「解同」が要求し、「同和行政と同和地区復活・永続化」の確約につながる「報告書」
2007年06月15日
丸野 賢治
一、 はじめに
大阪府と府市長会が、 同和対策特別法の終了後も 「差別される地域=同和地区は存在し、 同和行政は継続する」 ことを確約することを眼目とする研究会 「報告書」 を、 市長会として確認しようとしている問題は、 5月7日の市長会で継続課題となり、 この7月にもあらためて審議されることになっています。
この問題は単なる、 同和対策法で指定されていた 「同和地区」 を法後にどう呼称するのかという問題でなく、 行政が 「同和地区」 を固定化するという部落問題上の重大問題であると同時に、 国の法律終了後も同和行政・特権を永続・固定化しようというねらいがあります。 根源には、 同和利権の一掃、 同和行政終結を求める世論のたかまりのなかで、 「解同」 と一体で 「同和行政・同和特権」 を継続させている大阪府同和行政の重大な誤りがあります。
二、「解同」の策動に従った市長会「報告書」作成
「同和地区の位置づけ・呼称問題」 の検討は2006年5月1日、 「解同」 大阪府連 (委員長・松岡徹民主党衆議院議員) が市長会に 「要望書」 を提出し、 市長会が大阪府といっしょに同年七月に検討を開始したものです。
「解同」 府連のねらいは 「要望書」 を見れば明らかです。 「解同」 府連は、 要望の動機について 「法律がなくなったのに同和行政が継続されておるのはおかしい」 など府民の批判が強いこと、、 府下自治体の議会で 「同和地区はなくなった」 という行政当局の答弁がおこなわれたことなどをあげて、 強い危機感を表明しています。
つまり、 市長会 「意見書」 は、 同和対策法終了後の同和行政終結の流れをストップするために 「解同」 の要望を受けたものです。 しかもいま、 大阪市・飛鳥会事件、 八尾市・丸尾事件などあいつぐなど不祥事の中で、 同和利権・特権一掃を求める世論はおおきく高まり、 「解同」 言いなりの自治体ですら不十分ながら見直しが始まっているだけに、 「解同」 にとっては今回の 「意見書」 を市長会に確認させることは、 最重点の戦略的課題ともなっているでしょう。
三、市長会 「報告書」 は「解同」 の要求を全面的に 認めたもの
市長会 「報告書」 は①部落差別は社会の一部に存在し、 明確に同和地区に対する忌避という形で意識されている②行政としてその差別解消に向けた施策を推進しなければならない③法終了後も同和地区は存在としており 「解同」 の主張を全面的に確認するものです。
大阪では、 同和対策特別法下の1969年から2001年度までの33年間で、 2兆8千億円を越える同和対策事業が実施され、 同和地区の生活、 環境はおおきく改善され、 結婚や就職問題も含めて部落問題は基本的に解消されています。
府の調査でも 「同和地区」 居住者の内七割近くが 「地区外からの流入者」 であること、 1991年以降の婚姻では 「夫婦とも同和地区出身」 は一割程度で、 若い世代では 「同和地区内外の結婚」 が約7割あることなど、 あらゆる指標でいわゆる 「部落」 の実態は瓦解し、 部落問題は基本的に解決しています。 (大阪府実態調査についての科学的分析は 「大阪府実態調査研究会―大阪府実態調査。 同対審答申について」 「大阪府人権意識調査の虚実― 「人権と部落問題2月特別号」)
部落問題の基本的解決を宣言して解消し 「民主主義と人権を守る府民連合」 (民権連) を発足させた全解連の 「部落問題の解決された状態の見解」 は、 ○周辺地域と比べて部落の生活・住宅環境、 教育、 就労などに格差がないこと。 ○仮に部落に対する誤った認識や偏見から差別事象が起きても、 それを受け入れられない地域社会ができることであり、 この基準でみて部落問題は基本的に解決していると明快です。
しかし 「報告書」 は 「同和地区が存在している最大の根拠」 として 「府民意識」 をあげ 「一定数の府民が差別する対象としての同和地区をはっきり意識しており、 社会的差別を受ける同和地域はなくなっていない」 としています。 そのうえで 「このことが同和行政推進の原点」 と重大な規定をおこなっています。 つまり、 「差別する意識を持った府民」 への対策を行政上の最大の課題というのです。
仮に 「意見書」 が言うとおりの 「意識」 が一定あったとして、 そのような 「府民意識がなぜそうなっているのか」 という分析はありません。 政府の文書 (啓発推進指針) でも乱脈な同和行政、 行きすぎた誤った運動 (「解同」 の暴力的糾弾路線) が 「新しい差別意識」 を生んだという指摘もあります。 最近で言えば、 「飛鳥会事件」 など暴力団ともつながったあいつぐ同和利権で、 深刻な反省もしない 「解同」、 行政の姿勢こそ、 部落問題への偏見を生む重大なマイナス要因でしょう。
まともな分析もなく府民敵視が基本の 「人権施策・啓発」 にどのような行政効果も期待できないこととは当然です。 また、 それは、 行政が府民を 「差別するもの、 されるもの」 に仕分けすることにつながりかねない危険なものでありであり、 「解同」 タブー、 同和タブーを温存する基盤ともなっていくものです。
ついでに言うと行政は部落問題解決についてほとんど展望を示したことはありません。 「解同」 は 「すべての人の人権が保障された社会に部落問題解決を展望する」 といってみたり 「部落民が誇りの持てる状態」 「部落民として解放される」 など支離滅裂です。 こんなものに行政がつきあって 「差別がある限り同和行政を継続」 などと言うのは、 行政が部落問題解決の 「無限責任論」 にたつことであり、 できもしないことを約束することです。 実際には同和行政は 「解同」 が 「差別がなくなった」 と言うまで続けることにならざるをえません。
四、市長会は確認するべきでない。 大阪府の責任は重大
実は、 「意見書」 の趣旨はすでに 「解同」 と大阪府との間で確定済みのものです。 しかもこの見解を先導したのは大阪府太田知事です。 同和法終了後の 「同和地区」 の扱いについて太田知事は2002年の 「解同」 との交渉で 「法律はなくなっても同和地区はなくなっていない。 同和地区は地対財特法法で地区指定された地域」 と回答しました (「解同」 府連機関紙・解放新聞大阪版2006年3月1日付)。 大阪府は誤った方針を府下自治体に押しつけるのでなく、 「解同」 との癒着を断ち切り 「通達」 を撤回し同和行政を終結すべきです。
以上にみるように、 市長会が確認しようとしている中心問題は 「解同」 による 「同和行政永続化・行政屈服」 です。 同和地区実態調査問題で裁判でも争われているように 「孫子の代まで同和地区を残すのか」 という怒りの声にも応えることができないものです。
一連の同和行政の不正、 腐敗事件で、 問題となったのが行政の 「運動団体言いなり」 という主体性の放棄、 「事なかれ主義」 でした。 今回の 「意見書」 も、 「解同」 の言うとおり、 大阪府の言うとおり、 しかもみんなできめようという 「 新しい事なかれ主義」 にみえます。
しかし、 いまや地区住民、 行政による 「部落問題解決」 宣言がおこなわれた自治体もでている時代です。 「同和行政の終結」 「同和地区の解消」を真剣に追及することこそ自治体の任務です。 今こそ市長会は、 「意見書の確認」 という過ちをくり返すことなく、 それぞれの自治体で主体性を確立すべきです。
(まるの・けんじ 日本共産党大阪府委員会自治体部長)