おおさかナウ

2019年09月15日

府大・市大「統合」―「新大学基本構想」の問題点
大阪市立大学の統合問題を考える会世話人 津田康夫

 公立大学法人大阪が8月27日の副首都推進本部会議に報告した「新大学基本構想」の問題点について、大阪市立大学の統合問題を考える会世話人の津田康夫さんの寄稿文を紹介します。

 今年4月、大阪府立大学と大阪市立大学の設置法人の統合で発足した公立大学法人大阪は、維新府・大阪市政の後押しを受け、「新大学基本構想」をとりまとめ、8月27日の副首都推進本部会議に報告。同会議は、2022年度の新大学開学にむけ、さらに精査・成案化するとしました。来年2月には、「統合関連議案」が、府・市議会に提案され審議される予定です。

「新大学基本構想」――どこが問題か

 「新大学基本構想」は、どんな大学をめざしているのでしょうか。

学部・学科のさらなるリストラを迫る

津田康夫さん

津田康夫さん

①「構想」はまず、「新大学がめざすもの」の項で、「『教育』『研究』『社会貢献』に、設立団体である大阪府・大阪市との緊密な連携の下、『都市シンクタンク』『技術インキュベーション』機能を加え、従来の〝公立大学”の枠を超えた大都市・大阪の発展に貢献する知の拠点をめざす」としています。
 また、「統合効果を発揮する―教育研究組織」の項で、「両大学の同種の分野を集約することを基本とした上で、新たに情報学研究科を設置するとともに、農学部・研究科、獣医学部・研究科、看護学部・研究科を独立(1学域 11学部 15研究科)」としています。
 副首都推進本部会議で上山信一特別顧問は、「2つの新機能(都市シンクタンク、技術インキュベーション)の部分をつくったことに最大の意義がある」「相当研究された痕跡がうかがえる」と手放しで評価する一方、既存の学部について「選択と集中の視点から、重複部分を統合・再編する。そこから生み出された資源を、強みを生かせる分野に集中投入する」ことが必要と、さらなる「統合・再編」を強く求めました。
 「都市問題解決に貢献」「産業競争力強化に資する」といって「2つの新機能」を押しつけ、「選択と集中の視点」が必要だとして、学部・学科のさらなる「統合・再編」(リストラ)を迫る、ここに維新府・市政が押し付ける2大学「統合」の大問題があります。

「1千億も要らない」というが

市立大学キャンパス

市立大学キャンパス

②「新大学のキャンパス整備」の項では「2025年度 新大学の象徴となる都心メインキャンパスを速やかに整備」「開学時は既存キャンパスで対応」とし、キャンパス整備事業(新キャンパス整備、学舎建設、移転費用など)に推計1000億円、財源はキャンパス1部売却など、としています。
 同会議で上山氏が「森之宮地域を民間デベロッパーが開発し、住宅や商業施設といっしょに学舎を建設、そこに大学が入居すればよい。1000億円も要らない」と注文をつけ、府・市あげて検討することになりました。
 「2025年度に森之宮に新キャンパス」といっても、計画立案はこれからです。2025年には大阪万博を控え、夢洲にカジノIRを誘致に熱中する維新府・市政に、1000億円近い新大学キャンパス整備予算を期待できるでしょうか。

運営費交付金減で外部資金獲得に追われる

府立大学キャンパス

府立大学キャンパス

③「統合」の背景に、府大・市大の運営費として毎年、国から府・市へ基準財政需要額が交付(府大では2010年度以降、毎年増額)されているのに、両大学が独立行政法人に移行して以降、府・市が両大学に交付する運営費交付金が、毎年減らされ続けている大問題があります。2016年度の運営費交付金は、府大で05年比75・7%(約31億円減、国の補助金を下回る)に、市大で06年比71・7%(約40億円減)に減らされています。両大学とも教職員は大幅削減され、大学の運営資金確保のため、外部資金獲得に追われています。維新府・市政が、国からの交付金をピンハネせず、両大学の運営費交付金を正当に交付すれば、無理やり「統合・再編」(リストラ)する必要はないではありませんか。

関係者の民主的討論の保障を

 2022年度の新大学開学にむけ、「統合・再編」(リストラ)が強行されれば、両大学と大学関係者のなかで新たな矛盾や問題点が噴出し、両大学がこれまで培ってきた伝統が台無しになりかねません。
 大学改革は、広く府民・市民の意見を聞き、教職員・学生・院生ら大学関係者の民主的議論と合意にもとづき、また「建学の精神や伝統」「学問の自由」「大学の自治」を尊重して行われるべきです。
 大学法人・大学執行部は、いまこそ「新大学基本構想」を、両大学のすべての教職員・学生・院生・卒業生や関係者に報告し、各学部の教授会や教職員会議、学生・院生会議などで民主的討論をおこない、全学の合意を得るべきではありませんか。そのため「統合」が先送りになっても良いではありませんか。
 府議会・市議会は、広く府・市民の意見に耳を傾け、2つの公立総合大学の発展方向や大学予算について、設立団体としての責任ある立場をふまえ、慎重な審議を行うべきです。

大阪市大は「軍事研究」も直ちに中止を

 なお、市大では、2016年度の防衛省「安全保障技術研究推進制度」に応募、採択され、2016年から毎年3900万円、3年間で1億1700万円の研究資金を受け取ってきました。今年度も、「軍事研究やめよ」の抗議を無視して応募、再び研究課題が採択されました(8月30日防衛省発表)。大学での軍事研究は、教育・研究をゆがめ、憲法の平和原則に反しており、直ちに中止するべきです。(つだ・やすお)

(大阪民主新報、2019年9月15日号より)

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