安心の確保について新たに項を起こしています。しかし、ホームからの転落防止に大きな役割を果たす「ホーム柵」設置なども、従来方針をのべるだけで、南海・東南海地震と津波を想定した安全対策については、いっさい触れられていません。防災専門家からは、「民営化すれば安全への投資ができなくなる」との警告が出されています。
4、「大阪都構想」の地ならしの民営化にストップを
こうして「修正案」は、ごく一部の手直しはしたものの、当初の民営化方針を転換するものではありません。そればかりか、「議会での議論、意見をふまえた」として、新たなウソとごまかし、矛盾をもちこむものになっています。
もともと、公営企業の民営化は、「狙え!官業開放『50兆円市場』」(「日経ベンチャー」2005年3月号)として、財界が強く狙っているものです。市営地下鉄民営化も、関西財界がかねてから狙い、3月市会では関西経済同友会が閉会本会議直前に「民営化実現に関する緊急アピール」を各市会議員に送るなど、異例なまでの対応をすすめました。
また地下鉄、バスの民営化は「大阪都」構想の一里塚となるものです。橋下市長は、「大阪都になれば、地下鉄は大阪市役所から解放され、大阪全体のことを考える民間経営主体が経営し、港湾や鉄道や高速道路など広域インフラは大阪都が仕切ります」(『体制維新―大阪都』)とのべています。
日本共産党は、こうした地下鉄・市バス民営化案をきっぱり断念することを強く求め、この点で一致する広範な市民のみなさんとともに力をつくすものです。