自衛隊への若者の個人情報提供
貝塚・阪南・岬除く40自治体に
除外申請制度無しは20自治体
知らないうちに自分の情報が自衛隊に渡り、ある日突然、自衛官募集案内が自宅に届く事例が相次いでいます。自公政権が地方自治体に、自衛隊への住民名簿の提供を迫る中、府内では貝塚、阪南両市と岬町以外の40自治体が、紙媒体・電子媒体などで18歳や22歳の名簿を自衛隊に提供、うち約半数の自治体には、自分の情報を名簿から除外するという市民からの申請を受け付ける制度がないことなどが、本紙の調べで分かりました。
21年度以降に急増 6割が新たに提供
本紙は、各自治体のホームページや自治体へのアンケート、日本共産党議員団への聞き取りなどを基に、自治体から自衛隊への住民名簿の提供状況をまとめました。
自衛官や自衛官候補募集のために、18歳・22歳など対象年齢の住民の個人情報4情報(氏名・生年月日・性別・住所)を紙媒体や電子媒体などで自衛隊に提供している自治体は、貝塚市と岬町を除く40市町村に上りました。
名簿を提供していた自治体は、2015年には5自体(4市1町)でした。16年は3自治体(2市1町)、18年と19年は1市、20年は2市、21年は7市、22年は15自治体(10市4町1村)、23年は4自治体(3市1町)と、この3年間で府内6割近くの自治体が新たに提供を始めています。
提供している40自治体のうち、紙媒体で提供しているのは29自治体、電子媒体での提供は11自治体。堺市は住所と氏名を印刷した宛名シールを提供しています。
協力要請のはずが安倍政権以降「圧力」
自衛隊への名簿提供を巡っては、国会での日本共産党の質問に対し、住民基本台帳法に「(自衛隊への)提供の義務はない」(03年、畠中誠二郎総務省自治行政局長=当時)、「応えられないというのであれば、いたし方ない」(同年、石破茂防衛庁長官=当時)と発言するなど、あくまでも協力義務はないとされてきました。こうした中で自衛隊が各役所を訪れ、住民基本台帳を基に対象年齢の市民情報を書き写していました。
ところが19年2月の自民党大会で安倍晋三首相(当時)が、「6割以上が協力を拒否している」と発言したのに続いて、自治体からの住民基本台帳の一部写しの提出は可能とする閣議決定(20年12月)が出され、防衛省と総務省が各市町村に対し、防衛相が市区町村に提出を求めることができるとする通知を発出(21年2月)。これらを背景に、大阪でも一気に名簿を提供する自治体が増えました。大阪南部のある自治体の担当課職員は、「(国からの)圧力はある。データを提供しても法律に違反しないからと、協力を促すような通知が国から届いている」と話します。
共産党や市民らが申請制度など要望
自衛隊に名簿を提供している40自治体のうち、自分の情報を名簿から除外する申請を受け付ける制度があるのは20自治体にとどまります。今回の調査では、制度がない20自治体のうち8自治体が除外申請制度を検討、2自治体は申し出があれば受け付けるとしていることが分かりました。
各地の日本共産党議員団や市民団体は、自衛隊から要請があっても名簿提供を拒否するよう求めるとともに、提供している自治体では、除外申請制度をつくるよう求めてきました。
2021年から提供している大阪狭山市では、同党議員団が議会で求め、今年から除外申請制度を開始。池田、東大阪、寝屋川の3市でも党議員団の議会質問に対し、市が除外申請を受ける方向で答弁し、忠岡、豊能両町では同党議員団の問い合わせに対し、町当局がそれぞれ「申し出があれば検討せざるを得ない」「あらかじめ申し出があれば除外する」と回答しています。
このほか、大東市と能勢町でも除外申請制度を検討しています。
一方、除外申請制度がある自治体でも、受付期間が短かったり、周知が徹底されていないため、ほとんどの市民が知らず、気付いた時には受付期間が終わっていたということも少なくありません。制度を知っていても、役所に行って手続きをしなければならないことなどから、二の足を踏む例も。
これに対し同党議員団や市民団体が、除外申請制度を知らせるビラやニュースの配布や、制度を広く知らせるよう自治体に要望などを行っています。
茨木市では、同党議員団が今年3月議会で、大学や高校でも除外申請制度についての情報を掲示するよう要望。枚方市では昨年、同党議員団の申し入れで、広報への掲載と共に、メールによる申請が可能に。堺市では、同党議員団の市議会での質問を受け、申請書をインターネットでダウンロードできるようになりました。吹田、摂津両市では、同党議員団が除外申請期間拡充を求め、それぞれ3週間から3カ月、1カ月から2カ月に改善されました。
富田林では昨年、名簿提供しないよう住民が請願。共産党のみの賛成で否決されましたが、各会派が除外申請制度の周知を要望。随時申請できるようになっています。大阪市でも年齢を問わず年中、除外申請を受け付けています。
手間かからぬよう維新市長や議員が
維新は、個人情報を巡る市民の不安や疑問に背を向ける発言を繰り返してきました。
箕面市では21年、名簿問題を取り上げた共産党の質問に維新市長が、「自衛官がわざわざ市役所まで行って記入するのに、どんだけ時間がかかるのか」「電子データでお渡しするのが当然」と発言。名簿提供を行っていない岬町でも、今年6月の議会で維新議員が、「自衛隊員募集への協力はどうしているのか」と質問。総務部長が「写しを渡す自治体も増えているが、情報を望まない人もいるので慎重に検討」と述べたのに対し、「(自衛隊への情報提供を)十分に周知した上で(自衛隊に)手間がかからないよう」と要望しています。
自衛隊に名簿を提供している府内自治体と「除外申請」制度(本紙調べ)
(貝塚市と阪南市、岬町は名簿を提供していない)
自治体名 | 名簿の提供方法 | 対象年齢 | 提供内容 | 提供の開始年度 | 除外申請制度 | 備考 | |||
有無 | 申請期間 | 市民への情報提供 | 申し出数 | ||||||
大阪市 | 電子 | 18・21歳 | 4情報(氏名 ・ 生年月日・性別・住所) | 2019年 | 〇 | 21年度から制度開始。18歳に達する年度 の4月25日、21歳に達する年度の12月25 日、21歳に達する年度の12月25日。年齢に関わりなく年中受付 | HP | ||
堺市 | 印刷した宛名シール | 18・22歳 ※ 22歳 は21年 度 のみ |
氏名・住所 | 2020年 | 〇 | 5月1日~5月31日(23年) | HP | 4 | 21年6月、共産党議員団が除外申請制度について質問し、HPでの情報提供、申請書がダウンロードできるように |
豊中市 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2022年 | 〇 | 5月(23年) | HP、広報 | 6 | |
池田市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2022年 | × | HP | ― | 6月議会などでの共産党の質問に対し、「除外申請ができること、受付期間をホームページで知らせる予定」と回答 | |
箕面市 | 19年まで紙、20年 か ら 電子 | 18・22歳 | 4情報 | 2015年 | 〇 | 約1カ月 | HP、広報 | 共産党議員団が市議会で名簿提供問題を繰り返し質問し、除外申請制度の周知徹底も要求 | |
能勢町 | 紙 | 18・22歳(自衛 隊の要請によ り異なる) |
4情報 | 2016年 | × | ― | 除外申請制度を検討中。次回提出要請までに手法等を確定させてHPなどで発表する | ||
豊能町 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 不明 | × | 制度はないが申出があれば受け付ける | ― | 共産党の質問に「あらかじめ申出あれば除外」と回答 | |
茨木市 | 電子 | 18・22歳(年に より異なる) |
4情報 | 2015年 | 〇 | 4月中旬~5月中旬 | HP、広報 | 共産党議員団が3月議会で、情報提供については大学、高校での掲示も求めた | |
高槻市 | 電子 | 18・22歳 | 4情報 | 2020年 | 〇 | 5月1日~5月19日 | HP | 共産党議員団が市議会で求めて来た除外申請制度が、23年度から実現 | |
島本町 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2022年 | × | ― | |||
吹田市 | 電子 | 18・22歳 | 4情報 | 2022年 | 〇 | 4月1日~6月30日 | HP | 共産党議員団が求めて除外申請期間が3週間から3カ月に。申請方法が郵便のみから電子申請もできるように | |
摂津市 | 紙 | 18歳(16年~)・ 22歳(20年~) |
4情報 | 2016年 | 〇 | 1カ月程度 | HP、広報 | 9 | 今年は22歳の除外申請期間が3週間だったことに対し、批判を受けて18歳の期間が1カ月に) |
枚方市 | 電子 | 18・22歳 | 4情報 | 2022年 | 〇 | 5月1日~5月31日 | HP、広報 | 22年、共産党議員団が除外申請制度について申し入れ、広報への掲載とメールによる受付が可能に | |
交野市 | 電子 | 18・22歳 | 4情報 | 2022年 | 〇 | 3月1日~4月28日 | HP、広報 | 22年度は除外申請期間が4月1日~28日だったが、共産党議員団が期間延長や周知を要望して2カ月に | |
寝屋川市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2021年 | × | ― | 共産党議員団が議会で除外申請制度について質問し、「検討する」と答弁 | ||
守口市 | 21年 は 紙、22年 か ら 電 子 |
18・21歳 | 4情報 | 不明 | 〇 | 22年制度開始。18歳になる年度の4月25 日まで、21歳になる年度の12月25日まで。 |
HP、広報 | ||
門真市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2022年 | × | ― | |||
四條畷市 | 電子 | 18・22歳 | 4情報 | 2021年 | × | ― | |||
大東市 | 20年まで紙、21年 か ら 電 子 |
18・21歳 | 4情報 | 2015年 | × | ― | 除外申請について、市民からの要望もあり24年度実施に向けて検討中。情報提供は市HPや広報で考えている | ||
東大阪市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2015年 | × | ― | 共産党議員団が6月議会で質問し、除外申請も受ける方向で答弁。次回提供時に向けて準備中 | ||
八尾市 | 電子 | 18・21歳 | 4情報 | 2022年 | 〇 | 届出期間は15歳以上で22歳に達する年度 の4月1日まで。届出期限は、18歳にな る年度の4月25日、21歳になる年度の12 月25日。 |
HP | 14 | |
柏原市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2021年 | × | ― | |||
松原市 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2021年 | × | ― | 市が申出を尊重できるよう調整中。共産党議員団は申請書を市役所窓口に置くよう要望 | ||
羽曳野市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2021年 | 〇 | 2月15日~3月31日(23年) | HP | 1 | 革新懇が募集事務についての懇談を申し入れる予定 |
藤井寺市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2023年 | 〇 | 2月1日~3月31日(23年) | HP、 広報、 LINE |
4 | 今年3月、市議会で共産党議員団が名簿提供しないよう求める |
太子町 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2023年 | × | 制度はないが申出があれば受け付ける | ― | 新婦人が今年「自衛隊への名簿提出拒否」の申し入れをした際、「DVDのデータで渡すことはしない」と回答 | |
河南町 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2015年 | × | ― | |||
千早赤阪村 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2022年 | × | ― | |||
富田林市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2018年 | 〇 | 随時 | HP、広報 | 7 | 22年、名簿提供をしないよう住民が請願。共産党のみの賛成で否決したが、各会派が除外申請の周知について要望 |
大阪狭山市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2021年 | 〇 | 4月1日~4月30日(23年) | HP | 0 | 共産党議員団が議会で求めて除外申請できるように |
河内長野市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2022年 | 〇 | 17歳以上で22歳に到達する年度の4月1 日まで |
HP | ||
和泉市 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2023年 | 〇 | 2月から約1カ月 | |||
高石市 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2023年 | 〇 | 6月23日から7月13日(23年) | HP | ||
泉大津市 | 紙 | 自衛隊からの 請求の範囲内 |
4情報 | 2022年 | × | ― | |||
忠岡町 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2022年 | × | ― | 7月、共産党議員団の問い合わせに対し「申し出があれば検討せざるを得ない」と回答 | ||
岸和田市 | 紙 | 18・22歳 | 4情報 | 2021年 | 〇 | 1月4日~2月28日(23年) | HP | 3 | |
熊取町 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2022年 | × | ― | |||
泉佐野市 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2016年 | × | ― | |||
田尻町 | 紙 | 17、18歳で高卒 見込み |
4情報 | 2022年 | × | ― | |||
泉南市 | 紙 | 18歳 | 4情報 | 2022年 | × | ― |
(大阪民主新報、2023年8月6日号より)