カジノ誘致に批判・不安続々
府が府民向けIRセミナー
「府民の声を聞いたのか」「自治体の役割に反する」
府側 経済効果・健全・厳しい規制強調するが…
大阪湾の埋め立て地・夢洲(大阪市此花区)に、カジノを核とした統合型リゾート(IR)の誘致を進める府は1月26日、大阪市浪速区内で「IRについて知ろう、考えよう!」をテーマに府民向けのセミナーを開きました。市民や企業関係者ら約120人が参加しましたが、質疑応答ではカジノやギャンブル依存症問題をめぐって批判や怒りの声が相次ぎました。
府と大阪市で推進会議をつくり
セミナーで開会あいさつした府民文化部の岡本圭司部長は、カジノ解禁推進法の成立(昨年末)を受けて1年以内に実施法が制定される中、大阪誘致を国に申請するために有識者や経済会、府と大阪市が一堂に会する推進会議をつくると説明。ギャンブル依存症問題や青少年への影響について検討して府民に理解が得られるよう協議すると述べる一方、IRと万博の「相乗効果」を強調し、「インバウンド(外国人の訪日旅行)が増大し、経済波及効果が見込まれ、広く日本に波及する」と話しました。
府・大阪市特別顧問で府立大学21世紀科学研究機構の橋爪紳也教授と、デトロイトトーマツ(経営コンサルタント会社)の仁木一彦氏が講演しました。
橋爪氏は、IRはカジノやホテルや劇場などと統合された施設で、「昔のカジノと違って非常に健全な印象だ」とし、「あくまで民間事業者が設置・運用する」と説明。国際観光の「都市間競争」に勝ち抜くため、「10年先、20年先を見て、都市型リゾート(IR)があってよい」と語りました。
仁木氏はIR立地による経済波及効果などを試算した府の調査結果に触れ、IRへの来場者は海外だけでなく、国内の旅行者も見込んでいることを紹介。ギャンブル依存症や反社会的勢力の関与などの課題は、法律的な手当てについてこれから議論されるが、IRを導入した他国の事例を参考に、「世界で最も厳しい規制が行わる」などとしました。
カジノを公約に選挙していたか
意見交換で、「私はパチンコで家3軒分負けた」と言う男性は、「遊びではなく、かせぐために行くのが賭博だ。行政はマイナスの面から勉強すべき。維新は全面的にカジノをやると言って選挙をしたのか。少なくとも住民投票で決着すべき」と主張しました。
別の男性は、従来の公営賭博とは異なる民営カジノを合法だとする根拠や、夢洲の問題について質問。「夢洲は埋め立て途上。24年、25年に開業するには埋め立てをよほど早くしないといけない。見通しはどうか」とただしました。
回答した仁木氏は、依存症対策などと合わせた実施法が成立して初めてカジノを認めることになると説明。府民文化部都市魅力創造局企画・観光課の芝原哲彦課長は夢洲について、「北側は24年には万博も含めて整備は可能だと聞いているが、南側は大阪市の埋め立て計画を十分把握していない」と答えるにとどまりました。
大学教員の男性は「今日の話を聞いて非常にショックだ」と切り出し、「ギャンブルを夢洲にもってくることは、府で既に決まったことなのか。府民の意見を聞いたのか」と発言。「ギャンブル依存症は身体的影響、破産、家庭不和、離婚、自殺も生む。地方自治体とは一体何か。府民・納税者の健康や財産、命を守る立場になることだ。ギャンブルで地域振興することは自治体の目的に反する。大きな危機感を抱いている」と強調しました。
ベイエリア開発の流れ汲むもの
また別の男性は、大阪にはすでにユニバーサルスタジオ・ジャパンなどがある上に、さらに大きな観光集客施設を夢洲で実現するのかと質問。橋爪氏は90年代以来の大阪湾ベイエリア開発の「次のフェーズ(局面)に進めるのがIRで、一連のベイエリア開発の流れをくむもの」などと応じました。
カジノ誘致の異常さあらわ
○…府は、カジノを核とする統合型リゾート(IR)についてのシンポジウムを14年2月にも行っています。議員立法でカジノ解禁推進法が国会に提出されたのはその前年12月。「IRの認知度を高める」との目的で、府がいち早くシンポジウムを開いた形です。
今回のセミナーでも講演した橋爪氏らが「世界の富裕層に遊んでもらい、カジノ税の税収で社会福祉や地域活性化の財源に」などと発言。誘致推進の立場で、IRをバラ色に描き出していました。
○…今回は参加者に資料などは一切配られず、橋爪氏と二木氏がパワーポイントを使って講演しただけ。橋爪氏は賭博、マフィア・暴力団、犯罪、マネーロンダリング、ギャンブル依存症などは「IR=カジノ」から生まれる「負のイメージ」として、その払拭(ふっしょく)を力説。
二木氏も「カジノ施設導入に当たっては大阪府でも様々な課題・懸念事項が想定されている」として、その課題と対策にかなりの時間を割きました。
○…それほど数多くの課題があるカジノを、なぜ解禁し、誘致するのか。聞けば聞くほど、浮かんでくるのは素朴な疑問。質疑応答で批判や異論が相次いだのは当然です。
モニターに「議論の本質は賭博の是非ではない」と提示した橋爪氏。刑法が禁じる犯罪・民営賭博であるカジノを合法化し、害悪を防ぐ方策は実施法に先送りして暴走する異常さ、道理のなさが、逆に浮き彫りになっています。(す)
(大阪民主新報、2017年2月5日付より)