「認定取り消し」の運動広げよう
カジノ反対運動は終わらない
国審査委が重大指摘 収益「根拠不明確」
カジノを核とする統合型リゾート(IR)を巡り、政府が5月に大阪の誘致計画を認定したのを受け、「認定取り消し」の運動を広げていこうと、カジノ問題を考える大阪ネットワーク(代表・桜田照雄阪南大学教授)が5月31日、大阪市阿倍野区内で学習集会を開き、市民ら80人が参加しました。
大阪ネットが学習集会
講演した桜田氏は、「カジノ誘致反対運動は国が認定したからといって終わるものではない」と強調。今回の認定自体、審査委員会が7つの条件を付けるなど、認定手続きの正当性を疑わせるもので、大阪府・市とカジノ事業者との「実施協定」の認可は9月中ともされる中、「『国は認可するな』との申し立ては、なお有効だ」語りました。
また大阪カジノの開業時期が2030年とされていることを巡り、「開業すれば、ギャンブル依存症はじめ住民の生活困難を引き起こすのは必至。自治体の責務は『住民福祉の向上』。カジノがもたらす社会的な問題への対応を求める住民運動が発展する」と述べました。
「認定取り消し」の運動を巡って桜田氏は、認定を受ける前提として必ず適合しなければならない「要求基準」の一つに、「IRを確実に設置できる根拠」があると指摘。この点で、住民訴訟が求めている夢洲のカジノ用地の賃貸契約締結の差し止めが認められれば、その根拠が失われると語りました。
大阪の誘致計画を審査した国の審査委員会が、カジノ事業にとって最も重要な収益推計に対して、「根拠が明確でない」「十分な評価は困難である」と指摘したことは重大だと指摘。大阪IR株式会社に出資する20社には投資判断の合理性を説明する責任があり、融資する三菱UFJ銀行と三井住友銀行にも融資判断の合理性を説明する責任が生じているなど、多くの問題点を挙げました。
おおさか市民ネットワーク代表で、格安賃料での賃貸契約差し止めを求める住民訴訟原告の藤永延代氏は、夢洲では2025年の大阪・関西万博に向けて会場整地が急ピッチで進んでいるが、降雨や逃げ場のない人工島での猛暑・強風など、工事遂行上の問題が山積していると指摘。「(大阪のカジノ誘致計画の)認定の中身は、突っ込みどころ満載。裁判にも勝利し、運動も起こし、カジノをつぶそう」と呼び掛けました。
夢洲IR差し止め訴訟原告の稲森豊氏(元日本共産党大阪市議)は、夢洲の地盤沈下問題について報告。大阪市の土壌対策は夢洲の地表から6㍍までの覆土(非汚染土)と、その下20~30㍍の埋め立て層(しゅんせつ土砂と建設残土)の液状化対策に限られているが、その下20~30㍍の沖積層は軟弱地盤で圧密沈下は必至で、その下の洪積層は全体が沈下する可能性が大きいことなどを明らかにしました。
差し止め訴訟第1回口頭弁論
夢洲カジノ用地を格安で賃貸するな
辰巳創史弁護士の意見陳述から
本紙6月4日付で既報の通り、大阪湾の埋め立て地、夢洲の市有地を格安の賃料でカジノ事業者に賃貸するのは違法だとして、大阪市民10人が大阪市長らを相手取り、賃貸契約締結の差し止めを求める住民訴訟(4月3日提訴)の第1回口頭弁論が5月30日、大阪地裁(横田典子裁判長)でありました。原告を代表して藤永延代氏と、弁護団の辰巳創史弁護士が意見陳述。辰巳氏は、今回の賃貸契約の問題点や大阪市の責任を、法的な観点から明らかにしました。
「適正な対価」で賃貸する責任が
辰巳氏は、大阪市には市民の貴重な財産である市有地を賃貸する場合、「適正な対価」(地方自治法237条2項)で賃貸する法的責任があると強調。そのために市は、適正な不動産鑑定などの資料を踏まえつつも、市独自の判断で適正な対価で賃貸する責任があるにもかかわらず、今回の賃料は「適正な対価」とは到底言えないと述べました。
鑑定結果は不当大阪市が示唆し
第1は、各不動産鑑定業者による鑑定結果の不当性です。2019年11月の鑑定結果では鑑定業者4社中3社が、再鑑定の依頼を受けて行われた21年3月の鑑定結果では3社中2社が、いずれも賃料を1平方㍍当たり月額428円、期待利回り4・3%としているが、異なる鑑定業者で完全に一致することはおよそ考えがたいとしました。
鑑定結果は、鑑定を依頼する前に大阪市が定めていた価格と合致することなどが判明しており、鑑定業者の中には、他の鑑定業者を市の担当者から聞いて知っていたと回答する者があり、「業者間で示し合わせる余地があった」と指摘。「鑑定評価が不自然に一致したのは、大阪市の不当な示唆、誘導または指示によって、各社が示し合わせたものであることが、強く推認される」と語りました。
IR事業なのに「IR考慮外」に
第2は、カジノを核とする統合型リゾート(IR)事業の土地賃料を算定するのが目的なのに、賃料額を算定するに当たって、市が「IR事業を考慮外」という条件をあえて設定した問題です。
辰巳氏は、夢洲でのIR事業は初期投資額が約1兆800億円、開業3年目期の年間売上高は約5200億円(うちカジノからの収益は8割の4200億円)、カジノ施設の来訪者は年間1610万人を見込むなど「超巨大な営利事業」だと指摘。誘致計画では夢洲の鉄道新駅前の一等地に日本有数の規模となる総客数約2375~2760室の「VIP向け最高級ホテル」などが建設されることを示しました。
にもかかわらず、各不動産鑑定は「IR事業を考慮外」とし、土地の価値を最も引き出す「最有効使用」を、低層(2階建て)または中層(4~5階建て)の「大規模複合商業施設」(イオンモールなど)として市有地を使用するものとして算定した結果、賃料は著しく安いものになっていると述べました。
不当な鑑定結果そのまま賃料に
辰巳氏は、今回の鑑定には大きな問題点がある上に、独自の責任で「適正な対価」を判断すべき大阪市が、全くこれに反する行為をとっていると指摘。「IR事業を考慮外」とする鑑定条件の設定は、大阪市自らが鑑定業者に指示していると強調しました。
住民訴訟に先立つ監査請求に対する市監査委員の調査で、鑑定業者自身が、「IR区域が国により認可され、事業が進捗、開業に伴い、価値の上昇が生み出された場合には、賃料の改定を行うのが通常であり、このことについて担当者には提言しています」と回答していることも示しました。
にもかかわらず、市は鑑定結果をそのまま賃料価格として、夢洲の市有地を35年もの長期間、1平方㍍当たり428円の「固定賃料」(物価スライドのみ)で賃貸しようとしていると批判。「大阪市民の貴重な市有地を、著しく適正を欠く方法で、著しい廉価な『固定賃料』で民間の営利会社に長期間賃貸することは、決して許されない」としました。
2つの住民訴訟が合同で
今回の住民訴訟は、昨年7月に別の市民5人が先行して提訴していた、夢洲の土壌対策での788億円の市負担の不当性を訴えて賃貸契約締結の差し止めを求めた「夢洲IR差し止め訴訟」と併合され、合同で審理されることになりました。
口頭弁論後の報告集会も両訴訟の原告団、弁護団、支援者らが参加しました。原告団を代表して意見陳述した藤永氏は、「カジノ誘致はまだ決まっていない。先行訴訟と力を合わせ、勝つまで頑張る」と発言しました。
2つの訴訟が合同で行われることについて、先行訴訟の豊永泰雄弁護士は「788億円を出すなという先行訴訟と、この賃料が安すぎるという後発訴訟は補完し合う関係。互いに力を尽くしたい」と表明。後発訴訟の長野真一郎弁護士は「大阪市の、その場しのぎのごまかしを許さない結果にしたい」と語りました。
(大阪民主新報、2023年6月11日号より)