虚構の計画 大阪市焼却工場再編を問う(下)
『環境先進都市』と両立しない
中心部に必要か
大阪市の平松邦夫市長が「建て替え凍結」を宣言(08年8月)した森之宮焼却工場。それが一転、「建て替え推進」となった理由について、大阪市側は本連載「上」で取り上げたごみ処理能力のシミュレーション以外に、同工場が「唯一、市内中心部に位置する工場」だからだと説明しています。
「大阪市ごみ焼却場整備配置検討委員会」の報告書(昨年11月)では、大阪市内の各工場を中心に半径5㌔㍍の円を描くと、大阪市域のごみ直営収集エリアをほぼカバーできていると指摘。
報告書は、ごみの収集輸送効率をよくする上でも、この「半径5キロメートルの円」を基にバランスよく「分散配置」するために、事業系ごみの多い市内中心部に、森之宮焼却工場が不可欠だと結論付けています。
「事業系」は分散
「これは錯覚を与える資料だ」。昨年12月7日の大阪市会決算特別委員会で、日本共産党の北山良三議員は、実際のごみ収集や搬送を示して、市側のごまかしを打ち破りました。
――家庭系の一般ごみの排出が最も多いのは平野区3万5499トン、次いで城東区2万7145トン、東淀川区2万6603トンなどと市内の周辺部が多く、それらは周辺部の近くの焼却工場に搬入されている。
――事業系ごみの収集実態は、入り乱れて実態は当局もつかめない。収集を担う362の許可業者は奈良や遠方の業者が多く、市内に事業所があるのは147で、それも市内周辺部に集中。搬送先の最多は舞洲工場14・5万トン、次いで平野工場12・1万トンと周辺部だ。
北山議員は「事業系のごみは市内中心部で発生するが、舞洲と一番遠いところへ持って行っている。中心部の森之宮は8万㌧。事業系ごみは全部分散しており、中心部に必要だという議論は成り立たない」と厳しく指摘。これに対しても市側は「本来なら中心部にもっと工場がいる」などと、事実上の答弁不能に陥りました。
周辺住民の声は
「初めに『建て替えありき』」で焼却工場の再編計画を進めようとする大阪市の姿勢に、「検討委員会の審議も傍聴しましたが、市民の声が届かないところで、一方的に決めていくのは、あまりにもおかしなやり方」と話すのは、「森之宮・環境をよくする会」代表の藤本千恵さん。住んでいるのは、森之宮工場から1キロメートル足らずの団地。工場への進入路としてパッカー車が行き交う市道(上新庄生野線)がすぐ近くを南北に通っています。
藤本さんは05年、地元の住民団体などと一緒に同会を結成しました。当時浮上していた移転・建て替えに対して、「より住宅地に近づく計画は問題だ」と反対運動を続けてきました。
地元選出の市会議員を超党派で招いたシンポジウムや学習会などを開くと同時に、周辺の清掃活動などを通じてごみ減量もアピール。「市がごみ減量をキャンペーンする一方で、ごみが出るから焼却工場を建て替えて焼却能力を確保するというのは、矛盾している」と語ります。
市民世論に反し
大阪市情報公開室の市民世論調査(昨年3月発表)では、ごみ処理と焼却工場の整備のあり方について、最も多かったのは、「まず、ごみの減量リサイクルに重点的に取り組み、全量焼却が可能な体制を構築しながら、古い工場を止めていくべき」(41・3%)でした。
「古い工場を環境負荷の少ない最新の工場に早く建て替えるべき」という回答(16・2%)と同時に、「経費節減の観点から、古い焼却工場は整備を行って使い続け、これ以上建て替えすべきではない」という回答も、ほぼ同じ割合(15・6%)であり、最多の回答と合わせると、約57%が「建て替えるべきではない」と求めています。
さらに別の問いでは、46・1%が「住民の少ない地域に焼却工場を建てるべき」と回答しています。
森之宮工場の地元選出議員として、議会で森之宮工場の移転・建て替え問題を取り上げ、ごみ減量問題で政策的な提言を行ってきた日本共産党の山中智子議員は、「長年、ごみはすべて燃やすという『全量焼却』を続けてきた大阪市で、ごみ減量はまだ緒についたばかりで、他の政令市の削減努力から比べても遅れている。焼却工場建て替えは、市が掲げる『環境先進都市』とは両立しません」と強調します。
汚職事件や天下りも
大阪市の焼却工場をめぐっては、平野工場の建設工事参入をめぐる汚職事件(03年)で、選定業者からわいろを受け取っていた元市環境部長が逮捕、実刑判決を受けるなど、不透明な問題が取り沙汰されてきました。
日本共産党の北山良三議員は昨年12月7日の大阪市会決算委員会の質問で、森之宮工場は、ごみ焼却プラント大手の「タクマ」(本社・尼崎市)のもので、09年までの15年間に、森之宮工場長を歴任した人物が3人も同社に天下っていることを指摘しています。