政策・提言・声明

2012年06月01日

【シリーズ】これが自治体のやることか ~橋下「改革」の現場から(1)

上下水道福祉措置の廃止 市民に知らせず負担増

 大阪市大正区で一人暮らしの白沢ヒロエさんは昨年8月に65歳になりました。楽しみにしていたのは大阪市の上下水道福祉措置(※)で減免が受けられること。水道料金は月3千円ほどですが、申請をしたところ、約半額になりました。喜んでいたのも束の間。橋下市政が4月の「施策・事業の見直し(PT試案)」に続き、5月の「市政改革プラン(素案)」で制度廃止を打ち出したことにびっくり。

 「厚生年金と企業年金で月17万円ほどですが、4月から介護保険料も上がり、国民健康保険も払わないといけません。この上に消費税が増税されたら、大変。そのときにどうして減免を廃止するのでしょうか。国民年金だけの方は、減免がなくなればもっと大変になる」

 そう思った白沢さんは、近所の喫茶店などで住民に廃止の話を広げて、「素案」へのパブリックコメント提出を呼び掛けました。

(※)上下水道料金福祉措置

約30年続く制度 毎年約20~21万世帯が利用
 65歳以上の高齢者世帯、重度障害者世帯、ひとり親世帯の経済支援として大阪市が実施してきたもので、基本料金相当月額1576円(上水道998円、下水道578円)を減免。上水道は1973年、下水道は75年から開始。93年から67歳以上だった高齢者の対象を拡大(夫婦どちらかが65歳以上で、配偶者が60歳以上でも可)。精神障害者世帯は99年から制度の対象になりました。毎年約20~21万世帯が減免を受け、2013年度の世帯数(見込み)は高齢者17万1600、ひとり親1万7500、重度障害者2万5400、精神障害者600となっています。生活保護世帯については「保護費と重複する」という理由で06年9月末で減免を廃止しました。

廃止は変わらず

 4月の「PT試案」に基づく公開議論で、改革プロジェクトチーム側は13年度の制度廃止を主張。京都市や神戸市では制度がないことから、「受益と負担の考え方から負担いただく」として、13年度廃止を主張しました。

 福祉局は「大阪市には固有の状況がある。全国平均に比べて一人暮らしの高齢者の割合が高い。生活保護、貧困の問題がある。この状況を踏まえて見直しを」「健康局の費用はそれぞれ一人一人の市民に直接影響を及ぼす」「ことしは介護保険料も上る」と反論。住民税非課税の高齢者世帯や重度障害者世帯は減免を継続するよう求めましたが、橋下市長の「素案」でも廃止は変わりませんでした。

二重三重の負担

 「現役世代への重点投資」(橋下市長)と言いながら、ひとり親家庭への福祉措置も廃止。「素案」が打ち出す国民健康保険料の独自減免の縮減や、非課税世帯からの保育料徴収も重なれば、二重三重の負担増となってしまいます。

 大阪市天王寺区で一人暮らしの女性(83)は、福祉措置を受けていますが、あらためて自分の水道料金を計算してみて驚きました。

一挙に2万円超

 一年を通してほぼ基本料金の範囲内のため、上下水道料金は年間で2千円程度。制度がなくなれば負担額は一挙に2万円を超えます。「もともと自分で申請しないと減免は受けられません。廃止されることは多くの高齢者に知られていないし、減免がなくなって初めて、水道料金の負担に慌てる人もいるでしょう。声を上げにくい市民から真っ先に切っていくやり方は許せない」と語ります。

 この女性は敬老パスを使って日常的にバスを利用しているだけに、橋下市長が大阪市議会で「1駅分、2駅分、敬老パスを使わずに歩いて行こう」と発言したことにも怒り心頭です。「敬老パスが有料化されたら、ますます出歩かなくなり、体も衰える。家では水道料金がかかる。そこまで高齢者を追い詰めて、どうするのですか」。

「水は命です」

 港生活と健康を守る会が3日開いた第41回大会の討論では、「橋下市長は『大阪都』をつくって24区を8つか9つにすると言うが、いつ起こるかも知れない南海地震に備えた対策をするのが先ではないか」といった意見とともに、上下水道福祉措置の廃止は困るという声も出ました。

 事務局長の松田美由紀さんは、自分自身は減免を受けていませんが、「素案」へのパブリックコメントで上下水道福祉措置の廃止に反対する意見を書き送りました。06年に大阪市が生活保護世帯への減免を廃止した当時、「電気代が高いので夏はエアコンもつけず、水で体を拭いていた。その水も減らさないといけない」という声が出たと言う松田さんは、「これから同じようなことが年金生活者にも出てくる。水は命です。福祉措置を廃止するなの、怒りの声を大阪市に届けよう」と呼び掛けました。

(2012年6月10日付「大阪民主新報」より)

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