6,銭湯の固定資産税 <シリーズ>大阪壊し 橋下流——維新政治を問う
「お風呂難民」に追い打ち
片道35分を歩き帰りはバス利用
大阪市中央区の団地・寺山住宅で独り暮らしをしている山田美佐子さん(85)。1951年にできた同住宅は最も古い府営住宅で、内風呂はありません。歩いて5分足らずの銭湯(公衆浴場)に通っていましたが、4年前に廃業。徒歩15分の距離にあった他の銭湯2つも、昨年末までに相次いでなくなりました。いまJR環状線鶴橋駅に近い東成区の銭湯まで通っています。
寒さの厳しい2月下旬、山田さんに同行しました。団地2階の自宅を出るのが午後3時15分。なだらかな坂を下り、長堀通に出て玉造の交差点を横断。日の出通り商店街を南下し、銭湯に到着したのは3時50分。山田さんのペースで35分かかります。4年前に肺の腫瘍をとる手術を受けました。また、めまいが伴う病気で治療中の身。たいへんな重労働です。
帰りは「冬場は湯冷めしないように」と市バスを利用します。この時間帯は1時間に1本しか便がなく、鶴橋駅前の停留所を4時46分に出る
「風呂通い」中心の暮らしになり
徒歩で片道25分ほどの銭湯もありますが、帰りのバス路線はありません。寺山住宅より西にある銭湯へは坂を上り下りしなければなりません。車いす生活の女性は、ホームヘルパーに押してもらってその銭湯に通っているといいます。
府内の公衆浴場の入浴料は440円です。「お風呂だけは毎日入りたい」と言う山田さんは、月4万円の年金から、食費やガスや電気代を節約しながら、「10枚4200円」の券を購入。敬老パスは年3千円の自己負担に加え、1回乗車ごとに50円必要です。
毎日の生活が「お風呂通い中心」になり、「午後3時から2時間は他の予定は入れられない」と山田さん。
「橋下さんが市長になってから、バタバタとおかしくなっていった。あの人はここに住んではらへんから分からへんのでしょう」
固定資産税減免で経営を支えて
山田さんだけでなく、大阪市内各地で「風呂難民」ともいえる市民が生まれています。
大阪市の居住世帯の浴室設置率は1963年の住宅統計調査で18・8%。08年に88・3%に増加したとはいえ、政令市中最低です。
現在も内風呂のない家は6%。そこに暮らす人々にとってなくてはならないのが身近な公衆浴場ですが、内風呂の普及や重油価格の高騰などによる経営難から、減少が続いています。1977年当時、大阪市内には1192店ありましたが、06年度には600店を切り、13年度は409店に減っています(グラフ)。
その中で橋下氏は市長就任直後の12年1月、公衆浴場などの固定資産税減免の「原則廃止」を指示。公衆浴場は市民の保健衛生の確保に必要で、物価統制令の規制を受けて勝手に料金を値上げできないことから、国は70年代以降、安定的な経営へ固定資産税軽減と軽減割合の拡大をするよう自治体に通知。大阪市でも3分の2(67%)を減免してきました。
橋下氏の方針で減免率下げられ
橋下氏の廃止方針に対し、「命綱を切られるようなもの。公衆浴場の減少で利用者の健康保持・増進が不十分になる」と、大阪府公衆浴場組合(浦田充理事長)が減免措置継続を求めて大阪市議会に2度、陳情書を提出しました。
財政総務委員会で日本共産党の山中智子議員が継続を求めたのに対し、橋下氏は「いまのお風呂やさんを見捨てることはしない」としながら、「廃業寸前の業(者)を全部助成して守るのか」「お風呂がない家をある家に変える動きを後押しするのが政治の役割」などとすり替えました。
陳情書はいずれも維新の会を含む全会一致で採択されましたが、減免率は14年度から50%、15年度からは37%に引き下げ。17年度以降は決まっていません。
減免を減らす一方、ボイラーなど基幹設備の更新への新たな補助制度ができましたが、府公衆浴場組合のある役員は、「補助を受けられる人と受けられない人が出てきて、不公平になった。風呂屋はみんな怒っている」と話します。
弱い者いじめをしないでほしい
「減免問題が引き金になって、店をたたんだ風呂屋もあるそうです」と言うのは大阪市生野区で「栄湯」を経営する後藤勇宏さん(46)と香代さん(45)夫妻。
「家に風呂がない人にとって、近くの銭湯がなくなるのは深刻。風呂があっても、ここにきて子育てや生活の悩みを聞いてもらったり、気持ちがスッとして帰る人もいる。銭湯がなくなったら困る人たちのこと、銭湯の役割を知ってほしい。弱い者いじめをしないでほしい」
(大阪民主新報、2015年3月8日付より)