「医療空白」つくらせない
民間病院が撤退表明
大阪市・住吉市民病院廃止問題
市の責任で公的医療を
大阪市立住吉市民病院(同市住之江区)の廃止が来年3月末に迫っています。大阪市は跡地に民間の南港病院を誘致し、府市共同住吉母子医療センター(仮称、同市住吉区)とともに住吉市民病院が担ってきた小児・周産期の医療機能を継承・拡充するとしてきましたが、来年4月の南港病院の開院がとん挫。同病院は17日、大阪市に撤退を表明しました。このままでは医療機能の継承はおろか、重大な医療空白が生まれる危険があります。
安心の出産・育児を支え続けた市民病院
未受診の妊婦を受け入れて
住吉市民病院が公立として果たしてきた医療機能の一つに、未受診妊婦の受け入れがあります。
望まない妊娠、住む家がない、パートナーからのドメスティックバイオレンス(DV)など、「民間病院では受け入れてもらえない、さまざまな困難を抱えて未受診の妊婦さんを支えてきました」と語るのは、石黒和代さん(62)。助産師として住吉市民病院で19年間、十三市民病院で9年、再び住吉市民病院で2年間働き、2年前に退職しました。
住吉市民病院に戻って驚いたのは、「大変な状況の妊婦さんがいかに多いか」ということでした。以前はなかった医療ソーシャルワーカーが配置され、看護師や助産師も含めて毎日時間を取って、個々の妊婦の状況に応じて支援方針などをチームで討議してきました。
医療は利益優先でできない
「地域の保健センターと連携し、府立急性期総合医療センターと分担する形で、住宅の確保や経済的自立の支援など、妊婦さんの意思や選択も尊重しながら、安心して出産・育児ができる環境を保障してきたのです」と石黒さんは話します。
「助産師の仕事は、命のスタートをお手伝いすること。お母さんと生まれてくる赤ちゃん、2人の命を預かるのです」と石黒さん。助産師資格の国家試験を受けるためには、臨床実習で10件の分娩介助を経験することが必須条件。住吉市民病院に併設の大阪市立助産師学院で学んでいた当時、妊婦さんに分娩介助への理解と協力を求めたところ、誰もが快く応じてくれたことが忘れられません。
石黒さんは「資格のある助産師でも新米なら妊婦さんも不安だし、まして私は学生。でも協力していただけたのは、地域の信頼があったから。妊婦さん自身が住吉市民病院で生まれたという方も何人もいました。私は助産師としてお母さんたちに育てられました」と振り返ります。
その助産師学院も橋下前市政の「市政改革プラン」で14年3月で廃止。石黒さんは言います。「命に関わる医療は利益優先ではできないし、赤字が避けられない分野は公立でしか担えない。住吉市民病院は、助産制度による分娩やレスパイト(小児在宅医療支援としての短期入所事業)の受け入れなど、地域の要望に誠意を持って応える実践をしてきました。大阪市はその機能を維持・発展させると約束したのです。民間ができないというなら、市の責任でやるべきです」
専門家の反対無視し民間病院誘致を推進
産科・小児科の実績がない
大阪市が住吉市民病院の廃止後の跡地に南港病院の誘致を決めたのは15年10月。大阪市南部保健医療協議会や府医療審議会は、同病院には産科や小児科の実績がなく、医師確保の見通しがないことから反対。ところが松井一郎知事(日本維新の会代表)はこうした声に耳を貸さず、厚生労働省に南港病院誘致を前提にした「病院再編計画」を申請し、同省が同意しました。
昨年4月、日影規制の影響による建築位置の変更で新病棟の開院を、来年4月から20年4月へと2年延期。その間、南港病院が住吉市民病院の病棟を利用して暫定運用を行うことから、市は補助金・貸付金計約12億円の支援策を打ち出すとともに、現在の病棟改修費7千万円の予算を、ことし3月市議会に提案しました。
子育て世代が怒りや不安を
これに対し議会からは「南港病院がいまだに全体計画を示していない」「小児科や産科の医師確保ができていない」などの批判が続出し、改修予算は削除されました。にもかかわらず吉村市長は南港病院の誘致に固執してきました。
住吉市民病院で7歳の長男、5歳の長女、2歳の次男を出産した母親(38)=大阪市住之江区在住=は、「昨年、長男は胃腸炎などで2回入院し、次男は10回以上受診。いつ行っても小児科はいっぱいで、親たちは本当に頼りにしている。市民病院なしでは生活は成り立たない。他の病院では代えられない」と怒ります。
4歳の長男、3歳の次男、2歳の三男、0歳の長女を出産した別の母親(30)=同区在住=も、「市は子育てする人のことをもっと考えてほしい。民間がちゃんとしてくれるならいいが、そうは思えない。公立でなければできないのではないか」と話します。
民間病院誘致断念し公的医療機関設置を
「医療空白をつくらないためには、南港病院を支援するしかない」と説明していた大阪市。しかし13年3月の大阪市議会で住吉市民病院の廃止が可決された当時の付帯決議では、住吉市民病院の機能存続と、住之江区・西成区はじめ大阪市南部医療圏の小児・周産期医療の充実へ、市が責任を持って民間病院の早期誘致を実現するよう求めています。
障害ある子どもも預かって
住吉市民病院のかけがえのない機能では、未受診妊婦の受け入れ・支援以外にも、「重度心身障害児短期入所事業」があります。重い病気や障害がある子どもを預かり、家族の負担を軽減するもので、大阪市内では3病院でしか実施されておらず、現在でも受け入れ先は不足。府医師会は機関紙「大阪府医ニュース」(4月26日号)で、「現在、大阪市には新たな対応が求められているが、付帯決議が形骸化しつつある」と警告しています。
住民の声集め議会に陳情書
住吉市民病院を充実させる市民の会は、困難を抱える妊婦さんや重度心身障害児とその家族が路頭に迷うことになるとして、大阪市に対して民間病院の誘致を断念し、住吉市民病院の医療機能を引き継ぐ公的な医療機関を設置するよう求める陳情署名を市民に呼び掛け。12日には2033人分の署名を添えて大阪市議会に陳情書を提出しました。
24日(水)午後7時から大阪市西成区の西成区民センター・ホールで、住吉市民病院の医療機能をともに考えようと市民集会も開きます。
(大阪民主新報、2017年5月21日付より)