今こそ、直接中小企業に光を当てた実効ある対策を
日本共産党大阪府委員会の提言
2007年3月
日本共産党大阪府委員会
中小企業は実感できない「景気回復」
いま政府は、「いざなぎ景気を超える景気回復」と言っています。しかし一部大企業の収益が史上最高となっている一方、多くの中小企業や家計にとって「回復」は、実感のないものではないでしょうか。関西経済同友会も「今回は『いざなぎ』の時とは異なり、『実感のない』景気回復である。…企業業績が回復する中でも中小企業の経営基盤は未だ脆弱であり」と、大企業と中小企業の格差を指摘しています(2006年10月13日「『いざなぎ』に並ぶ景気拡大について」)。
実際、大阪府立産業開発研究所の大阪府景気観測調査によると、大企業の業況判断(前年同期比)は上昇傾向を続けています。一方、中小企業の場合は、景気が上昇に転じたという2002年以降、一貫してマイナスであり、「景気回復」のなかで業況が悪化。格差は拡大しているのです。
大阪経済で大きな比重と位置しめる中小企業に光を
大阪には約37万の中小企業が立地し、これは府内全企業の99.6%と、圧倒的多数を占めています。また、製造品出荷額等を規模別に見ると、中小規模(従業者数1から299人)事業所が65.4%を占めています。これは、神奈川38.3%、愛知32.9%など他の主要府県と比べてもっとも高く、数だけではなく経済活動全体に占める役割が大きいのも、大阪府内中小企業の特徴です。
大阪経済のなかで、このように圧倒的多数を占める中小企業の振興を強めることが、大阪経済の落ち込みにストップをかける道でもあると私たちは考えます。
一、全国一の落ちこみ続く大阪経済
久しく、大阪経済の落ち込みが指摘されてきましたが、とりわけ90年代の落ち込みが激しく、今日もなお続いています。
大阪経済の規模=府内総生産額をみると、2003年度で3391億米ドル、オランダとスイスの中間に位置する程度の大きな規模をもっていますが、全国に占めるシェアは1970年(昭和45年)当時10%が2002年(平成14年)7.7%と年々低下しています。
シェアだけでなく、事業所数や従業者数の絶対数も減少し続けています。廃業率が開業率を大きく上回り、平成16年(2004)の事業所・企業統計調査によると、大阪府内事業所総数は、428302ヶ所、平成11年(1999)と比べて61316ヶ所の減少(減少率12.5%)であり、これは全国的に見て、実数でも率でも最高の落ち込みです。従業者数も334032人の減少(減少率7.6%)で、これは実数で全国1位、率で3位の落ち込みです。大阪経済のこうした事態が、全国に比べても最も高い失業率の背景にもなっているのです。
なぜこんなことに
このような大阪経済の落ち込みの原因として、生産拠点の海外移転や、本社機能の東京移転などが指摘されてきました。同時に、90年代以降、政府がとってきた、中小企業性製品の輸入強化、大型店舗法の廃止、社会保障切り捨て、負担増など「規制緩和」「構造改革」が中小企業を直撃してきたことも否めません。
また、府民の生活困難による消費の低迷も大阪での製造業、小売業、サービス業の不振の背景にあることは明らかです。
政府の家計調査によると、2005年の大阪市民の消費支出は、2000年から5年間で13%も減少しています。2001年から2005年の間に生活保護者人員数は15万2000人から21万4000人(40・6%増)に急増し全国的に比較しても深刻な状況です。
二、大阪府・市の中小企業対策に問われているものは何か
大手企業の呼び込み・大型開発第一の大阪府・市政の産業政策
こういう厳しい状況のもとで、大阪府や大阪市は、どういう中小企業対策、産業政策を講じてきたでしょうか。それは、ひと言で言えば、大阪経済活性化の「起爆剤」にと、大型開発に膨大な予算をつぎ込む一方、直接中小企業に光を当てた対策が予算的にも後回しになってきたと指摘せざるを得ません。そしてこれらの大型開発事業は、ことごとく破綻し、財政も危機に陥れました。
たとえば、大阪府が6954億円の事業費をかけた、りんくうタウンは、商業業務ゾーンで1平方㍍当たり131万円だった分譲価格を25~27万円にまで引き下げても分譲地は売れ残り分譲率は45%に過ぎません。
大阪市が三セク方式ですすめた、大阪ワールドトレードセンタービルディング(WTC)は、テナントが埋まらず、市港湾局、水道局、建設局など、市の関連施設が賃貸オフィスの71%を占め、「第2庁舎」とまで呼ばれています。
こうした事業が、中小企業・地域経済への波及効果もなく、大阪経済活性化の「起爆剤」にもならなかったことは明らかです。
雇用にも地元中小企業にも効果乏しい大企業誘致のための補助金のばらまき
そしていま、大阪府や大阪市は、ハイテク家電、バイオなど、成長分野の大企業に膨大な支援金を出して呼び込みを図る政策をとっています。開発した土地を安売りして呼び込む従来方式のうえに、企業の民有地への進出にまで補助金を出すという途方もない大企業奉仕です。さらに大阪府は、進出企業の補助金の限度額をいまの30億円から150億円規模に引き上げようとしています。
しかし、こうしたやりかたは、雇用にも地元中小企業にも極めて効果の乏しいものです。内閣府の「地域経済2005」でさえ、補助金の額と工場立地件数や雇用への波及効果との関係は明確でないことを指摘しています。
現に、府の誘致支援第1号(10億円)として誘致した三洋電機・太陽電池工場(貝塚市)の場合、04年1月から操業を開始していますが、従業員360人中、210人は請負で、150人の社員中新卒採用はわずかに11人。139人は他工場からの赴任となっています。また、部品は「特殊技術と資本力がいるため地元調達はない」と同社自身が説明しています。
旭硝子住之江工場の場合は、府が17億2881万円、大阪市は、17億2500万円もの助成を行いました。従業員は、200人から300人程度の規模を予定していますが、社員はわずか40人から50人。請負が200人から250人となる予定です。「この住之江工場は、尼崎工場で作ったガラスをパネル用に加工する工場なので、部品等を発注することはない」と、地元中小企業への波及効果もないことを同社自身が認めています。
府は武田薬品(研究所)の誘致めざして、200億円を超える優遇策を提示しながら失敗しました。補助金の多寡だけで企業は動くものではないことを実証する形になりました。
圧倒的に不足する中小企業対策予算
以上のような大企業優遇の一方、圧倒的多数をしめる中小企業対策はどうでしょうか。
大阪府の商工予算は、金融対策費を除くと約370億円(06年度)、府の予算総額の1%にすぎません。その少ない予算のうち企業誘致促進費だけが年々増え続け、200億円と、半分以上を占めるにいたっています。新年度予算案では府内900以上ある商店街の活性化策に、約1億3000万円、基盤技術の高度化と連携の促進など中小製造業への支援として、4億8000万円(融資を除く)が計上されていますが、一方、大企業の工場誘致補助金は、先に述べたように、1社あたり上限150億円という大盤振る舞いです。
大阪市の場合は、07年度の経済局予算は870億円ですが、実際に中小企業対策に使えるのは約40億円、予算総額の0.25%にすぎません。一方、企業誘致対策として、投下資本300億円以上の大企業には上限30億円を助成するなどの大盤振る舞いです。
今こそ、府や大阪市は破綻が明確で効果の乏しい、大手企業の呼び込みと大型開発第一の産業政策を転換して、直接中小企業に光を当てた実効ある対策こそすすめるべきではないでしょうか
三、真に実効性ある中小商工業の振興のために
私たちは真の中小企業振興のためには、一部のベンチャー企業や一分野だけを〝一点突破〟的に強めるやり方ではなく、現場の声を聞き、大阪の中小企業各分野の状況を広く把握し、現場や専門家とよく相談しながら総合的で緻密な対策が必要と考えます。とりわけ大阪経済の活性化にとって大事なことは、府民の消費拡大と雇用の拡大を同時に進めることであり、この観点からも、雇用の多くを担っている中小零細企業の振興に本腰を入れることが大事です。
以上の立場に立ってこそ、裾野の広い大阪の中小企業全体の底上げが可能となり、大阪経済の活性化につながると確信します。
日本共産党は、大阪経済の主役である中小企業を支援するために、以下の施策を提案し、その実現に奮闘するとともに、大阪経済と中小企業の振興を願う、広範な団体、個人のみなさんとの立場の違いを超えた意見交換、対話、共同を心から呼びかけるものです。
1、ものづくり――市町村と大阪府の連携で、技術と営業を支援。製品開発・加工技術で“大阪ブランド創出”事業も
行政区や地域など必要な単位に「ものづくり支援センター(仮称)」を設置し、市町村と大阪府が連携してものづくり中小企業の技術、経営両面の支援と親身な相談にのれる体制をつくります。大阪府立産業技術総合研究所の人員と予算を大幅に増やします。
新製品の開発や新しい加工技術の開発のために、技術支援や市場調査などの援助を強めるとともに、試作品製作への補助制度(仮称「大阪ブランド創出事業」)を新設します。
ものづくり企業の廃業と雇用の喪失を食い止めるため、コーディネーターを配置して、共同化や中小企業同士の合併・協業などへの相談・紹介事業を行います。
大学の研究成果と中小企業のニーズをマッチングするコーディネーター養成事業を大阪府として強化します。また、信用組合や中小企業団体等が行うコーディネーターの派遣に一定額を助成します。
後継者の養成のために、府立高等職業技術専門校を充実するとともに、優れた技術者を講師として採用するなど、ものづくり中小企業の技術を若い世代に伝承します。
2、商業の振興――商店街を街の財産として保全・振興
商店街は、お年寄りはじめ住民が歩いて買い物ができる身近な存在であるとともに、地域の「まつり」や伝統・文化、青少年の教育、防犯・安全、防災への貢献など、「地域の共有財産」です。
商店街の振興のために、商店街診断・実態調査を実施し、課題を明らかにし、住民、事業者、行政などが一体となって「商店街の振興・再生」計画 を作成、推進します。
商店街内店舗の固定資産税の減免、搬入配送車両の駐車規制の緩和、大規模店・コンビニの商店会(組合)入会義務付けなど、大阪府商店街振興プラン(条例)を制定します。
「空き店舗」対策はにぎわい・活気のある商店街・「まちづくり」のカナメです。空き店舗が埋まらない理由のひとつである権利者の不安を取り除くため、行政と振興組合などが権利者から空き店舗を借り上げられる制度を検討するとともに、商店街への野菜・青果・魚・肉など生鮮品店舗の誘致を援助します。また、近隣大学とも協力し、学生による店舗活用も検討します。
府内農・漁協と連携した“地産地消”、住民参加の「青空市」など、府内農産物・魚介を府内商店街で流通させる取り組みを支援します。
商店街、中心市街地の核店舗である大型店の身勝手な撤退を規制するために、一定期間の予告と関係地方自治体に対する事前協議を義務づけます。
3、超大型店の規制――大規模店舗立地ガイドライン(仮称)の制定
郊外や幹線道路沿いなどへの超大型店の相次ぐ進出は、中心市街地や住民に身近な商店街がつぶされるなど、深刻な事態が生まれています。
その地域の商店販売額の大半を独占するなど、超大型店の身勝手な出店を規制するため、地域ごとに店舗面積の上限を定めた「大阪府大規模店舗立地ガイドライン(仮称)」を制定します。
また、泉南市のイオンモールや大正区の鶴浜など、大阪府、大阪市のベイエリア開発の失敗による残地への超大型店の誘致は、行政が自ら地元商業を破壊する行為であり、中止します。
4、府民消費・生活密着型公共事業の拡大――市民の暮らし・福祉の充実が中小商工業の振興にも大きな効果
大阪府民の生活の実態は、政府の言う“景気回復”とは裏腹に、深刻な貧困と格差が広がっています。この府民の生活実態こそ、大阪経済の落ち込みの最大の原因の一つです。
国による医療や福祉サービスの後退に同調するのではなく、住民の暮らしを守るという地方自治体の役割を発揮し、国保、介護、障害者、教育などの府民負担の軽減に努めることは、消費購買力の向上や福祉サービスの増加など、工業、商業、サービス業の全体に大きな効果が期待できます。
公共事業を福祉・くらし・環境中心に切り替え、建設業などの需要を創出、官公需の中小企業発注を当面65%に高めます。また、一般競争入札を原則とするなど、入札制度の改善をはかります。
5、融資――すべての業者が安心して利用できる融資制度の拡充を
これまで1250万円だった府の無担保無保証融資枠を中小企業団体とわが党の運動で06年度から8000万円に拡大させました。今後さらに、中小業者が利用しやすいように改善拡充していきます。
6、知恵を集める――業種ごとに振興プランの作成
大阪府は、愛知、神奈川などの県とは違って、製造業や卸売業が、全業種にわたってバランス良く集積していることが特徴です。そのため、いくつかの成長分野やリーディング産業の育成だけでは、大阪経済全体を底上げすることはできません。また、製造業と卸売業との密接な結びつきも大阪の特徴であり、強みでもあります。
大阪府がイニシアチブを発揮し、必要な予算を確保して、繊維や機械金属、印刷など、業種ごとに専門家、行政、業界、事業所の知恵を合わせて振興プランを作成します。また、振興プランにもとづく振興策を計画的に進めます。
7、全事業所調査――府と市町村が協力し実態をつかむ
大阪市、東大阪市、八尾市、岸和田市などでは、全事業所調査が行われ、行政が市内事業所の実態や要望、強みと課題などを把握し、その後の政策展開に大きな効果をあげています。まだ実施していない行政区でも実施できるように、経験の普及や経費の助成、実施のノウハウの伝授、人材の派遣など、大阪府として必要な援助を強めます。
8、中小企業対策を府政全体の柱に――中小企業・地域経済振興条例で位置づける
以上の諸施策を実行推進するために、中小企業・地域経済振興条例の制定が重要です。同条例では大阪における中小企業の役割を位置づけ、行政や大企業の責務、府の中小企業対策の基本方向などを明記。福祉や環境、教育の分野など全部局で連携し、中小企業振興を軸とした、府内産業振興のスタンスを明確にします。
大阪ではすでに八尾市が2001年に「中小企業・地域経済振興基本条例」を制定。同市の先進的対策は全国的にも評価されています。その本格的な取り組みは、同条例で中小企業対策を市政の柱に据えたことが契機になっています。
予算の使い道を変えれば、中小企業振興は可能です
膨大な税金を投入した大型開発が経済への波及効果がないどころか、多額の借金を抱え、破綻しました。大企業呼び込み事業の実態も先に見たとおりです。
企業を誘致する場合は、雇用や地元中小企業への波及効果などの要件をよく精査検討するとともに、補助を行う場合も、税の一定期間の減免など必要最小限に限るべきです。
こうした予算の使い方を見直し、ムダを徹底して省けば、直接中小企業振興のための予算は十分確保できます。誘致補助金を大企業1社150億円に引き上げるやり方を改め、新たに200億円規模の「中小商工業振興枠予算」を組むだけでも、実効ある対策は十分実現可能です。
いまこそ予算のムダづかいをやめ、その使い道を変え、中小企業振興を柱にすえさせましょう。