種子はいのちの源
農業の存亡にかかわる種子法廃止
稲、麦、大豆の種子生産を都道府県に義務付ける主要農産物種子法(種子法)の廃止法が通常国会中の4月14日、自民、公明、維新の会の賛成多数で成立しました。戦中・戦後の“食糧難”の時代を経て制定された同法が果たした意義や、廃止の影響をどう考えるのか、農民組合大阪府連合会の中西顕治事務局長(日本共産党能勢町議)の寄稿を紹介します。
種子はいのちの源
農業の存亡にかかわる種子法廃止
農民組合大阪府連合会事務局長 中西顕治
通常国会で農業関連8法が可決されました。これらの法案は、環太平洋連携協定=TPPの承認締結交渉に含まれた、農業分野での譲歩を実現するものでした。TPPが締結されなくとも譲歩した条件は実行されるということになります。関連8法の中から「主要農作物種子法を廃止する法」(種子法廃止)が国民の暮らしにとって何を引き起こすかについて考えたいと思います。
種子法が支えてきたものは何か
この法律は1952年(昭和27年)、戦後食糧調達がままならないころ、米や麦、大豆といった主要穀物の種子は公共の財産であるとして、必要とする農家に普及することを目的に制定されました。
全国各地の農業試験場は、それぞれの土地と気候に応じた品種開発を行い、種子普及事業で農家に安価に安定供給しています。その運営は、国が種子法を根拠に予算をつけて事業が行われてきたのです。
おいしい品種、病害虫に強い品種、温暖化などの気候変動に対応できる品種が日々開発され、日本の農業は進歩してきました。つまり種子法は、おいしい安全な食糧を研究開発する知的財産と、その普及を担う仕組みを丸ごと支えてきたのです。
国会審議の中では、農業試験場の事業に対する予算は保持すると言っていますが、「都道府県の『自主的判断』に基づいて取り組むことができる」という答弁に示されるように、非常に危ういものになります。
農業試験場の財産はどうなる?
種子法が廃止されるのは来年4月です。例えば、大阪府でこの事業を取りやめた場合に、今農業試験場が持っている研究成果という知的財産は誰のものになるのでしょうか?倉庫に厳重にしまわれて永久に封印されるのでしょうか?
ここで問題になるのが、同時に可決された「農業競争力強化支援法」という法律です。この中に先ほどの疑問の答えがこう書かれています。
「民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給促進」「都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供」――そして国会では農林水産大臣が、「事業者の国籍に関係はありません。外資企業が支援措置を活用することも可能」と答弁しました。
民間事業者というのは国内業者に限られたものではなく、外資系も含む民間業者に営々と培われ蓄積された財産を提供することが、可能になります。
国際的な種苗ビジネスを展開するモンサントやデュポンのようなバイオテクノロジーをもつ企業が日本の農業に進出し、堂々と遺伝子組み換え種子などの農業ビジネスに参入してくることは容易に想像できます。
種を制する者は世界をも制する
種子はいのちの源。そして人は食糧がなければ生存できません。
穀物は種を蒔いて、育てて収穫するという当たり前の手順を経て私たちの口に入ります。どんなに優秀な農家でも、種を蒔かなければ収穫はできません。種子の権利を一部の企業が持つことは大げさではなく、国の存亡にかかわることです。
民間業者が種子の開発普及を行うことになれば、種子の栽培コストや開発コストは種子を買う農家に転嫁されることになります。遺伝子組み換えトウモロコシのように、農薬とセットで販売されるようになれば、コストはさらに跳ね上がります。
小規模農家がこの負担に耐えられず離農していき、大規模農家がかろうじて生き残る。その大規模農家がさらに効率を上げるために、ハイブリッド種子とセットで開発された高価な肥料・農薬を買わされることになるのは、インドの綿花栽培などの歴史を見れば明らかです。
安心・安全の主食を守るために
種子法廃止に反対してきたJAや生協関係者などを中心に幅広い人々が集まり、「日本の種子(たね)を守る会」が7月3日に結成されました。
この会は食の安全や食料主権を守るために、これまで蓄積してきた遺伝資源などの公共財産を守ることを目的に、種子法廃止後も、「これまでの種子行政の継続を国や都道府県に働きかける」、「種子を守るための新法制定に向けた署名活動をおこなう」、「生産者はもとより消費者への啓発活動を行う」ことを表明しました。
種子を守る運動を大きく広げましょう。安心して食べられる食糧を確保するのは国の責任です。そのために安心して農業を続けられる農政、次の世代に引き継げる当たり前の農政にしていかなければなりません。なによりも、一部企業の儲けの為に国民の財産を放棄してしまう国政を農家や消費者が大切にされる国政に変えることが求められています。
(なかにし・けんじ)
(大阪民主新報、2017年8月6日付より)