政策・提言・声明

2012年09月27日

大阪の教育を良くする「教育改革提言」を掲げて
――橋下・「維新の会」の教育破壊とたたかう

2012年9月27日
日本共産党大阪府委員会文教委員会

 子どもと教育をめぐって、いじめ問題など解決が求められるさまざまな問題があるなかで、府民と保護者の教育への願いは切実です。こうした府民の願いに応えて、政治が果たすべき役割は、少人数学級や学校耐震化の促進など教育条件を整備することにあります。

 ところが、橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」は、国政進出にむけた「維新八策」のなかで、政治が教育に介入しようとする大阪の教育関係条例を「さらに発展、法制化」し、全国に広げようとしています。 これに対して、私たちは、大阪の教育改革の展望を示し、教育関係条例の危険性を明らかにした「教育改革提言」を発表しました。

 ここでは、今日の政治状況を踏まえ、この間の大阪での教育関係条例をめぐるたたかいの到達点と課題を整理して、今後のたたかいの発展にむけて、いくつかの問題提起を行います。

1 教育関係条例をめぐるたたかいの経過

(1)憲法違反の「国旗・国歌」強制条例

 2011年4月のいっせい地方選挙後、府議会で過半数を握った「維新の会」が最初に行ったことが、選挙公約にもなかった「国旗・国歌」強制条例の強行です。5月府議会のきわめて短時間の審議で、事実上「維新」単独で可決強行した民主主義破壊の暴挙でした(6月3日)。大阪市では橋下市長が翌年2月市議会に大阪府と同様の条例案を提案し強行しました(2012年2月28日)。

 条例で「国旗・国歌」を教職員や子ども・保護者に強制することは、憲法が保障する「内心の自由」を侵害し、「国旗・国歌」法の制定趣旨にも反します。条例強行までの短期間のたたかいで、緊急府民集会(2011年6月1日)や声明など教育関係者がたちあがり府民世論に訴えました。大阪教育文化センターでは、「君が代」強制条例の廃止を求める「アピール」を51人の識者が呼び掛け、同年8月までに693人の賛同を得ました。

 わが党は条例強行後、「『君が代』強制条例の問題点は何か」(2011年6月24日、文教委員会)を発表して、民主主義と教育を守る府民共同を呼び掛けました。

 「国旗・国歌」強制条例強行後、初の卒業式・入学式が2012年春、行われました。子どもの卒業や入学を祝い、学校教育の一貫としての卒業式・入学式で、「国旗・国歌」の強制を行うことが、いかに子どもと教育にとってふさわしくないのか、あらためて浮き彫りになりました。橋下府知事当時に任命された府立高校民間人校長が、同校の卒業式で教職員が「君が代」を斉唱しているかどうか「口元チェック」したことが明らかになりました。これに対する府民的な批判は強く、作家の赤川次郎氏は「生徒のためのものであるはずの卒業式で、管理職が教師の口元を監視する。何と醜悪な光景だろう」と痛烈に批判しました(「朝日」2012年4月14日付「声」欄)。

(2)政治権力の教育への介入――維新「教育基本条例案」

 橋下・「維新の会」は2011年8月、「教育基本条例案」「職員基本条例案」を9月府議会に提案することを明らかにしました。この条例案は「大阪府の教育の責任者である私たち(教育委員)の一切知らないところで準備され」(「教育基本条例案に対する教育委員の見解」2011年10月25日)たものです。

 府立学校「教育目標」を知事が設定することや府立高校3年連続定員割れで統廃合などの内容に、教育関係者はじめ労働、法曹関係者らが強い批判・反対の声明をただちにあげ、9月6日には府民集会が開催されました(1200人参加)。わが党は見解「『教育基本条例案』で大阪の子どもと教育はどうなるのか」を発表(9月1日、文教委員会)して条例案の問題点を明らかにし、条例案に反対する府民共同を呼び掛けました。この間に、2条例許さない大阪連絡会(当時は8団体)が呼び掛けた府庁前宣伝、全駅宣伝などの行動が強められました。

 「維新の会」府議団は同条例案を9月府議会に提案しましたが、論戦とたたかいが広がるなか、ダブル選後の12月府議会では継続審議とされました。同大阪市会議員団が9月市議会に提出した条例案は否決。同堺市議団が提出した条例案も12月市議会で否決されました。堺市教育委員会は教育基本条例案について「本市の子どもたちの教育に望ましい影響を及ぼすものとは考えられず、教育委員会として是認できるものではない」と見解を発表(12月8日)、堺の著名4氏が呼び掛けた条例案の白紙撤回を求める「堺からのアピール」が発表されました(11月4日)。高槻市議会は「大阪府の『教育基本条例』制定に反対する意見書」を採択しました(12月15日)。

 「反独裁」の共同が大きく広がり11月の大阪市長選挙で平松市長が52万票(得票率41%)を獲得した直後、2条例許さない大阪連絡会が12月7日に中之島中央公会堂で開いた府民集会には1400人超が参加。この時期に、「『教育目標』の設定は、首長にその職務権限はない」との政府答弁が出されました。なお、「維新」府議団が提出した2条例案は、2012年2月に知事提案されるなか、同趣旨であるとして3月7日の本会議で撤回されました。

(3)維新案と本質的に変わらない府条例の強行

 松井大阪府知事は、府市統合本部での検討を経て、「教育行政基本条例案」「府立学校条例案」「職員基本条例案」などを2月府議会に提案しました(2012年2月23日)。これらの条例案は、維新が提案した2条例案と“政治の教育介入”という根幹部分で同じであり、本質的に変わらないものでした。竹下景子さんや尾木直樹さんら「学者・文化人アピール」よびかけ人主催の1・28シンポジウム(守口市内、800人)、2条例許さない大阪連絡会が開いた2・22府民集会(中之島中央公会堂、2500人)、3・18府民集会とパレード(女神像前公園と御堂筋、1500人)が行われるなど府民世論と運動が広がるなか、「維新」・自民・公明などは3月23日の本会議で強行しました。わが党は同日、条例強行は憲法と教育の根本精神を踏みにじる暴挙であり厳しく抗議するとして柳書記長談話を発表しました。

(4)2度にわたり「継続審議」とさせた大阪市条例

 橋下市長による憲法違反の「思想調査」(2012年2月)が大問題となるなかで、「教育行政基本条例」などが市長提案されました(3月16日)。3月議会では継続審議とされ、5月議会で「教育行政基本条例」と「職員基本条例」が、7月議会で「市立学校活性化条例」が強行されました。いずれも「維新」・公明などが賛成。「教育行政基本条例」と「市立学校活性化条例」は日本共産党と民主党系会派に加えて自民党が反対にまわりました。わが党は、5月議会と7月議会の強行にあたって柳書記長談話を発表。市内各区で開催された学校教育フォーラムで学校関係者や地域住民から、橋下市長が導入方針を示している学校選択制についての批判・反対意見が相次ぐなど、条例内容と市民要求との矛盾は大きいものがあります。大阪市教らが呼び掛けた2条例反対アピールには短期間に1093人が賛同(5月9日発表)。わが党市会議員は、学校長や町会長らと対話・懇談し共同を広げました。

(5)「家庭教育支援条例案」をめぐって

 「維新の会」大阪市議団は2012年5月、子どもの発達障害の大きな要因は「乳幼児期の愛着形成の不足」(親の愛情不足)にあるとし、「親学」や学校用家庭科副読本・道徳副読本、家庭用道徳副読本の押し付けなど家庭教育の内容に介入する「家庭教育支援条例案」を市議会に提案しようとしましたが、保護者団体や教育関係者の強い反対・批判のなか撤回に追い込まれました。この時期、橋下大阪市長と松井府知事は、過去の侵略戦争を正当化する歴史観にもとづく資料などの展示をおこなう「日本近現代史教育施設」構想を明らかにしました。8月には、橋下市長による戦時中「従軍慰安婦」問題について「強制連行の事実があったのか確たる証拠がなかった」という暴言に対して、府民的な抗議・撤回の声があがりました。こうした一連の動向から、「復古の会」というべき橋下・「維新の会」の本質が浮き彫りになっています。

2 教育関係条例の問題点について

(1)憲法が厳しく退けた政治の教育への介入に道を開く

 教育関係条例の第一の問題点は、憲法が厳しく退けている政治の教育への介入に道を開くということです。

 人間の思想、価値観、内面に政治権力は立ち入ってはならない――これは近代民主主義の大原則であり、日本国憲法で保障されている基本的人権の根幹です。教育は、「人間の内面的価値に関する文化的営み」であり、「教育内容に対する国家的(権力的)介入はできるだけ抑制的でなければならない」――このことが憲法の要請であることは、最高裁判決でも明記されたことです。

 大阪府・大阪市の「教育行政基本条例」は、首長が教育委員会と協議して「教育振興基本計画」の案を作成し議会にはかるとしています。これは、首長が学校の「教育目標」を設定するとした維新案(「教育基本条例案」)と“政治の教育介入に道を開く”という点で、本質的に変わらない規定です。

 大阪府は8月30日、「教育振興基本計画」案の作成にむけた「中間まとめ」を公表しました。ここでは大阪の教育の「めざす目標像」として3点示されていますが、これらは、「維新」の教育観にもとづく「教育目標」そのもので、政府・文部科学省が地方教育行政法からみて“知事の権限外”とした「教育目標」の設定に踏み込む違法なものです。

(2)新自由主義的な競争主義教育をさらに強化・推進

 教育関係条例の第二の問題点は、この間、進められてきた新自由主義的な競争主義教育をさらに推進するということです。

 財界の経済政策と結合させて1960年代以降、歴代自民党政権による日本の教育政策は競争主義的な性格を一貫してもってきました。近年の新自由主義的な教育政策は、これを一層推し進め、日本の教育は、国連子どもの権利委員会から、「高度に競争的な教育制度のストレスなどが子どもの発達をゆがめている」として、競争主義教育の是正を3度にわたって勧告される深刻な現状にあります。大阪の教育政策も、橋下前府政のもとで、全国いっせい学力テストの平均正答率を上げるための数値目標達成の押しつけなど(「『大阪の教育力』向上プラン」2009年1月)が行われてきました。今回の教育関係条例は、これらの競争主義教育を一層強化し、推し進めようとするものです。

 大阪府と大阪市の条例で示され、具体化されようとしているのは、府立高校3年連続定員割れで統廃合の対象にすることや府立高校学区制の撤廃、小中学校への学校選択制導入などです。

 府立高校ではすでに学区の拡大(9学区から4学区)や「進学指導特色校」(10校)が指定されるなど競争をあおる施策が進められてきました。「切磋琢磨」と公私の学校間競争をさらにあおり、「入学定員を満たすかどうか」などを基準に統廃合を推進することは、すべての希望する子どもの高校教育への機会を奪うものです。

(3)「職務命令」と「免職処分」の脅しで教職員を支配・統制

 教育関係条例の第三の問題点は、「職務命令」と「免職処分」の脅しで教職員を支配・統制することにあります。政治が教育への介入を行い、「教育目標」を設定し、競争主義教育を推進するために、学校と教職員を首長いいなりの下僕にしようとするものです。条例は、学校長の職務命令に5回違反(同一は3回)した場合、免職処分にできるとしています。これは、教職員を憲法が示す「全体の奉仕者」から「一部の奉仕者」に変質させるものです。

 教育は、教師と子どもの人間と人間との関係のもとで成立します。教育に命令や強制はなじまないものです。「教育目標」や「教育内容」を、命令と処分で教師に強制することが、いかに子どもの成長・発達にとって有害になるかということは、子どもを戦場に送りだした戦前の軍国主義教育の痛切な教訓からみても明らかです。

(4)教育関係条例でいちばん被害を受けるのは子どもたち

 こうした大きな問題点をもつ教育関係条例で結局、いちばん被害をうけるのは大阪の子どもたちです。教育は子どもの人間的な成長・発達を目的に行われなければならず、府民・保護者の願いも子どもの豊かな成長、基礎的な学力を身につけることなどにあります。競争主義教育政策の失敗は国内外の例から見ても明らかであり、これ以上大阪の教育への持ち込みを続けることは許されません。

 子どもの人間的な成長・発達を保障することが大阪の教育改革の方向として求められます。政治の役割はこうした教育をささえるために、少人数学級など教育条件を整備することにあります。子どもは未来の主権者であり社会の形成者です。橋下・「維新の会」が政治権力を行使して子どもの未来を縛ることは許されません。

3 教育関係条例を許さない国民・府民共同の発展

(1)“オール教育関係者”の共同――学校、教職員、保護者、教育委員、大学教員

 この間、教育関係条例を許さない国民・府民共同は、広がりと深さをもって発展しました。教育関係者の間では、“教育基本条例案に反対するオール教育関係者”というべき実質的な共同が広がりました。

 府立高校では、「維新」案が明らかになった(2011年8月~)直後から府立高校教職員組合が呼び掛けた教育基本条例案に反対する署名に、職場の9割を超える教職員が応じました。学校管理職のあいだでも教育基本条例案に反対する方々が広がりました。府立高校PTA協議会(藤田城光会長)は役員12氏連名で、「維新の会」と知事、府議会議長あての「嘆願書」をそれぞれ提出し、高校生を持つ保護者の立場から、教育基本条例案は「撤廃」すべきと心をこめて訴えました(10月19日)。藤田会長はその後、2条例許さない大阪連絡会主催の府民集会に2度出席し連帯の発言を行いました。大阪府教育委員会(生野照子委員長―当時)は教育委員5氏連名で、憲法と教育法令を尊重する立場から、「教育基本条例案は白紙撤回されるべき」だとする見解を発表しました(10月25日)。大阪大学大学院の教授有志が教育基本条例案への「意見表明」を公表しました(10月10日)。

(2)労働・法曹関係者、学者・文化人はじめ各界から強い批判

 「維新の会」が「教育基本条例案」「職員基本条例案」を9月府議会に提案することが明らかになった2011年8月以降、労働・法曹関係者らが声明・アピールを相次いで発表しました。大阪憲法会議の幹事長声明(8月22日)、大阪府職労の委員長声明(8月24日)、大教組・府高教・府障教委員長の連名アピール(8月31日)、2条例反対8団体の府民アピール(9月5日)、日本科学者会議大阪支部の声明(9月5日)、自由法曹団大阪支部の声明(9月6日)、大阪教育文化センターの声明(9月21日)、民主法律協会の会長声明(10月3日)などです。また、国際婦人年連絡会(11月14日)やNPO法人関西こども文化協会(11月22日)がアピール・声明をそれぞれ発表しました。

 大阪弁護士会は「憲法及び地方教育行政組織法に違反する大阪府教育基本条例の制定に反対する」と会長声明(2011年9月15日)、日本弁護士連合会は「教育基本条例案が可決されることのないよう求める」会長声明(12月27日)をそれぞれ公表しました。大阪弁護士会は、教育関係条例案の知事提案後に再び会長声明(2012年3月19日)、橋下市長による憲法違反の「思想調査」に対しても中止を求める会長声明を公表(2月14日)。同会は教育関係条例についてのシンポジウムを2回開催しました(2011年12月、2012年8月)。わが党とは、5・19教育懇談会の案内と「教育改革提言」を紹介するさい、同会副会長2氏と懇談しました(2012年5月)。

 日本ペンクラブ(浅田次郎会長)は「教育は、人間をひとつの型やルールにはめ込んで管理するものではありません」と述べ、維新案は「工場の品質管理」だと批判、「私たちは大阪府教育・職員基本条例案に反対します」との声明を発表しました(2011年9月26日)。 

 女優の竹下景子さんや教育評論家の尾木直樹さんら学者・文化人10氏によるアピール「大阪府教育基本条例案に反対します」が発表され(2011年11月17日)、135人の方々が賛同を寄せました(2012年1月28日現在)。学者・文化人10氏は教育関係条例案が知事提案され大阪市議会開会日に新しいアピールを発表し国民・府民世論に訴えました(2月28日)。同10氏主催による「教育基本条例に反対するシンポジウム――ともに考えましょう 子どもたちの未来と大阪の教育」)が1月28日、守口市内で開かれ、シンポジストとして佐藤学氏(東京大学教授―当時)、池田知隆氏(元大阪市教育委員長)、前田佐和子氏(前京都女子大学教授)、野田正彰氏(関西学院大学教授)が報告、香山リカ氏(精神科医)が駆け付け発言しました。シンポジウムを通じて、教育基本条例案の問題点が多様な角度からあらためて明らかにされ、幅広い教育関係者らの参加や各界からメッセージが寄せられました。

 堺市では著名4氏が呼び掛けた「子どもたちを教育破壊から守るために~堺から呼びかけます」と題するアピール運動が取り組まれ1100人が賛同(2012年4月13日現在)、教育基本条例案に反対するシンポジウムが開催されました(3月3日)。 「しんぶん赤旗」や「大阪民主新報」では、あわせて50人を超える著名な学者・研究者、文化人、宗教者、労働・法曹・教育関係者らが登場し、それぞれの立場から教育関係条例を批判し、民主主義擁護を訴えました。

(3)教育関係条例反対の一点での共同の広がり

 教育関係条例反対の一点での共同は、政治的な立場の違いを超えて広がりました。

 学校現場での教職員の共同が反映して、堺市や吹田市などで教職員組合委員長が共同してアピール。吹田市では退職教職員と元校長、元教育長らが共同してアピールを発表しました。

 「反独裁」の一点で共同した労働7団体は、2条例許さない大阪連絡会が主催する集会などに参加して発言しました。

 井村雅代元大阪府教育委員や内田樹神戸女学院大学名誉教授ら6氏が呼び掛けた「異議あり!『大阪府教育条例案』100人委員会」は「教育基本条例案」に反対してシンポジウム(3回)を開催しました。「100人委員会」と学者・文化人アピール呼び掛け人は、それぞれが主催したシンポジウムに連帯のメッセージを交換しました。

(4)団体・地域での運動の促進――宣伝・署名、集会・パレード、学習会・懇談会

 2条例許さない大阪連絡会に加わる民主団体がたたかいの先頭に立ち奮闘しました。地域では50を超える行政区で連絡会が結成され、草の根からの運動が広がりました。連絡会が作成したビラやプラスターを活用した全駅いっせい宣伝、府庁・市役所前宣伝とパレード、地域での学習会・集会、節目の大規模な府民集会など創意が発揮され、とりくまれました。西淀川区や大正区、河内長野市では幅広い教育関係者が呼び掛け、アピール賛同署名に多くの方々が名を連ねたビラが作成され、新聞折り込みなど活用されました。2条例の制定をおこなわないことを求める大阪府知事あて署名は231725筆、大阪市長あて署名は245140筆が集約されました。

 教育文化府民会議はリーフ「『教育基本条例案』って何?」を発行して広く活用されました。大阪教育文化センターは、2条例案で「教育はよくなるのでしょうか?」と問題提起するパンフレットを発行(2011年10月)、シンポジウムを開催(10月15日)し、教育改革提言「子どもの人間らしい成長をはぐくむ、あたたかいまなざしに満ちた教育を、みんなで」を発表しました(2012年9月6日)。

(5)このたたかいにおける党の役割

 日本共産党は第4回中央委員会総会(2011年12月3~4日)で、「二大政党づくり」の動きの破たんという事態のもとで、閉塞状況の反動的・ファッショ的打開の危険を直視し、反動的逆流である橋下・「維新の会」の策動と正面からたたかうことを提起しました。また、「総選挙勝利『党勢拡大大運動』目標総達成 全国活動者会議」(2012年5月24~25日)では、橋下・「維新の会」の策動と正面からたたかううえでの政治的観点として、①閉塞打開の展望を示すことと一体に、その危険性を明らかにする、②橋下・「大阪維新の会」の二つの反動的・反国民的特徴を事実にそくして明らかにする、③日本共産党が人権と民主主義を守るよりどころとして奮闘することを表明しました。

 わが党が、反動的逆流に断固として正面から立ち向かい、人権と民主主義を守るよりどころとして奮闘することは、わが党本来の任務です。このことを自覚し「不屈性」を発揮して奮闘することが重要です。また、要求活動と党勢拡大を「車の両輪」として取り組み、党勢拡大目標を総達成し、いまの閉塞状況を打ち破る実力をもつ党に成長し、総選挙で躍進をかちとることは、それ自体が国民・府民に明るい展望を示すことになる国民的・府民的意義をもつ大事業です。

4 党としての対案――「教育改革提言」を広げて

(1)「教育改革提言」の目的について

 日本共産党大阪府委員会は2012年4月17日、教育改革提言「教育の主人公は子どもたち――みんなで力をあわせて、子どもを人間として大切にする教育を」を発表しました。「提言」は、子どもの豊かな成長・発達を保障する立場から、教育関係条例の問題点をあらためて明らかにし、条例の具体化を許さないたたかいの発展と、大阪の教育を良くする5項目の提案を行い、子どもと教育をめぐる府民的討論と共同を呼び掛けました。教育関係条例を許さないたたかいのなかで、その批判にとどまらず、私たちの対案、日本共産党としての対案を府民に示す必要がある、対案を提起しておおいに府民的な討論を巻き起こそう、子どもと教育をめぐる問題での府民合意を、そのなかで広げていこうということを議論し、教育関係者の意見も聞いて作成しました。「提言」は民主的な教育改革の展望を示すことと一体に、教育関係条例を批判しその危険性を明らかにしたものです。

 私たちは、「提言」が示す方向にこそ、大阪の教育を良くする教育改革への道があると確信します。

(2)「子どもの成長と教育を語り合う懇談会」のとりくみ

 この「提言」発表後、5月19日に党府委員会は「子どもの成長と教育を語り合う懇談会」を開催し各界から約140人が参加しました。勝田保広副委員長が開会あいさつ、柳利昭書記長が「教育改革提言」について説明、宮本岳志衆議院議員が国会から駆けつけ報告しました。ゲスト発言した大阪電気通信大学名誉教授の野中一也氏は、教育学専門の立場から「提言」の特徴として、①教育の条理、教育学の原理にもとづき、一人ひとりの可能性をのばしていくという全面発達観に立っている、②つながり合って子どもの成長をはかるという視点がある、③民意を反映する教育委員会制度を今日的に提起していることをあげ、「大阪の教育で、子どもたちに未来が見える提案だ。提案にもろ手をあげて賛成」すると述べました。

 会場からの発言が相次ぎ、このなかで、党府議団、大阪市議団、堺市議団の代表が議会報告。参加者からは、「(大阪のたたかいは)全国的先端のたたかいになっていく」、「本当にこの提言が大阪、全国に行きわたることを願う」、「提案が明確、具体的なものがとても良い。今の大阪の教育、子どもと家庭にとって、必要な課題が整理されて提案されている」、「教育の条理、憲法に依拠する教育を本格的にすすめることが大道だ。子どもを思う親・教職員、このむすびつきは分断できない。この道筋の原則をふまえた提言だ」、「『提言』のもつ重要な内容は、今日のような様々な角度から深まりがあって理解できる。地域で大・中・小の懇談会が必要だ」などの感想・意見が寄せられました。

 この教育懇談会にむけて、その案内と「教育改革提言」を紹介し懇談した団体は、大阪弁護士会や大阪府PTA協議会、児童虐待防止協会、大阪市こども相談センターなどです。学校管理職の団体とも率直な意見交換を行いました。地区委員会と府委員会で案内した団体・個人は約1600にのぼり、各地で地域の方々や教育関係者との対話・懇談が活発に行われました。 その後、党河南地区委員会女性部は「大阪の教育・子育てを考えるつどい」を開催し、「教育改革提言」を紹介し交流しました(7月15日)。

(3)教育関係条例の具体化を許さない府民運動を促進する

 橋下・「維新の会」が国政進出にむけ「維新八策」を発表し、大阪府と大阪市の教育関係条例を「さらに発展、法制化」すると掲げるなかで、教育関係条例を具体化する動きが強まっています。こうしたなか、教育関係条例の撤廃を求めつつ、具体化を許さない運動を促進することが重要です。そのさい、「教育改革提言」で述べた三つのこと――①「教育振興基本計画」は条件整備計画にする」、②「公立高校学区廃止と高校つぶしをやめさせる」、③「小中学校選択制と学力テスト平均点公開をやめさせる」ことが大切です。

教育介入や府立高校統廃合をやめ、「教育振興基本計画」は条件整備の計画に

 大阪府は、教育目標設定など憲法違反の政治の教育への介入や、3年連続定員割れの府立高校統廃合などを推進しようとする「教育振興基本計画」案の作成に向けた「中間まとめ」を公表しました(2012年8月30日)。ここでは「めざす目標像」として三つの「教育目標」が掲げられ、政治が教育に介入しようとしています。この「計画」にたいして、教育介入や高校統廃合をやめ、少人数学級や私学助成の拡充など教育条件整備の計画とさせるために、抜本的な見直しを行うよう強く求めていくことが大切です。

 大阪府教育委員会は府立高校再編整備(統廃合)計画について、その方針を今年度中に、来年度に5年間の年次計画を策定し「対象校」を順次公表するとしています。「対象校」は府立学校条例に示される“3年連続定員割れ”の高校を含むとされます。大阪では公立高校授業料無償化に加え、私立高校授業料無償化(年収610万円未満の世帯)が2011年度から実施された結果、子どもの高校進学の機会が増えました。“15の春を泣かせない”と高校教育への府民の期待は大きく、政治がいまやるべきことは、「切磋琢磨」と学校間競争をあおり、高校統廃合を強引に推し進めることではなく、高校35人学級など教育条件を抜本的に整備することです。また、日本政府が高校・大学までの段階的な無償化を定めた国際人権規約(A規約13条2項b,c項)を「留保撤回」したのを機に、授業料無償化を継続・拡大することが大切です。

大阪市立小中学校への学校選択制導入をやめさせる

 大阪市は、橋下市長が導入方針を示した市立小中学校への学校選択制の実施にむけて動きを強めています。大阪市教育委員会が開催する「熟議『学校選択制』」は9月中に議論を整理し市教育委員会へ「提言」を行うとしています。各区で開催された学校教育フォーラムでは学校選択制について「地域と学校との結びつきが弱まる」「学校の序列化がすすむ」などの反対・批判の声は相次ぎ、反対意見が多数を占めました。また、学校選択制の実施を通じた学校統廃合への危惧の声が上がっています。学校選択制を許さない市民世論と運動、保守層を含む共同の発展へ地域での取り組みを促進することが大切です。

(4)子どもを人間として大切にする教育へ――大阪の教育を良くする5項目の提案

 わが党は「教育改革提言」で、教育関係条例の具体化を許さない取り組みに続いて、大阪の教育を良くする5項目の提案を行いました。ここでは、府民、子ども、保護者、教職員、教育関係者の願い、切実な教育要求にどうこたえるかということを明らかにし、民主的な教育改革の具体的な提案、展望を示しています。

①すべての子どもに学力を保障する学校をつくるために
――少人数学級はじめ教育条件を抜本的に拡充します

 第一に、すべての子どもに学力を保障する学校をつくるためにどうするかです。子どもの基礎学力を保障することは公教育の大切な役割です。テスト漬けにしても、子どもは伸びません。大事なことは子どもをやる気にさせる、面白くわかりやすい授業、一人ひとりへのていねいな指導です。政治の仕事はそのための教育条件整備、少人数学級はじめ教育条件を抜本的に拡充することを述べています。

 とくに、大阪で起きている“授業をする先生がいない”という異常をやめさせることが大事です。5・19教育懇談会でも大教組の先生から、この間、毎月30~40カ所で穴が空いており、今年も4月新学期当初、ある中学校で英語、社会、美術、音楽の教科の先生が足りず、埋まったのは英語だけだったという現場の実情が報告されました。この問題は急いで解決する必要がありますが、一番の問題は正規の教職員をきちんと採用していないために起きている問題であり、非正規を減らし正規教職員を増やすことによる解決が強く求められます。

 また、「落ちこぼし」をつくらない独自の体制をつくること、教員の「多忙化」を解消すること、教育関係者のあいだで知恵を集めてカリキュラム試案を開発することも提案しました。これは、文部科学省の学習指導要領どおりの授業をやれば、子どもを“落ちこぼす”という現場の先生方の意見をうけとめての提案です。

②経済的な理由で学業を断念する子どもがないように
――高校授業料無償化を継続し、給付制奨学金制度を創設します

 第二に、経済的な理由で学業を断念する子どもがないようにするためにはどうすればいいのかということです。大阪は貧困率全国一です。そのことが子どもの育ちに悪影響を及ぼしています。政治の力で、大阪を「子どもの貧困」克服全国一の自治体にすることが強く求められます。公立高校と私立高校の授業料無償化の継続、給付制奨学金制度の創設、さらに、就学援助の基準の引き上げ、スクールソーシャルワーカーの配置を提案しました。

③子どもを真ん中に保護者、教職員らが力をあわせて学校改革をすすめます

 第三は、子どもを真ん中に保護者、教職員らが力をあわせて学校改革をすすめることです。学校が生き生きするカギは、子ども、保護者、教職員のあたたかい協同にあります。教育関係条例は各校に学校協議会を設置するといいますが、教育委員会が認める一部の保護者等に限られ、子どもと教職員の参加が無視されています。子どもを真ん中に、保護者、教職員らが力をあわせる、風通しのいい学校改革こそ必要です。ここでは、子ども、保護者、教職員らが参加する学校運営にしようということ、教員への要望や批判をわだかまりなく解決するために、子どもの成長・発達を最優先にした第3者機関の設置、支援が必要な教師の立ち直りを支え合う暖かい学校職場づくり、教師の心身をケアする体制の強化を提案しました。これは、今日の深刻ないじめ問題の解決にとってもカギになることです。

④民意を反映する教育委員会へ
――教育委員選挙と教育会議をおこないます

 第四は、民意をどう教育に反映するのかということです。教育委員会制度の問題です。教育委員会は、戦前の中央集権型の教育行政を反省し、首長が教育を直接支配しないようにつくられた、首長から独立した行政機関です。求められるのは、廃止ではなく改革、民主的な改革です。民意をきちんと反映するよう、教育委員は選挙(住民投票)で選ぶことを提案しました。戦後の一時期(1948~1956年)に公選制の教育委員会制度がありましたが、これを今日的に提起しています。あわせて、子どもと教育に関係する方々の合意形成のため、各自治体レベルでPTA、生徒会、教職員、地域住民、経営者、教育行政、各会派などで構成する教育会議をおくことを新しく提案しています。

⑤卒業式・入学式での「国旗・国歌ルール」を提案します

 第五は、卒業式・入学式での国旗・国歌の扱いをどうするのか、「国旗・国歌ルール」についてです。卒業式等が子どものために営まれるよう、まず、第1に国旗・国歌をどう扱うかは各学校で決めるというルールを提案しました。卒業式や入学式といった学校行事は、教育の一環、教育内容であり教育活動そのものです。子どもや保護者の意見を聞いて、学校で自主的に決められるようにするということが大切です。第2に、学校で「国歌斉唱」を決めた場合も、強制するのではなく「歌う自由」とともに「歌わない自由」を保障するというルールを提案しました。これは、思想・信条の自由、内心の自由は子どもや保護者はもちろん、公務員である教職員にも保障されるという憲法の立場からのものです。

子どもと教育を語り合う対話・懇談を府内すみずみで

 橋下・「維新の会」は教育関係条例を通じて教育に介入し、「競争と統制」の教育を推進しようとしています。たたかいはこれからです。

 日本共産党は、こうした条例の具体化を許さない国民的・府民的共同、府民の切実な教育要求実現にむけた運動をさらに広げるために力を尽くします。同時に、子どもの豊かな成長を願う府民と保護者の要求に立脚して、大阪の教育を良くする府民的討論と共同の発展へ、「教育改革提言」を広げて、府内すみずみで子どもと教育を語り合う対話・懇談を進めます。

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