力合わせジェンダー平等を
女性蔑視発言で辞任した東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の後任に橋本聖子五輪担当相が選ばれました。2011年の「スポーツ基本法」制定に関わった日本共産党の宮本たけし前衆院議員の一文を紹介します。
橋本新会長となった東京五輪・パラ組織委に求めるもの
スポーツ基本法制定時の国会論戦を振り返って
日本共産党 宮本たけし前衆院議員
今回の問題の背景は、「世界共通の人類の文化」であるスポーツの理念や、オリンピックの精神が、日本では全く血肉になっていないことであり、国際的「立ち遅れ」を克服することなしには、五輪やパラリンピックを開催する資格さえ問われると思います。
共産党も法案提案者として
私は2009年の衆院選で当選させていただいた後、石井郁子衆議院議員の後を継いで文部科学委員会を担当しました。09年の政権交代直後の国会は民意を背景に政治が前に動き、スポーツの面では11年の「スポーツ基本法」の制定という形に実りました。
スポーツ基本法は、1961年に制定された「スポーツ振興法」を50年ぶりに全部改正し、スポーツに関し基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務並びにスポーツ団体の努力等を明らかにするとともに、スポーツに関する施策の基本となる事項を定めたものです。
全会派一致をめざして超党派で法案づくりを進め、私は日本共産党を代表して成立過程に関わり、法案提案者として国会で答弁を行いました。
「スポーツ基本法」にはわが党も提案した数々の積極的な理念が盛り込まれました。何よりも「前文」の冒頭で「スポーツは、世界共通の人類の文化である」と言い切るとともに、「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利であり、全ての国民がその自発性の下に、各々の関心、適性等に応じて、安全かつ公正な環境の下で日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならない」とうたっています。スポーツに親しむことを「基本的人権」と位置付けたのです。他の条文にも、オリンピック精神でもある世界平和や地球環境の保全など、わが党の提案が盛り込まれた中身は少なくありません。
「ジェンダー」語った橋本氏
私は法案提案者として参議院の審議では答弁席に座って答弁する立場にありました。しかし当時は参議院文教科学委員会には日本共産党の議員はおらず、私あての質問が無ければ答弁することはできません。この時、私に質問してくれたのが今回新会長となった橋本聖子議員でした。
橋本議員は法案第19条の「スポーツに係る国際的な交流及び貢献の推進」に関わって「環境の保全に留意しつつ、国際相互理解の増進及び国際平和に寄与するよう努めなければならない」と定められていることについて質問しました。
その中で、「特にスポーツを通じた環境ですとかあるいはジェンダー、もう常に付き物であります。そして、貧困や教育、こういった国際貢献を実現するということに関しまして、特に環境ということを取り入れたということには大変大きな意味があるというふうに思います」と述べた上で、私の所見を聞いてきました。
私は、オリンピック憲章では環境問題とその責任について触れ、オリンピック開催にあたり持続可能な開発促進が明記されていること、近年、地球環境保全の重要性の認識が高まり、スポーツにおける環境保全への留意は世界の流れとなっていることなどを上げ、基本法にも環境保全の考え方を取り入れていることなどを答弁しました。
ここですでに橋本議員は、スポーツの分野で「ジェンダー」は「常に付き物」だとまで言っているのです。10年前の、この国会質疑に照らしても森喜朗氏の語ったことは、スポーツ基本法の理念にも精神にも全く反するものでした。
そもそも「オリンピック憲章」は人種、性別、性的指向などによる差別を固く禁じています。2014年12月にモナコで行われた第127次IOC総会において採択された20+20の改革案「オリンピック・アジェンダ2020」には、「男女平等を推進する」ことが明記されています。本来はスポーツの分野でこそ、最も「ジェンダー平等」実現への取り組みが進められなければならないはずなのです。
日本社会の歪み正す取組を
この問題は森氏の個人的な資質の問題にとどまらず、日本社会の各所に残る構造的な歪みです。これを機会に、「ジェンダー平等・後進国」日本の社会の歪みをただす取り組みがどうしても必要です。
日本共産党は綱領に「ジェンダー平等社会をつくる」ことを掲げた政党です。私と10年前に「世界共通の人類の文化」「全ての人々の権利」であるスポーツの役割についてやりとりをした橋本聖子新会長が、森氏の発言をめぐる問題について、組織委員会がどう総括し、ジェンダー平等や人権の取り組みをどう進めるかを明らかにすること。そして「震災復興の象徴」だとか「コロナに打ち勝った証し」などという政治的な思惑で、何が何でも開催に突っ走るのではなく、わが党が根拠もしめして提案しているように、今夏の五輪開催を中止し、日本も世界も新型コロナ感染症の終息にすべての力を注ぐことを冷静に検討し、勇気をもって決断することを強く求め、注視していきたいと思います。
(大阪民主新報、2021年2月28日号より)