大阪市水道民営化問題
サービスの向上はありえない
〝民営化より民主化を〟市民団体の集会に250人
「ちょっと待って!水道の民営化」と、大阪市の吉村洋文市長が狙う水道民営化問題を検証し、公営での発展の可能性を考え合う集会が16日、大阪市中央区内で開かれ、市民や水道事業関係者、研究者ら約250人が参加しました。
主催したのは、環太平洋連携協定(TPP)など「経済のグローバル化」に対抗して持続可能な社会を目指して政策提言を行い、大阪市の水道民営化問題でも慎重審議を求める陳情を市議会に提出したNPO法人AMネットはじめ4団体。
東京都大田区の無所属区議で規制緩和問題や大阪市の水道民営化に関心をもつ奈須りえ氏と、オランダのNGO(非政府組織)「トランスナショナル」研究所の岸本聡子氏が報告しました。
昨年5月の住民投票で大阪市に駆け付けて「都」構想反対の宣伝に参加した奈須氏は、「民営化とは、非営利の公共サービスが営利の経済活動になること」と強調。
成果は市民ではなく株主に
民営化の「メリット」は、「価格低下」「サービス向上」と言われるが、大阪市案では「効率化」による成果は価格(市民)ではなく、配当(株主)にいく可能性があり、株式会社では利益を縮小させるサービス向上はあり得ないと述べました。
奈須氏は、現在の水道事業を担う公営企業は、企業会計でコストを明確にして運営されると同時に、議会を通じて市民が関与できる強みがあると指摘。「老朽水道管の耐震化・更新に多額の費用が必要」など、市が民営化の理由に挙げている問題は、民営化すれば解決できるものではないと語りました。
英国は料金が200%にも
岸本氏は、水(水道)の私営化に反対し、公営水道サービスの改革・民主化へ国際的な政策研究を行っています。国連社会経済局の検証でも民営化の失敗が明らになり始めており、世界各国で民営化した水道を公営に戻す「再公営化」が、00年の2事業から15年の235事業に増加していることを示しました。
岸本氏は、英国では25年前に水道を完全民営化したが、料金は200%になり、設備投資も行われず、国民の7割以上が「再公営化」を求めていると紹介。「住民、利用者、労働者が参画できる、公営企業の中での民主主義の確立が重要。「『民営化ではなく民主化を』との議論をこれからも続けていきたい」と話しました。
TPPとの関係もテーマに
AMネットの神田浩史理事が進行したパネル討論では、参加者からの質問に答えながら、奈須、岸本両氏が発言し、水道事業が完全民営化された場合のTPPとの関係もテーマになりました。「『民営化をやって駄目なら戻せばいい』とよく言われるが、TPPにはいったん行った規制緩和を後退させないラチェット規定がある。TPPが批准されれば、民営化は元に戻せない」(奈須氏)などの指摘がありました。
大阪市の水道民営化問題
安全・安心の水供給が第一
橋下徹前大阪市長は2013年に水道事業の民営化を検討することを打ち出し、同年11月に検討素案、14年9月に民営化基本方針(安)が示されました。浄水場や土地などの資産を市が保有したまま、設立当初は市が100%出資する新会社が水道事業を運営する「上下分離方式」による民営化案です。
橋下氏は15年2月、大阪市議会に民営化条例案を提出しましたが、維新以外の反対多数で否決。同年5月の住民投票での「大阪都」構想否決を受けて「政界引退」表明に追い込まれた橋下氏は、同年12月までの任期中に条例案を再提出することを断念しました。
昨年11月の市長選で初当選した吉村大阪市長は、「橋下市政の改革でできなかったこと、修正すべきことにしっかりと取り組む」と宣言。ことし2月に、市議会が否決した民営化条例案とほぼ同じものを大阪市議会に提出。ことし3月の大阪市議会で水道事業民営化案は継続審議となりましたが、下水道事業を民営化するための予算(大阪市100%出資の職員の大部分を転籍させる)は可決されています。
日本共産党大阪市議会議員団の山中智子幹事長(交通水道委員)はことし3月の代表質問で、昨年否決された民営条例案とほぼ同じものが提出されたことは、「議会軽視も甚だしい」と批判。水道事業は安全・安心の水供給が第一だからこそ、全国でもほぼ100%が公営であると強調するとともに、欧米諸国では水道事業の民営化に失敗して、再公営化する事例が増えているとし、「同じ轍(てつ)を踏んではならない」と主張しました。
(大阪民主新報、2016年7月24日付より)