政策・提言・声明

2015年12月21日

大阪府の学力調査問題をどうみるかー中3学力テスト導入と高校入試への使用について

大阪府の学力調査問題をどうみるか

――中3学力テスト導入と高校入試への使用について

 

2015年12月21日  日本共産党大阪府委員会文教委員会

 

 大阪府教育委員会は2015年11月、中学3年生を対象に新たな学力テストを導入し、その結果を高校入試に使用する方針を決めました。全国的にも異例です。全国学力テスト結果を高校入試に使用する方針が同年4月に発表されて以降、学校現場が混乱し、保護者と子どものあいだに不安が広がり、子どもと学校に新たな競争が押し付けられました。

 私たちは、この問題についての経過と問題点を示すとともに打開の方向を提案し、府民的討論を呼び掛けます。

 

大阪府の学力調査問題をめぐる経過

(1)府による高校入試への使用方針の継続

 府教委は2015年4月10日の教育委員会会議で、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の学校別結果・平均正答率を、高校入試に間接的に使用する方針を賛成多数(3対1)で決めました。

 小学6年生と中学3年生の全員を対象とした国語、算数・数学、理科の3教科による全国学力テストが目前の同月21日に迫るなかでの決定でした。

 突然の方針決定に学校現場は驚き、同月16日の市町村教育長らへの説明会でも不満や懸念の声が相次いだと報道されました。これらの方針が学校と保護者、生徒に伝えられるなか、学校間の競争をあおる動きが強まり、子どもへのストレスが強くかかり、学校の「荒れ」など否定的な影響を危惧する声が学校関係者から上がりました。

 全国学力テストの実施主体である文部科学省の専門家会議は7月7日、府教委の方針は「全国調査の実施要領を逸脱」すると指摘。これに対して松井一郎府知事は翌日、「ピンボケもいいところ」と述べて教育に介入する姿勢を示しました。

 日本共産党の石川多枝府議は10月15日の府議会教育常任委員会で、国と府の学力テスト結果の高校入試への使用を中止するよう求めました。

 文部科学省は2015年度については府の方針を容認しましたが、11月24日の府教委との協議で、2016年度の「『全国学力・学習状況調査』の実施要領に、調査結果を入学者選抜に関する資料として使うことはできない旨を明記することを考えて」いると述べました。

 これをうけて府教委は同月27日の教育委員会会議で、全国学力テスト結果を府立高校入試に使用する方針を2017年入試から中止するとともに、新たに中学3年生を対象とする府独自の学力テストを2016年度から実施し、その結果を高校入試に使用することを決めました。

 文部科学省は12月8日に公表した2016年度全国学力テスト実施要領に「調査結果を直接又は間接に入学者選抜に関して用いることはできないこと」を明記しました。

大阪府ではすでに全国学力テストに加えて2015年1月から、中学1年生は国語、数学、英語の3教科、2年生は社会、理科を加えた5教科で、府独自の学力テスト(統一テスト)を実施しています。府教委はこれらの結果を高校入試に使用するとしています。

(2)大阪市は中3学力テストを実施し高校入試に使用

 一方、大阪市は2015年10月に中学3年生全員を対象とした市独自の学力テストを国語、数学、英語、社会、理科の5教科で実施し、この結果を高校入試に使用する方針です。

 この学力テスト結果により内申点は、各教科ごとに全市の得点分布で上位6%に入る生徒には必ず評点「5」、上位18%に入る生徒には必ず評点「4」以上、上位39%に入る生徒には必ず評点「3」以上を与えるとしています。学校関係者からは全市で1番から約18500番の順位をつける「究極の相対評価」だと厳しい批判の声が上がっています。

 大阪市はすでに、全国に先駆けて小学6年生と中学3年生全員を対象とする全国学力テストの学校別結果公表を実施。学校現場では新学期、新しい教科書を横に置いて、子どもに「過去問題」をさせる実態もあるとされます。

 こうした市教委の方針は府教委に影響を与えました。

 

中3学力テスト導入と高校入試に使用する方針の問題点

 大阪府の中学3年生への学力テスト導入と、その結果を高校入試に使用する方針には次のような問題点があります。

(1)新たな競争を子どもと学校に押し付け

 第一は、新たな競争を子どもと学校に押し付ける問題です。

 2015年4月の府教委による方針決定を受けて、全国学力テストの平均正答率が高かった学校には、高校入試の内申点で高い評点をつける生徒を多くすることができるため、学校に「団体戦」と言われる競争が新たに持ち込まれました。

 また、学力調査結果を高校入試の内申点の評価基準に使うことは、学校が一人ひとりの子どもの学習到達度に応じて教科ごとに総合的に行う教育評価(絶対評価)に競争的な性格を持たせることになります。

 さらに、中学3年生を対象とする新たな学力テストは、この学力テストの実施そのものが、子どもをさらに異常な競争に駆り立てるものです。中学2年生は1月に府独自の学力テスト、3年生に進級して4月に全国学力テスト、6月に府独自の学力テストと半年間に3回のテストが連続します。6月の学力テストの前後に、学校が実施する中間・期末テストがあることを考慮すれば、生徒への負担は非常に大きいものとなり、修学旅行など学校行事への影響も懸念されています。

(2)学力調査の原則からの逸脱

 第二は、学力調査の原則から逸脱する問題です。

 全国学力調査の問題を扱った1976年の最高裁判決は、文部省(当時)が実施する全国学力調査は行政調査としての性格をもち、「個々の生徒の成績評価を目的とするものではなく、教育活動そのものとは性格を異にするものである」と述べています。教育行政が実施する学力調査結果は、生徒の成績評価に直接的であれ間接的であれ使用しないことが原則です。

 学力調査結果を生徒の入学者選抜の資料など成績評価に使用することは、憲法が保障する教育の自由・自主性を侵害し、教育行政による教育への「不当な支配」であり憲法違反です。

 全国学力テスト結果を高校入試に使用する府教委の当初方針は、こうした原則から逸脱するものであり中止は当然です。また、府・市独自の学力テストも全国学力テストと同様、行政調査としての性格をもっており、その調査結果を高校入試に使用することは、憲法と教育関係法の立場から許されません。

 

すべての子どもの成長と学力向上にむけて――日本共産党の提案

 すべての子どもの成長と学力向上にむけて、私たちは次の諸点を提案します。

(1)高校入試使用方針を撤回し、全国と府・市の学力テスト廃止を

 府・市独自の学力テスト結果を高校入試に使用する方針は、子どもと学校に異常な競争を押し付け、生徒の成績評価に使用しない学力調査の原則から逸脱するものであり、ただちに撤回すべきです。同時に、教育をゆがめ学力形成に有害な全国いっせい学力テストや府・市独自の学力テストを廃止することが必要です。学力調査は抽出調査で行い、その結果は本来の学力向上の取り組みや教育条件改善に役立てます。

 高校入試の内申点の評価基準については、府の基準を市町村と学校に押し付けず、学校が自主的につくることを尊重すべきです。そのさい、教育委員会が適切な指導・助言を行うことが大切です。

(2)学力テスト中心を改め、すべての子どもに基礎的な学力を保障する

 子どもの成長を脅かす学力テスト中心の考え方を改め、すべての子どもに基礎的な学力を保障することが求められます。このことは、学校教育の基本的な役割です。自然や社会のしくみがわかる知育、市民道徳の教育、体育、情操教育などバランスのとれた教育が大切です。

 そのため、学校が子どもの状況や地域の実情に応じた教育課程を自主的につくることを尊重するとともに、学力保障に一番有効な施策である35人学級・少人数学級の拡充が必要です。

(3)高校入試制度の抜本的改善、高校進学希望者の全員入学へ

 欧米では高校入試が基本的にないなど、日本のような競争的な制度はありません。国連・子どもの権利委員会も、日本政府に対して「高度に競争的な教育制度」が子どもにストレスを与え発達に障害をもたらしていることを厳しく指摘し、その改善をもとめています。

 公立高校の学区復活はじめ、高校入試制度を抜本的に改善するために、専門家、府民の検討の場をもうけ、改革に着手するとともに、高校進学希望者の全員入学にむけた条件整備を行います。

 

憲法と子どもの権利条約に立脚した教育改革へ

 大阪府の学力テスト問題の根本には、安倍政権の「教育改革」(教育再生)を先取りして、憲法が保障する教育の自由を侵害し、教育に介入して学校教育に異常な競争と強制を持ち込む「維新」政治があります。これでいちばん被害を受けるのは大阪の子どもたちです。

 日本共産党は引き続き、広範な府民・教育関係者と共同して、憲法と子どもの権利条約の立場から、すべての子どもの成長を大切にし、学力向上をはかる教育改革にむけて力を尽くします。                            

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