教育改革提言:教育の主人公は子どもたち
みんなで力をあわせて、子どもを人間として大切にする教育を
2012年4月17日
日本共産党大阪府委員会
いま、子どもと教育をめぐって、さまざまな問題があるなかで、府民と保護者の教育にたいする願いは切実です。“子どもに基礎的な学力を”“子どもにのびのびと育ってほしい”など府民の願いにこたえる教育が求められます。政治の大事な役割は、こうした府民の願いにこたえ、少人数学級や中学校給食など教育条件を整えることにあります。
ところが、橋下徹大阪市長が代表の「維新の会」は、学校関係者らの反対を押し切って、3月の大阪府議会で「教育基本条例」「職員基本条例」(2条例)を強行しました。5月の大阪市議会でも押し通そうとしています。
これらの条例は、府民の願いや子どもにとっていいものなのでしょうか。
私たちは、府民のみなさんと力をあわせて、憲法を生かして、子どもの成長・発達へ、大阪の教育をよくするために、次のような提言を行います。ぜひ、ご意見をお寄せ下さい。
子どもの成長・保護者の願いと「教育基本条例」
まず、子どもの成長や保護者の願いとの関わりで「教育基本条例」はどんな問題点をもっているのかということです。
ゆきすぎた競争教育は、子どもに本当の学力をつける道なのでしょうか
「教育基本条例」は、教育への徹底した競争原理を導入します。手始めに、公立高校学区撤廃と統廃合、小中学校選択制が狙われています。
この根底には、教育を「激化する国際競争」に打ち勝つ「世界標準で競争力の高い人材」養成のために行うという、性急な考え方があります。「エリート育成」のため、大阪の子どもを弱肉強食の競争においたてようというのです。
しかし、テストの点数や偏差値などのモノサシで子どもをはかり、目標達成を迫るようなやり方は、多くの子どもの成長の芽をつみとってしまいます。人間は一人ひとりが、かけがえのない個性をもっています。その成長・発達の方向やペースは様々で、その可能性は無限です。そうした子ども一人ひとりをじっくり育てるのが、教育です。そうしてこそ、各分野の働き手も育っていくはずです。
もともと日本は、国連・子どもの権利委員会から「高度に競争的な教育制度のストレスなどが子どもの発達をゆがめている」と繰り返し是正の勧告をうけてきました。競争の是正どころか、強化の方向に舵をきるのがこの条例です。
教職員を支配・統制し、首長への絶対服従をせまる
こうした、ゆきすぎた競争教育をすすめるために、条例は、教職員を処分の濫用で脅し、首長の言いなりにさせようとしています。
その象徴は、“同じ命令に3回違反した先生はクビ”という前代未聞のクビ切り条項です。橋下氏は“公務員だから命令に従うのは当たり前”と言いますが、教育は命令・服従で行うものではありません。教員は、目の前の子どもたちに接しながら、自分の判断で教育をおこなう教育の専門家です。それでこそ、子どもや保護者に責任をおうこともできます。こうした教育の条理に反して、クビをちらつかせて命令をきかせていけば、生き生きとした教育は陰をひそめます。被害者は、人間味を失った先生に教わる子どもたちです。
最高裁判所は今年1月の判決で、命令違反で減給や停職にした東京都の教員処分を、裁量権の範囲を超えるものだとして、違法と指摘しました。命令が「君が代」起立斉唱という思想信条に関するものであり、処分は重過ぎるという判断です。大阪の条例はさらに重いものであり、明らかに違法です。
憲法の民主主義と教育についての原則からみて
「教育基本条例」の中心は、首長と議会が「教育振興基本計画」を制定する権限を握り、教育に無制限に介入できるようにすることにあります。
橋下徹「維新の会」代表は“選挙で勝った者が、教育の目標を決めるのは当たり前”と言います。しかし、それこそ「政治権力は教育を支配してはならない」という憲法の民主主義と教育についての大切な原則に違反したものです。
教育は、人間の心や価値観の形成に関る文化的な営みです。個人の内面に政治権力は立ち入らないのが、民主主義の原則です。だから政治的多数決で教育目標を決めて個々人に押しつけてはならないのです。そんなことをしたら、国民は時の権力の思うような鋳型にはめられ、自由な自己形成ができなくなってしまいます。教育は目標設定をふくめ、国民全体で自主的に多彩に進めていくものです。首長をふくむ教育行政の仕事の中心は、そうした自由な教育の営みが花開くような教育条件の整備です。
「政治権力は教育を支配してはならない」という原則は、戦前の軍国主義教育への反省の上に確立し、憲法と法律に刻み込まれました。憲法判断をおこなう最高裁大法廷は判決で、“憲法上、国家権力の教育内容への介入は可能な限り抑制的でなければならない”と明確に述べています(1976年、全国学力テスト最高裁判決)。こうした憲法の立場に反する条例は許されるものではありません。また、独立した権限をもつ教育委員会を、首長が従属下におき教育行政を支配することは、地方教育行政法の上からも許されません。
条例は、府民の教育への不満や「橋下人気」を最大限利用して、露骨な政治支配、競争原理の徹底と脅しや統制という、時代に逆行した教育体制を実現しようというものです。こんな方向に未来はありません。
こうした問題点をもつ「教育基本条例案」に反対する共同が広がり、労働・法曹・教育関係者・学者・文化人らが強い反対・批判の声を上げるなか、2条例案―「維新の会」案は、昨年の大阪市議会と堺市議会で否決され、年末の大阪府議会で継続審議とされたものの、3月の府議会で取り下げざるをえませんでした。「維新」案と本質的に変わらない知事・市長提出の2条例案は、「維新の会」が過半数を占める府議会では強行されましたが、大阪市議会では世論と運動の力で継続審議とさせました。 今後、「教育基本条例」「職員基本条例」の具体化を許さず撤廃を求めるとともに、大阪市議会では2条例案を廃案にすることを強く求めます。
子どもの成長・発達へ、保護者と教職員、教育行政、地域住民が協力して
――大阪の教育をよくするための日本共産党の提案
その上で、私たちは、子どもの成長・発達へ、大阪の教育をよくするために次のような提案を行い、府民的討論と共同を呼び掛けます。
2条例の具体化をやめさせます
まず、子どもの成長にとって重大な問題点をもつ2条例の具体化をやめさせます。とくに、3つのことが大切です。
▼「教育振興基本計画」は条件整備計画にします……文部科学省でさえ「首長が教育目標を設定したら違法」と指摘しています。「教育振興基本計画」は少人数学級、学校耐震化、中学校給食推進、特別支援学校、私学助成の拡充など条件整備の計画とし、教育目標や教育内容・方法に介入しないものにします。
▼公立高校学区廃止と高校つぶしをやめさせる……条例は高校学区について2年後廃止にむけて「見直しを行う」としていますが、どこでも検討されていない乱暴な話です。学区を廃止すれば高校格差と序列化がさらにひろがり、受験競争も激化します。学区廃止は府民の声を聞き、やめるべきです。また、条例は3年連続定員割れした府立高校をつぶそうとしています。すべての希望する子どもに高校進学を保障する立場から、高校つぶしをやめさせ、少子化の時期を少人数学級導入などの好機にすることを提案します。
▼小中学校選択制と学力テスト平均点公開をやめさせる……橋下市長は、小中学校の学校選択制と各学校の学力テストの平均点公表をセットで進めようとしています。しかし、このような施策はすでに国内外で実施され、平均点の高い学校が選ばれ、そうでない学校は廃校になるとか、教育がテスト対策に偏り、平均点を下げる子どもは排除されるなど、多くの弊害が明らかとなり、見直しが始まり、廃止を決めている自治体があります。地域に根ざし、多様な友人とともに学び育つ、公立小中学校のあり方を守り育てます。
すべての子どもに学力を保障する学校をつくるために
――少人数学級はじめ教育条件を抜本的に拡充します
子どもの基礎学力を保障することは公教育の大切な役割です。テスト漬けにしても、子どもは伸びません。大事なことは子どもをやる気にさせる、面白くわかりやすい授業、一人ひとりへのていねいな指導です。政治の仕事はそのための教育条件整備です。
▼“授業をする先生がいない”――こんな異常をやめさせます……ところが大阪ではここ数年小中学校で、授業をする先生が長期に配置できない「教育に穴があく」事態が、全国でも突出した形で続いています。必要な正規教員を採用しないためにおきたことです。あらゆる手立てをとって緊急に「穴」をふさぐとともに、すみやかに正規教員をふやすことを求めます。
▼「落ちこぼし」をつくらない独自の体制……授業についていけない子どもを丁寧に指導し、分かるようにするための専門の教員を新たに配置し、補習授業などができるようにします。同時に、小中学校の35人学級を国より早く完成させることを提案します。
▼教員の「多忙化」を解消します……教員は過労死寸前の長時間労働で、授業準備に時間がとれないという深刻な状態におかれています。不要不急の業務を、教員の意見を尊重して整理できるようにし、異常な「多忙化」を解消します。
▼カリキュラム試案を開発します……現行の学習指導要領は過密すぎ、「教科書を全部やったら子どもが落ちこぼれる」状態です。教育委員会、教職員、大学教員が学習指導要領を批判的に検討し、現場の参考となるカリキュラム試案を開発することを提案します。
経済的な理由で学業を断念する子どもがないように
――高校授業料無償化を継続し、給付制奨学金制度を創設します
大阪は貧困率全国一です。そのことが子どもの育ちに悪影響を及ぼしています。政治の力で、大阪を「子どもの貧困」克服全国一の自治体にすることが強く求められています。
府民の世論と運動で導入された公立高校授業料無償化と私立高校一部授業料無償化を継続・拡充します。さらに、①ひとり親家庭など経済的に困難な家庭でも大学まで行かせられるような、大阪版「給付制奨学金制度」を創設すること、②就学援助の基準を引き上げること、③スクールソーシャルケースワーカーを配置し、学校と協力しながら独自の家庭支援を展開することを提案します。
子どもを真ん中に保護者、教職員らが力をあわせて学校改革をすすめます
学校が生き生きするカギは、子ども、保護者、教職員のあたたかい協同にあります。「教育基本条例」は各校に「学校協議会」を設置するといいますが、教育委員会が認める一部の保護者等に限られ、子どもと教職員の参加が無視されています。子どもを真ん中に、保護者、教職員らが力をあわせる、風通しのいい学校改革こそ必要です。
▼子ども、保護者、教職員らが参加する学校運営に……子ども、保護者、教職員ら(必要に応じ地域住民)の参加と協同で学校を運営することを提案します。子どもの発達段階に応じた参加は、学校を活性化し、市民教育となり、子どもの権利条約にも合致しています。教職員と保護者が子どもの成長を確かめ語りあうことは、子どもを励ます大切な学校づくりです。学校長は職員会議を合意形成の場として大切にし、教育のリーダーとしての役割を果たすことが期待されます。
▼教員への要望や批判をわだかまりなく解決するために……一部の教員による子どもを傷つける言動は、子どもを守るべき学校であってはならないことです。“訴えても対応してくれない”ことも同様です。子どもの成長・発達を最優先にした厳正な対応が必要です。その一環として、相談と対応にあたる第3者機関(医師、弁護士、大学教員等子どもの専門家で構成)をつくることを提案します。同時に、支援が必要な教師の立ち直りを支え合う暖かい学校職場づくり、教師の心身をケアする体制の強化を提案します。
民意を反映する教育委員会へ――教育委員選挙と教育会議をおこないます
教育委員会は、戦前の中央集権型の教育行政を反省し、首長が教育を直接支配しないようにつくられた、首長から独立した行政機関です。求められるのは、廃止ではなく改革です。民意をきちんと反映するよう、教育委員は選挙(住民投票)で選ぶこと、子どもと教育に関係する方々の合意形成のため、各自治体レベルでPTA、生徒会、教職員、地域住民、経営者、教育行政、各会派などで構成する教育会議をおくことを提案します。
卒業式・入学式での「国旗・国歌ルール」を提案します
この春の卒業式で、ひとりの民間人校長が先生全員の口元チェックまで行いました。橋下市長は“君が代起立斉唱は決められたルール、チェックは当然”と言います。しかし、起立斉唱を強制するルールそのものが、民主主義のルールに違反しているのです。しかも、息苦しい監視は、子どもの教育の場にもっともふさわしくないことです。
世界では、国歌等について法的に強制しないことが当たり前です。例えばアメリカの公立学校では国旗宣誓がありますが、“宣誓したくない生徒や教師は宣誓しなくてよい、宣誓しない生徒や職員を罰してはならない”旨が定められています。これが民主主義のルールです。
卒業式等が子どものために営まれるよう、①国旗・国歌をどう扱うかは各学校で決める、②国歌斉唱を決めた場合も強制でなく「歌わない自由」を保障する、の2つのルールを提案します。