摂津・東淀川で高濃度
発がん性指摘の有機フッ素化合物(PFAS)
遅れる国・行政の対応
1千人の血液検査へ 市民団体が京大と共同で
発がん性など健康への被害が指摘されている有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」による汚染が、全国で問題になっています。大阪でもダイキン工業淀川製作所のある摂津市や、同市に隣接する大阪市東淀川区の地下水で高濃度の汚染が判明。さらに本紙10月8日号で既報の通り、大阪府の調査で国の「暫定目標値」を超える汚染が府内18河川で確認されています。PFAS汚染を巡る問題や焦点を考えます。
生活用品や泡消火剤などに
PFASは4700種を超える有機フッ素化合物の総称。耐水性・耐火性が高いことから、生活用品では調理器具や食品の包装紙、美容関連製品などに使われ、世界中に普及。工業製品では軍事基地や空港などで使う泡消火剤があり、半導体製造や金属メッキなどにも用いられています。
PFASは環境中で分解されにくく高い蓄積性があることから、「永遠の化学物質(フォーエバーケミカル)」と呼ばれるように。中でもPFOA(ピーフォア)とPFOS(ピーフォス)は、ワクチン効果を弱める作用や、腎臓がん、胎児や新生児の発育抑制などの健康被害を引き起こすことが指摘されています。
世界的には2009年、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」の規制対象にPFOSが追加され、同条約締約国である日本国内では原則として製造・輸入が禁止に。19年にはPFOAも同条約の対象物質となり、21年に製造・使用が禁止されました。
摂津市の汚染が全国最悪
日本ではPFASについて、水道水や河川水・地下水の規制値を決めていませんでした。沖縄県の米軍基地で放出された泡消火剤が基地外に流失し、飲料水汚染が深刻になり、玉城デニー知事は19年6月、規制値を制定するよう国に求めました。
国はようやく重い腰を上げ、20年4月に水道水の「目標値」として、PFOSとPFOAの合計値として1㍑当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)に設定。環境省は同年5月、同じ値を河川水・地下水の「暫定目標値」に設定しましたが、いずれも法的な拘束力がありません。
環境省は20年6月に、全国171地点の河川水・地下水の汚染の実態調査結果(19年実施)を公表。最も深刻だったのが摂津市の地下水で、1㍑当たり1855・6ナノグラム。軒並み数値が高い沖縄県を除けば、摂津市に次ぐのは東京都調布市の556・0ナノグラムで、摂津市は突出していました。
ダイキンがPFOA排出
摂津市にある大手空調メーカーのダイキン工業淀川製作所は、1960年代後半からPFOAを製造・使用してきました。京都大学の小泉昭夫名誉教授らの研究グループが03年に行った調査では、淀川製作所に近い安威川広域下水処理場からの排水で、6万7千ナノグラムのPFOAを検出。淀川製作所からの排水が原因であることを突き止め、警鐘を鳴らしてきました。
ダイキンは2015年にPFOAの製造・使用を中止しましたが、20年の府調査で淀川製作所東の井戸から2万2千ナノグラムと高濃度のPFOAを確認。同年の環境省調査では東淀川区で5500ナノグラムが検出されるなど、汚染は継続しています。
22年1月、摂津市民有志が「PFOA汚染問題を考える会」を結成。汚染の調査と対策を求めるネット署名には2万3千人以上の賛同が寄せられ、国と府・摂津市、ダイキン工業にそれぞれ提出しました。
同年6月小泉氏らの研究グループが、淀川製作所周辺の住民11人の血液調査を実施したところ、7人から高濃度のPFOAを検出。しかしダイキン側は考える会に「健康被害は認識していない」と回答し、事態は前に進んでいません。
不安あおると否定する国
米環境保護庁(EPA)はことし3月、飲料水のPFOS、PFOAの基準を従来の1リットル当たり70ナノグラムから4ナノグラムと大幅に強化する案を公表しました。
京都市内で開かれたPFAS問題の学習会(4日)で講演した小泉氏は、日本でも4ナノグラムとすることが必要だと述べました。ところが日本政府の対応は大きく遅れています。
ことし4月の参院環境委員会で質問に立った山下芳生議員は、摂津市に住む母親の不安の声を紹介し、健康影響調査を行うよう求めました。
環境省は「世界的に見ても健康影響との関係というのが明らかではない。血液検査をすれば、いたずらに不安をあおる」と答弁。山下氏は「とんでもない答弁だ。調査しないから不安になっている」と批判しました。
こうした中で、「大阪のPFAS汚染と健康を考える会(準備会)」がこの秋、摂津市や大阪市東淀川区はじめ大阪民医連の医療機関で、住民の血液中のPFAS濃度を1千人規模で調査。京都大学と共同で実施するもので、血中濃度が高い人を診察し、調査結果を基に行政やダイキン工業に健康調査を求めるとともに、大阪民医連の医療機関で値が高い人への健康管理を進める方針です。
日本共産党
ダイキンの社会的責任問い
行政に調査と対策を求める
日本共産党は、PFOAの排出元であるダイキン工業の社会的責任を正面から問い、政府や自治体に対し住民の健康を守るための徹底的な調査や対策を求めて、国会や地元の摂津市議会、大阪市議会、府議会で奮闘してきました。
山下芳生副委員長・参院議員を責任者とする党国会議員団PFAS問題対策委員会は9月14日、摂津市内を現地調査しています。
市民との意見交換には、淀川製作所の元社員も参加し、「働いていた人の人体への影響も大きいと思うが、ダイキンはPFOA問題を知らせていない」と告発しました。
摂津市議会では9月27日、「PFOA等についての敷地内濃度の公表を求める意見書」を全会一致で採択。日本共産党市議団が提案した案を修正したもので、淀川製作所敷地内の地下水や公共下水に放流する水などのPFOA濃度を明らかにするよう、府がダイキン工業に促すことを強く求める内容です。
11日の大阪府議会環境産業労働常任委員会で石川たえ議員は、超党派の摂津市議団へのダイキンの回答でも全データはまったく明らかでないと指摘し、「有毒物質を排出し続けた企業の態度として許されるものではない」と強調。摂津市議会の意見書も示し、府としてダイキンに全調査データの公表を求めるとともに、府も健康調査に踏み出すべきだと述べました。
(大阪民主新報、2023年10月22日号より)