保険給付の対象外しと負担増続けるのか
税金の使い道を変え社会保障充実の道か

安上がりな新総合事業へ

利用者の衣類などを整理するヘルパーの坂東さん。「この仕事は無資格者では担えない」と言い切ります（大阪西成区内）

　２０００年のスタート以来、17年目にになる介護保険制度が、いま大きな岐路にあります。安倍政権は社会保障費削減を狙って２０１４年に「医療・介護総合法」を強行。これに基づいて、要支援１、２の訪問介護（ホームヘルプサービス）と通所介護（デイサービス）を介護保険の給付から外し、市町村ごとの「新総合事業」に丸投げしました。来年４月の完全移行に向け、府内でも多くの自治体が事業計画を策定します。

　大阪市内で要支援認定を受けている人は約６万人。訪問介護事業所は約２千、通所介護事業所は約１千あり、大きな影響を受けます。吉村市政はことし３月の社会福祉審議会高齢者部会に「サービス類型案」を提示。ホームヘルプサービスは現在とほぼ同じ「介護予防訪問サービス」と、「生活援助型訪問サービス（基準緩和型）」の２つを示しています。
　市はホームヘルプサービスは93％が掃除・選択・調理・買い物などの「生活援助」だという理由から、「生活援助型」は研修を受けた無資格者が行うとしていますが、研修内容は明らかにしていません。

無資格者では務まらない

　「無資格者に務まるなんて、とんでもない」と語るのは、大阪きづがわ医療福祉生活協同組合・ケアプランセンターさくらのヘルパー、坂東克恵さん（54）。大阪市西成区で一人暮らしをしている要支援２のＮさん（86）を担当し、週２回通っています。

　Ｎさんは事務用品の小売店兼自宅に生活。十数年前に夫を亡くし、近年は認知症も発症し始めており、食事は宅配の弁当に頼る毎日。坂東さんはＮさんを訪ねるとまず声を掛けて健康状態や気分を確認してから、窓を開けて新鮮な空気を通し、洗濯機を回す間に風呂場やトイレ、部屋の掃除などを行いますが、「１時間ではとても足りません」
　担当した当初、Ｎさん宅の内部は衣類や家財道具などがあふれ、足の踏み場もなかったほど。「一つ一つ片付けることで、Ｎさんも『自分でも少しはきれいにしよう』と少しずつ感じてくれている様子です。ヘルパーは、単に家事の手伝いをしているわけではありません」

介護の実際を見ぬやり方

　Ｎさんは以前、訪問販売で商品を売りつけられたりすることもありました。ケアプランセンターさくらのケアマネジャー・山田英樹さん（52）は「利用者さんには病状のほか、さまざまな生活背景があります。ヘルパー、ケアマネジャー、訪問看護スタッフが連携し、寄り添ってこそ、その人の暮らしや尊厳が守られる。無資格者でもいいとする大阪市のやり方は、介護の実際を見ていない」と強調します。

　既存事業所が「生活援助型」で有資格者によるサービスを提供しても、介護報酬は現行の75％。介護保険事業所の人材確保困難にさらに拍車をかける危険があります。
　デイサービスでも新設の「短期通所型（３時間未満）」では介護報酬は現行の70％。大阪社会保障推進協議会は大阪市の事業案に対して、ホームヘルプサービスで「生活援助型」を削除することや、デイサービスでの報酬引き下げをやめて現行通りの報酬とすること、介護予防・訪問介護の果たしている役割について市としてケアマネジャー、事業者や利用者の調査を行うことなどを求めて運動しています。

「税金の使い方」を変える

　介護保険の改悪は「要支援外し」にとどまりません。安倍政権は昨年６月に閣議決定した「経済再生運営と改革の基本方針（骨太の方針２０１５）」で、18年度からの第７期介護保険制度改定に向け、軽度者（要介護１、２）のサービス切り捨てなどの検討を打ち出しています。ことし末までに結論を出し、来年の通常国会にも改悪案を提案するという「工程表」を組んでいるだけに、「保険あって介護なし」への道をさらに進むのかどうかが、参院選でも問われます。

　深刻な人材不足を打開し、利用者サービスを守るためにことし３月、日本共産党、民主党、維新の党、生活の党、社民党の野党５党は介護職員等処遇改善法案を共同提出しましたが、自民・公明・おおさか維新の会の反対で否決。安倍政権が「１億総活躍社会」でいう「介護離職ゼロ」はまやかしです。

　日本共産党は安倍政権の暴走に終止符を打ち、政治転換する「３つのチェンジ」の第２に「税金の使い方を変える」を提案。社会保障の削減路線をやめ、介護保険の負担軽減、介護労働者の待遇改善を図ることをきっぱりと掲げています。

(大阪民主新報、2016年5月29日付より）