大阪市営地下鉄・バス 問題だらけの民営化
メリットどころか市民は大損
15日開会した大阪市議会の2・3月定例議会に、橋下徹市長が市営地下鉄・バスを民営化するため、公営としての両事業をそれぞれ廃止する条例案を提出しました。バスは14年4月、地下鉄は15年4月からの民営化を目指して今議会での成立を狙う橋下市長。その意向を受けて市交通局は昨年末に「民営化基本方針(素案)」を出していますが、問題だらけの民営化を強行していいのか、いま問われています。
Q1 経営感覚が欠けていた?
A1 地下鉄は〝超優良企業〟 市民・利用者に還元を
いまなぜ、民営化しなければならないのか。橋下市長や市交通局は、これまで公営事業で「経営感覚」が欠けていたからと言いますが、本当でしょうか。
地下鉄は、1933年に御堂筋線が開業して以来80年間、都市計画の一環として整備され、市バスと共に市民の足を守ってきました。91年度以降、地下鉄は建設費の73・2%が国と大阪市の資金で造られた市民共有の財産。営利を追求する民間鉄道事業とは目的も成り立ちも異なります。
地下鉄建設には1㌔㍍当たり2~300億円もの建設費が必要です。企業債の利子負担などが膨らみ、赤字基調が続いてきましたが、公営企業としての経営努力で03年度以降は単年度黒字に転換。10年度には最大2900億円あった累積欠損金を、公営地下鉄として初めて解消。11年度には167億円の黒字を上げ、企業債残高は7542億円(07年度末)から5976億円(11年度末)へ、4年間で約20%も減らす〝超優良企業〟になっています。
こうした収益力・資金力は、料金引き下げや、可動式ホーム柵の設置をはじめ、安全対策など、市民・利用者に還元するのが筋です。
Q2 「税金を納める組織」に?
A2 利益上げる公営企業は市の財政に立派に貢献
「基本方針」は地下鉄民営化で、「税金に頼らない経営」「税金を使う組織から、納める組織へ」変わるとしていますが、ごまかしがあります。
一般会計から地下鉄事業へ、02年度から10年間で約2千億円の出資金、補助金を繰り入れていますが、大半は地下鉄建設やエレベーター、エスカレーター建設のためで、公共交通として必要なもの。営業外収益では利子負担軽減を目的とする補助金(特例債元利補助金)は年々減額され、12年度は7億円に。逆に地下鉄事業は一般会計に96億円を貸し付け、一般会計分担金も18億円支出し、「税金に頼る」どころではありません。
「基本方針」は「民間企業として大阪市に納税できる」という「メリット」を挙げ、固定資産税などの納税額を毎年67億円と試算していますが、民営化しなくても黒字の地下鉄は市財政に貢献できます。
地方公営企業法18条2項は、出資を受けた場合は利益の状況により一般会計に納付すると規定しています。地下鉄建設費の2割を一般会計から出資し、累計は3414億円(11年度末)で、その2%としても67億円。固定資産税等の納付額と変わりません。
Q3 バスのサービスが向上?
A3 路線守られる保障なし 新たに借金310億円
市バス事業民営化について「基本方針」は、「サービスを今後も維持し、向上を目指すため」と掲げています。
高齢社会が進む中で、身近な交通手段であるバスの役割が高まっているのに、「基本方針」は現在の132路線のうち、44路線を廃止。「事業性のある」とした88路線を民間バス会社に売却するとしています。市は、5年間は毎年10億円の補助金を交付するとしていますが、採算が取れるのか、路線が守られるのか、何の保障もありません。
地下鉄駅に乗客を運ぶ路線をはじめ、公共交通として赤字路線を維持するため、黒字の地下鉄会計からバス会計に08年度から4年間で計212億円の繰り入れや出資を行ってきました。この支援を12年度から中止し、地下鉄民営化と一体に、バス切り捨てを打ち出したのが橋下市長です。
市バスの廃止には、企業債の償還や地下鉄会計への返済など、計736億円の資金が必要です。営業所の土地などの財産を売り払って充てるというものの、売却益は市の見込みでも426億円。不足の310億円は借金するしかなく、市民は新たな負担を背負わされることになるのです。
Q4 公営の役割は終わった?
A4 計画路線が事実上中止 各党の対応も問われる
「基本方針」では15年4月からの民営化(当面、大阪市100%出資の株式会社)を打ち出し、将来は株式上場ができる企業体として完全民営化を目指すとしていますが、公共の福祉の増進を本旨とする公営企業としての役割は終わっていません。
「大阪市交通事業の設置等に関する条例」には地下鉄9路線153㌔㍍が定められていますが、そのうち8号線(今里筋線)の延伸(今里―湯里6丁目)や敷津長吉線(住之江公園―喜連瓜破)など未着工の「計画路線」の整備が残っており、これらは市民との約束です。
8号線延伸の早期実現を求める決議は、民営化を掲げる維新の会も含めて全会一致で可決。ところが、同条例が廃止されれば、路線を建設する法的な根拠がなくなり、事実上ストップしてしまうことになります。
市営地下鉄・バス事業の公営としての事業を廃止する条例の可決には、大阪市議会(定数86)の出席議員の3分の2が必要。維新の会(33人)と公明党(19人)だけでは可決できない中、自民党(17人)、民主系のOSAKAみらい(9人)の態度も問われています。
(2013年2月24日付け「大阪民主新報」より)