府庁WTC移転・新都心構想はキッパリ撤回し、府民参加で再検討を
財政再建に逆行し、福祉・教育をさらに圧迫
2009年2月9日
日本共産党大阪府委員会
いま橋下知事は2月24日開会の府議会にWTCへの府庁舎移転の議案を提出しようとしています。しかし、このまま府庁移転を進めることは、将来に大きな禍根を残す大失政になりかねません。
橋下知事は、「新築や耐震化よりも府の負担額が少ない」「移転でベイエリアなど周辺地域が活性化する」と府庁移転のメリットを強調してきました。しかし実際には耐震化より多額の費用がかかり、肝心の防災拠点の役割も果たせません。しかも、大阪市がいままですすめ、莫大な税金を投入したあげくに破綻したベイエリア開発に、今度は大阪府が乗り出そうというのです。財政再建に真っ向から逆行し、福祉や教育にいままで以上にしわ寄せがいくことは確実です。
日本共産党大阪府委員会はこのような府庁舎のWTC府庁移転構想は白紙に戻し、庁舎のあり方について府民とともに再検討することを強く求めるものです。
大阪府庁舎問題
防災が原点なのに、WTC移転では震災時に府庁が機能不全に
橋下徹知事は昨年8月5日平松邦夫市長と会談し、WTCへの庁舎移転を正式に提案しました。WTC移転を橋下知事が言い出した最初のきっかけは、現庁舎を耐震補強工事するより費用が少なくてすみ、財政危機のなかで最適の選択だということでした。
もともと府庁舎については、1989年(平成元年)に新庁舎の建設が計画されていましたが、財政危機のなかで凍結されていました。ところが、2006年(平成18年)の耐震診断の結果、上町断層などの地震に対して「耐震性能が極めて低く、大規模地震により倒壊または崩壊する危険性が高い」ということが判明したのです。
不況の波が大阪府民の暮らしと大阪経済を直撃し、いまこそ府民の暮らし、雇用、営業を守るために、あらゆる努力を傾けることが大阪府政の一番の仕事です。
こうしたときに庁舎問題を考える際には、震災時に府民の命、安全と財産を守る大阪府の役割を果たすということを大前提にしながら、総合的に検討することが求められます。
ところが、WTCへの庁舎移転案は、震災時に府庁が役割を果たすうえで現庁舎に比べて圧倒的に不利であり、機能不全に陥る可能性さえあるのです。
WTCが建つのは、大阪湾の埋立地で、内陸からのアクセスルートは橋と海底トンネルだけです。府地域防災計画では震度6弱以上で全員が参集対象になりますが、鉄道は地下鉄中央線もニュートラムも震度5弱で運行停止になり、道路は阪神高速も咲洲トンネルも震度5弱で進入禁止です。元々職員の参集に圧倒的に不便なうえに、アクセスルートがこれでは災害時に府庁が機能不全に陥ってしまう危険性があまりにも大きいのです。ところが知事は府の防災計画を読んだこともなく、震度5で地下鉄が止まることも知らず、「知事はそんな細かいことまで知る必要がない」(08年12月11日本会議答弁)と開き直っているのです。しかも、WTC自体が耐震強度不足で府庁を移転するなら多額の費用をかけて補強工事をおこなう必要性があることが、提案されてから明らかになるずさんさです。
万が一の大災害時を考えた場合、現在の府庁の位置は、国の出先機関・府警本部・NHK・大阪管区気象台そして大阪城という広大で安全な広場という防災のための多くの条件がそろい、職員が参集する上でもWTCに比べて格段に便利であるにもかかわらず、今の場所をなぜ離れなければならないのか、まったく理由がありません。
「費用が安上がり」なのは現庁舎の改修
費用の面でも、WTCへの庁舎移転が一番「安上がり」と橋下知事は説明してきました。しかし、整備費等支出(耐震補強費含む)はWTCへの移転が208~266億円、現庁舎が142億円と大阪府は見積もっています。しかも、WTCの購入費用自体が未確定であるうえに、現在WTCに入居している大阪市の部局の引っ越し費用(約40億円)を府と市のどちらが負担するのかも未定です。さらに、現庁舎の跡地4.3㌶を坪単価約350万円以上で民間に売却することが前提になっていますが、現在の不況下ではきわめて不透明です。
府民の利便も他の官公署との連携も大きな犠牲に
そもそも地方自治法4条は、府庁など地方自治体の事務所(市役所等)について「住民の利用に最も便利であるように、交通の事情、他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない」と定めています。府庁の位置は、住民にとって身近で便利であることを第一に考えて決めなければならないのです。
ところがWTCへの移転は、当然府民にとっても他の官公署との連絡も格段に不便になるのです。府の作成した資料でも、天王寺駅から鉄道で現府庁には7分ですむのがWTCには26分になり、大阪駅からでも15分が25分となるのです。
目的は関西財界のためにムダな大型開発をすすめ、道州制にはずみをつけること
災害時に役割を果たせず、耐震化工事より多額の費用がかかり、府民にとっても不便になるだけのWTCへの移転に橋下知事が固執するのはなぜでしょうか。それは本来の目的は別にあるからです。
それはこれをきっかけに、かねてから関西財界が求めてきた破綻済みのベイエリア開発やムダな高速道路建設、不要不急の鉄道新線建設をすすめ、道州制の導入にはずみをつけようということです。
橋下知事はWTCの展望台に立って「ここで関西を見渡してものごとを考えれば素晴らしい行政施策が出てくる」「州都を視野にした場合、淀川左岸線延伸部は絶対に必要」と言い、9月議会では、WTCのある南港咲洲地区について「産業集積が進む大阪湾ベイエリアの中心。関空と神戸空港のほぼ中間点で、関西の各エリアを結ぶ高速道路ネットワークの結節点」と所信表明。11月の記者会見ではベイエリアを核とする「新都心構想」を発表し、「現在は南北の御堂筋が大阪の中心だが主軸を西に広げたい」と発言し、JRなにわ筋線の新設や、地下鉄西梅田・十三連絡線、京阪中之島線のWTCへの延伸などをぶちあげました。
いま政府と財界が狙う道州制の導入は、地域住民に密着した福祉、教育などのサービスを切り捨て、大型開発を進めることが最大の目的で、府政を解体に導き、大阪の活性化にも逆行するだけです。またその関西版である「関西州」構想についても、橋下知事を除く近畿2府4県の知事、政令市長計9人のうち「早期に実現するべきだ」と考えているのはわずか3人だけ(共同通信アンケート)。全く合意が得られていません。
関西財界はこうした開発構想を大歓迎しています。関経連下妻会長は記者会見で「淀川左岸線延伸部などの建設を促進する協議会を発足させる」と発言。知事が財界から定期的に意見を聞く会合では、「WTCに行くのは大阪市でも大阪府でもかまわない。人の流れや動きが変わる」との発言が飛び出しました。関西財界と二人三脚で大型開発を推進する、これこそが橋下知事のWTC府庁移転の真の狙いです。
しかしこれらの大型開発はいずれも必要のないムダ使いだと言わなければなりません。総事業費3~4000億円もの淀川左岸線延伸部は、すでに1998年をピークに阪神高速の運行台数が減っているもとで必要性が乏しい不要不急な高速道路です。JRなにわ筋線は新大阪、大阪と関空を直結することが目的だとされていますが、総工費4000億円もかかる一方で、大阪府がつくった資料(12月17日知事と特別顧問との意見交換会)でさえ新大阪から関空までの所要時間はわずか1分30秒短縮されるだけのものです。京阪中之島線の延伸にいたってはまったくの構想路線であって総工費も算出されたことのない路線です。
橋下知事は、南港コスモスクエア地区などのベイエリア開発が失敗したのは「湾岸部と中心部を結ぶ都市インフラの整備が未完成だったからだ」と主張していますが、これは現実をまったく見ないものです。南港コスモスクエアは、阪神高速湾岸線や大阪港線などの高速道路がつながり、地下鉄中央線もあります。それでもWTCやATCが経営破たんしコスモスクエアに空地がたくさんあるのは、何よりも需要そのものを見誤ったからです。そのことは、大阪市が20年前に「夢洲・舞洲・咲洲を開発して定住人口6万人・就業人口4万5千人の新都心をつくる」として策定した「テクノポート大阪計画」について、昨年平松市長が「現実とは乖離している」として終結宣言せざるを得なくなったことに、端的に表れています。
橋下知事はいま、「財政非常事態」だと言って、福祉医療や私学助成など府民の命と暮らし、こども達の将来に関わる事業は無慈悲に削減しています。その一方で、関西財界が求めてきた大型開発だけは「府市協調」して復活させようとしているのです。こうしたやり方では、一部の企業が利益をあげるだけで、またぞろ大阪府と大阪市に巨額の財政赤字をつくり、そのしわ寄せをいっそう府民の福祉や暮らしに押し付けることになることは必至です。
大阪経済の再生のためには、一部の大企業・ゼネコン・大銀行を利するだけの巨大開発を推進するのではなく、税金の使い道を中小企業の経営や府民の暮らしを応援する方向へ改めることこそ必要です。
次々とボロが出るWTC移転構想
撤回し、府民とともに再検討を
府庁舎をどうするか、ましてや場所を移転しようというのなら、情報を全面的に公開し、府民的な議論を尽くして決めるべきことです。
ところが、橋下知事は、府民にも議会にも何の相談もなしに突然平松市長に正式に提案し、WTCを初めて視察したその時に「決まりですね。ここにします」と言明したのです。あまりにもやり方・手法が独断、拙速であり、府議会の議長が各会派を代表して独断専行で移転を推進しないことなどを求める異例の申し入れを行ったほどです。
こうした拙速なやり方だから、WTCの使用可能スペースが、全面移転に必要な面積より4000平方メートルも少ないことや、耐震基準を満たさず、中低層階が損傷する危険性があることなどが次々明らかになり、検討すればするほどぼろが出てくるのです。
また、現府庁舎(本館)は大正15年建設の優れた歴史的建造物であり、隣接する大阪城公園や難波の宮跡などと一体となった緑豊かな歴史・都市景観は大阪のシンボル、大阪府民の誇りと言ってもいいものです。土地利用については、民間企業からマンションやホテル・オフィスなど高層ビル建設という声があがっています。「これでは大阪のシンボルゾーンも景観も台無し」との声は一考もされていません。
日本共産党大阪府委員会はこのような府庁舎のWTC移転には反対であり、撤回を求めます。
いま、与党会派からも「注文や疑問の声が集中」「『今の段階では議論の材料にもならない』と厳しい声が出た」(2009.01.29 毎日)という状況です。一方的な情報を発信するばかりで、府民の間でも府議会でも十分な議論がなされていないなかで、少なくとも2月府議会に提案すべきではありません。このような独断専行、拙速なやり方は改め、府民とともに再検討することを、知事としての最低限の義務として強く求めるものです。