座談会
100年の時代をつないで
いまに伝えたいこと
本紙に2020年7月から2年にわたって連載した「時代(とき)をつないで 大阪の日本共産党物語」が、このほど単行本になりました。執筆に関わった「時代(とき)をつないで 大阪の日本共産党物語」編集委員会のメンバーで、執筆にも携わった4人が出版に当たり、語り合いました。
この本の魅力、いまに伝えたいことは
中村 この企画は、2019年の8月から始め、3年越しで出版にこぎつけました。全体として3つのことを心掛けました。
1つ目は、100年の歩みをこの一冊にまとめることです。これまで『前衛』で「日本共産党の60年」として各地方の歴史をまとめた時に、大阪の歴史を載せたことはあるのですが、それ以降をつなぐことに挑戦する機会がありませんでした。今回100周年という節目で、ぜひやってみようということにしました。
2つ目に、今回、読み物として連載する上では、共産党の時々の方針と活動を決定に沿ってだけ書くのではなくて、次の3点に留意しました。
1点目は、大阪の政治・経済や、社会の時々の流れの中で、共産党が果たしてきた役割を浮き彫りにすること。2点目は「日本の中での大阪」を意識したことです。戦前からの資本主義の発展の中で、大阪は労働運動でも中心拠点であり、いろんな運動の本部が大阪につくられた。戦後も大阪の役割が大きかったという思いがありました。そういうところもぜひ味わってほしいと思います。3点目は、たたかいを担った人々に光を当てたことです。これは80人以上の方にレクチャーをしていただいたことが大変大きくて、党が組織としてどう頑張ったかということもさることながら、どんな思いでたたかいを担ったかということを実際に聞き取って、物語を紡ぎました。
3つ目は、「政治対決の弁証法」を浮き彫りにすることです。
この前の総選挙だけではなく、戦前、日本共産党ができた瞬間から、これをつぶしにかかるということがやられて、それをはね返すたたかいが不屈に行われてきました。戦後も、労働運動の大きな高まりがあるごとに、支配側がレッドパージとか、政治の世界でも日本共産党が躍進するたびに、「オール与党体制」や「二大政党の体制」などを仕掛けてくる。さらに大阪では維新が出てきました。
「都構想」の住民投票でもみられたように、相手とのたたかいの中で一歩一歩切り開いて、私たちが前進すればさらに大きな攻撃を仕掛ける、その連続の中で切り開いてきた歴史をぜひ見てほしいというのが、作り手として心掛けた点です。
では、この本を通して〝ここを読んでほしいな〟と強く思うことについて、話してもらいましょう。
宮本 私は7割ぐらいが生まれる前の話ですので、この党が存在すること自体が不思議なくらい、大変な出来事がたくさんあったことを知って、すごく驚きました。同時に、いまの情勢を見る上で、歴史を学ぶ大事さを改めて実感しました。
その時代ごとに、おかしい、変えたい、よりよく生きたいという願いを声に上げてたたかった人たちがたくさんいたことはすごいことだし、その声の一つ一つが、いまに地続きにつながっているんだと思います。
青年分野では、各時代の若い人たちが自由に工夫して、大衆的な運動に広げていったことなどは、いまも学ぶべきことがたくさんありました。
平山 選挙でもたたかいでも党建設でも、大阪の歴史を切り開いてきたのが、一人一人のたたかいなんだということを実感しました。
多くの先輩方から直接お話を聞かせてもらったんですが、悔しかったことや、自分の誇り、尊厳を傷つけられるような体験をしているのに、人生を振り返って話をされる時は、笑顔で楽しそうだったのがとても印象的でした。激しい人生を生き抜いて、後に笑顔で振り返ることができるという生き方を、僕も受け継ぎたいと思いました。
話を聞かせていただいた方の中には、僕が入党してから刺激を受けた先輩方もおられます。一つ一つの断面で刺激を受けたたたかいの全体像を、今回こういう形で学び直すことができて、本当に良かったなと思います。
大西 この本は、100年続いてきた党の歴史であると同時に大阪の歴史であり、大阪を良くするためにたたかってきた人たちの歴史でもあると思います。連載の途中で2回目の「都構想」の住民投票が行われましたが、こうやって連綿として続いてきた大阪の街をつぶそうとしたことは、ほんまに許されへんと強く思いました。
いま、「カジノ反対」の運動に取り組んでいますが、実はこの計画は90年代の「ベイエリア計画」と瓜二つだということが、歴史を紐解くとよく分かる。あの時、大阪の財政を破綻させたものの二の舞を、絶対許したらあかんと改めて思います。
編集の努力と苦労、醍醐味は?
中村 次のテーマは、編集にあたっての努力や苦労、または醍醐味です。
最初、この連載は、大西さんと宅田葉月さん(現淀川東淀川地区副委員長)と僕の3人でスタート。戦前の歴史に大変詳しい柳河瀬精さん(故人)と、戦後は菅生厚元府委員長がご健在で、「お2人がおられたら何とかなるんじゃないか」と気軽な発想でしたが、とんでもない間違いでした。お2人から話を聞いても予備知識がないので、次の機会に知識を埋めて、ようやく前に話されたことが分かるということで、後追いでたどり着くのが大変でした。
それで片っ端から本を読んでいきました。参考文献は、元々府委員会にあったものや買いそろえたものも含め、300冊に及びます。
ただやはり、82人の方にインタビューしたりレクチャーを受けたりして、情景が生き生きと浮かんだことが、連載を続ける力になったなと思います。
やはり歴史なので、資料の収集とか発掘に尽きるんですが、最初は分からなかった小岩井浄の話も、結局、戦後に小岩井が学長を務めた愛知大学の関係者の方や、多嘉子夫人の研究をしている方からも資料をいただく中で、彼がどんな思いで生きてこられたのかというところにたどり着きました。
それから100話全体の構成をどうするかということも苦労した点です。途中で回を増やさなあかんとか、追いついていけるかということもありましたけど、何とか100話に収まりました。
あと、毎週の連載はやはり大変で、当初ある方から「中村さんは2年間病気できませんね」と言われました。それから「もう10話ぐらいは書き貯めてはるんでしょ?」と言われたんですが、まだ1話もできてないのに連載を始めるという無謀な出発でした。毎週金曜日に出稿する度にホッとして、また次の回が始まるという繰り返しで、これはなかなかの苦労でした。
出版校正は最後まで苦労しました。特に、治安維持法で死刑になった人は日本ではいないのですが、「朝鮮半島では61人死刑執行されている」と連載では書きました。ただ出版校正のときに「61人」という数字の元資料が、膨大になってしまった資料のどこにあるか分からない。そのままだと無責任になるので、間違いのない数ということで、2つの事件で「22人、18人」と書くことにしました。そういう苦労がありました。
大西 戦前の「メディアの役割」を書くのに手掛かりがつかめず、戦前に商業新聞の記者として活躍した人の本などいろんな本を読みました。それらは全く書き込めなかったですけど。
「赤旗」(せっき)の復刻版から、大阪の記事を全部拾う作業は大変でしたけど面白かったです。先ほど「日本の中での大阪」という話がありましたが、「赤旗」にも大阪のリアルなたたかいの話がたくさん登場します。大阪が戦前から、党のたたかいでも中心的役割を果たしていたことは、そこからもよく分かりました。
いろんな人の話や本を読んで紹介したい話がたくさんあっても、字数制限内に削り込む作業が一番大変でした。
宮本 出てくる人物名や出来事が知らないことだらけで、調べ尽くす作業が本当に大変でした。
年代的に分からないことがたくさんあったので、年ごとに運動全体の流れを把握するところから始めました。全国的なたたかいの中、いろんな団体が生まれる中で大阪はどうだったのか、時系列で簡単な表を作ってから記事を書きました。自分がまず理解することは結構苦労したかなと思います。
醍醐味としては、運動を進めてきた多くの方から、当時のさまざまな苦労や葛藤の中での時々の決意の重みを直接聞けたことですね。いま私も悩みながら運動していますが、当時も同じように苦労してたんやなと思いを馳せながら、お話を聞きました。
平山 自分が担当する回は、締切りに追い詰められて、大体話ができたなと思っても、自分で読んでもあまり面白くなく、これは嫌や…と考え始めると追い込まれていく、ということの連続でした。
それでもやはり、お話を聞かせてもらった方が「その時どう思ったか」、その気持ちがアクセントになって、そのたたかい全体がどういう思いでたたかわれたのかということが伝わるものになったと思います。
読者へのメッセージ
中村 では最後に、ぜひ普及を大きく広げていく上で、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
僕自身思うのは「100年の重み」です。いま流に言えば、「一つの党名でなぜ100年やれたのか」と言うと、やっぱり戦前のたたかいで、他の党は二度と同じ名前で出られなくなった。その点では共産党は驚異的です。
それから、山名賢治さんという府委員会の先輩(故人)にお会いした時、「この連載に自分の歩みが整理されている」と、最大級の褒め言葉をいただいたことは、望外の喜びでした。
僕自身も74年入党だから、党史は5割は知らないはずなんです。ただ自分の歩みを振り返ると、この人のこういうたたかいは知らなかったというのがたくさんありました。地区や支部で、同じ思いで頑張ってこられたベテラン党員のたたかいを、ゆっくり聞く時間もなく過ごしてきたので、大変失礼なことをしてきたなあと改めて感じました。
ぜひ地区や支部で頑張ってこられたベテラン党員や、新しく入党される方へのプレゼントとしても活用していただけたら幸いです。
府委員会としても、10代20代の党員には、無料で贈呈しようと計画しています。まずは読んで、党内外の方にどんどん勧めていただいて、大阪の共産党の姿を広げていただければと思います。
平山 共産党だけの100年を追うのではなくて、たたかいを担った人に光を当てて、一人一人が力を出し合ったからこそつくられてきた歴史を描いた本です。この本を通じて、これからも一人一人がたたかいを続けていけば、新しい時代を切り開けるという希望を持ってもらいたいと思います。
この連載を読み合わせている党支部があると聞いて、めちゃくちゃうれしいなと思っています。
大西 この本は、大阪の「階級闘争史」であり「共闘の歴史」とも言えると思いますが、同時に、いまやられている反共攻撃とのたたかいの関係でも、その答えがここにあることも、ぜひ知ってほしいと思います。
総選挙や参院選で「中国(共産党)とお友達」とか「ソ連、ロシアと一緒」などと言う人がいましたが、とんでもない。日本共産党が、中国やソ連の覇権主義とどれだけ激しいたたかいをしてきたのかをリアルに知ることができる本です。ぜひ党外の方との対話の力にもしてほしいなと思います。
宮本 この本を読んだら、〝諦めない思い〟が湧いてくると思います。これからどんな歴史をつくるのか、不安も大きいけどわくわくする思いもあって、核兵器廃絶とか、ジェンダー平等、気候危機などの新しい取り組みでも、党や自分自身が発展していく上でも、歴史を知ることはその力になると思います。生まれる前の歴史ですけど、多くの若い皆さんにも読んでもらって、自らのたたかいを進める力にしてもらいたいなと思います。
中村 ありがとうございました。
ぜひ多くの方に手に取って読んでいただけることを期待したいと思います。
座談会出席者
(大阪民主新報、2022年9月18日号より)