大阪から問う 安倍・維新政治
③学費・奨学金
大学交付金削減し学費高騰させ続けるか
高学費抑え奨学金改革で学ぶ機会保障か
夢を諦めざるを得ない状況
「夢を諦めないで」
府北部に住む母子家庭で3人きょうだいのAさんは、高校3年の進路面談の際、担任教諭から日本学生支援機構の奨学金制度のパンフレットを手渡されました。自宅通学の場合、無利子(第1種)と有利子(第2種)合わせて月額10万4千円の奨学金を利用できると説明を受けました。
「先生の気持ちはうれしかったけど…」
母親が介護の仕事で得る収入は月約10万円。家計を支えるため3年間アルバイトを続けたAさんは、「私のバイト収入がなければ、生活が行き詰まるのは目に見えていました。500万円以上の奨学金を利用する選択はできませんでした」
2人合わせて1千万の借金
大学3年のBさんは奨学金上限の月12万円を借り、全額を授業料にあて、家賃(3万5千円)など生活費のためアルバイトを掛け持ちしています。
「収入は月8万円。食費を抑えるため3食自炊です。専門研究のため仕事を減らすと、生活費が底を突きそう」と語るBさん。一番恐れているのは2年先の就職問題です。
「卒業時に600万円の借金を返せるか心配です」
医療機関に勤める女性(22)は、専門学校で学び400万円の奨学金を借りました。
昨年4月に就職し、6カ月後の10月から月額2万円を返済し、15年後に完済する予定ですが、大学4年の婚約者も、来年から550万円の奨学金返済が始まります。
「合計1千万円の返済です。出口の見えない暗いトンネルのよう。どんな暮らしが待っているのか想像さえできない」
交付金減らし学費引き上げ
奨学金制度は次世代を担う若者を育成するのが本来の目的ですが、その理念と実態はかけ離れたものになっています。
1984年に原則無利子だった奨学金に有利子制度が導入され、99年の貸与規模拡大と採用基準緩和で一気に急増。98年に11万人だった有利子奨学金の利用者は8・9倍に拡大、現在は全体の7割が有利子です。
2014年度の奨学金利用者は133万人に上り、大学生と大学院生は、半数が利用していることになります。
この原因は異常に高い学費負担です。授業料と入学金を合わせた初年度納付金は国立で83万円、私大平均で130万円。この30年で国立は倍増、私立は約1・8倍となり、物価上昇率をはるかに超えて高騰しています。
他方、大学への運営費交付金や助成金など予算は減り続け、1兆円規模に膨らんだ奨学金が、形を変え学費収入となり大学経営を支えているのです。
「子に多額の借金」いいのか
今月初め、大阪市内の高校で新3年生の保護者を集めた説明会が開かれ、担当教諭が「奨学金を活用してください」と制度内容を紹介し、「予約採用」を申請するよう促しました。
4年制大学志望の子を持つ母親(45)は、保護者が連帯保証人として署名すると聞き、書類を持つ手が震えたと言います。
「無審査で月10万円を4年間貸り、待っているのは利子付きの長期返済。子ども名義で借金を背負わせていいのか疑問に感じた」
大阪市内で4人の子どもを育てる女性(43)の長男は医療系専門学校を卒業し、国家試験と来春の就職を目指しています。現在、アルバイトをしながら総額450万円の奨学金返済を続けています。この春は次男の高校進学と三男の中学入学が重なり、制服代や教科書代などで20万円近い出費になりました。
4年制大学を目指し受験する高校3年の長女も、奨学金を借りる予定です。
「娘はアルバイトすると言いますが、親として安心して勉強してねと言いたいけれど、家計はそれを許しません。次の世代を担う子どもたちが、夢と希望を持って学び働ける社会になってほしいです」
若者・教育・未来のために
国際的には高等教育を重視し、学費無償や給付奨学金で学生を支援する傾向にあります。
OECD加盟35カ国のうち、17カ国は授業料無償、給付制奨学金がないのは日本とアイスランド(同国は学費無償)の2カ国のみ。GDPに占める高等教育予算の比率は、OECD諸国平均1・2%ですが、日本は0・5%で最低クラス。平均にまで引き上げると、大学無償化や給付制奨学金、さらに留学費用の無料化などに踏み出すことが可能です。
ところが安倍政権は国民の願いに反し、国立大学への運営費交付金を大幅カットし、10年間値上げが見送られてきた学費を、15年連続で引き上げる方針を打ち出しました。
日本共産党は、学費値上げ方針は、憲法が定める教育を受ける権利や国際人権規約を踏みにじるものだと批判しています。
同党は「学費アピール」を発表し、値上げ方針の撤回や、先進国で最低クラスの高等教育予算を増やす――ことを提案。「若者と教育、日本の未来のために学費大幅値上げを許すわけにはいかない。方針撤回へ世論と運動を広げよう」と呼び掛けています。
貧困ビジネス化する奨学金
2004年に日本育英会から日本学生支援機構に移行されて以降、奨学金の回収強化が進んでいます。
返済が滞ると5%の延滞金が課されて督促が始まり、3カ月滞納すると個人信用情報機関(ブラックリスト)に登録され、委託された民間会社が債券回収に乗り出します。延滞9カ月で訴訟により強制執行など法的措置が取られます。現在約300万人近くが返済中で3カ月以上の滞納者は20万人を超えます。利用者や親族への訴訟は2012年度に6193件に上り、機構は事業計画でさらに「高い回収率」を目指すと明記しています。
(大阪民主新報、2016年4月17日付より)