おおさかナウ

2014年01月12日

民意に逆らう「大阪都」構想論議(下)

この記事はこちらの記事の続き(後編)です。

日本共産党大阪府委員会政策委員会

4、「制度設計(パッケージ案)」の6つのペテン

 「大阪府・大阪市特別区設置協議会」で、いま論議を進めているのは、「府市・大都市局」が「知事・市長の考えを具現化」して出した「大阪における大都市制度の制度設計(パッケージ案)」です。
 これをもとに昨年12月まで6回議論がありました。そこでだされた主な問題点をみるだけでも、「大阪都」構想がいかに無理無謀なものかがわかります。

「特別区」づくりの意味をなさない「一部事務組合」問題

 その第1は、「一部事務組合」問題です。
 「パッケージ案」は大阪府・市の事務を「都」と「特別区」に無理矢理分けるのですが、「国民健康保険」「介護保険」など94の事務が分けられない。「特別区」同士でつくる「一部事務組合」で一括して担うとします。
 東京都は23区がそれぞれ担い、一般市でも通常担っています。ところが「特別区」は、「中核市以上の権限」という触れこみなのに、これらの事務は担いません。「一部事務組合」なら、「議会」はあっても、議員を住民が直接選ぶことはできません。「国保料値下げ」などを求める直接請求運動もできません。
 住民自治を遠ざけるものであり、どこが「住民に身近なサービスは特別区で」「ニア・イズ・ベター」でしょう。「市を5~7区に分割する効果を疑われるのではないか」(「東京都政新聞」昨年8月23日付)などと東京からも問題点がつきつけられますが、「維新」側の反論はありません。

財政がもたない「特別区」

 第2に、重大な問題が財政問題です。
 「パッケージ案」の組み立てはこうです。①大阪市の財産は「特別区」に承継する(決まってもいない地下鉄民営化の株も!)②債務(借金)は「大阪都」に承継し、その償還(借金返し)は「都」が3割、「特別区」が7割を負担する③法人市町村民税、固定資産税、特別土地保有税、さらに地方交付税も「財政調整財源」とし、その合計の24%を「都」、76%を「特別区」に分ける
 しかし、これで果たして「都」も「特別区」も成り立つのか。最初から、次のような問題が次々指摘されました。

 ――「特別区」ごとの「普通財産」に25~49倍の格差が生じる。
 ――「都」が借金漬けになり「財政再生団体」に陥る危険がある。
 ――「特別区」は相当な収支不足が続く。しかし、「固定資産税」などの課税権限は「都」に奪われ、「財政調整」という名の「都のひもつき」でなければ財源確保策がない。

 さらに「財政調整財源」に「地方交付税」を入れるのは、「特別区」を「国のひもつき」にするもので、「国の理解を得るのも容易ではない」(「読売」昨年8月26日付社説)と実現性も疑わしいものです。

一般職員が最大2200人足らない

 第3に、職員配置の問題です。
 「パッケージ案」は、「特別区」をたちあげるためには、行政職員が最大2200人不足し、技能職員は逆に最大1100人過剰になる。それを技能職員の行政職員への転任と新規採用、再任用で補うといいます。
 しかし、万一、秋の「住民投票」で「大阪都」が決まっても、来春4月1日まで半年もありません。公明党委員も、こんな短期の大量採用は「ありえない」とのべます。大阪市のここ数年の新規採用は120人前後です。
 しかも、この試算は府内の「中核市5市平均」をもとに、機械的にはじいたものです。昼間人口問題や単身者世帯、貧困層の多さなど大阪市特有の条件は加味されていません。
 さらに乱暴、ずさんなのは、「職員不足」を騒ぎ立てて出発するのに、「都」になれば、「最終年度」に1800~4800人削減できると財政見通しをたてていることです。

「大阪都」は最初から8兆円もの借金残高に

 第4に、「大阪都」は借金漬けです。
 「パッケージ案」では、大阪市の借金はすべて「都」に移します。いまの府の借金残高5兆数千億円が、8兆数千億円にふくれあがることに、きびしい意見が寄せられます。
 「実質公債費率が30・5%と、財政健全化団体に転落する水準になる」(公明党委員・第8回協議会で)。「府・市を合わせて、借金は8兆2000億円に! 大阪都構想は、まさに大阪破たん構想だった!!!」(自民党大阪市会議員団ビラ)
 これを切り抜けるために、「政府が財政健全化指数の算定方法を変えるよう要望する」といいますが、きわめて危ない橋です。
 全国の地方債市場のなかで、大阪府債と大阪市債は8%を占めます。「大阪都」構想に関心を寄せる野村證券は、制度設計いかんでは、「市場の信頼が毀損され、大阪府・大阪市ともに資金調達環境が悪化する可能性もゼロではない」(野村資本市場クォータリー 2013年秋号)と指摘しています。

法律を126本変えないと「都」はできない

 第5に、「大阪都」は、いまの法律を126本改正しなければできません。事務分担、財政調整などで東京都と異なる場合、事務分担で123本、財政調整で5本、都区協議会で2本(一部重複)、いまの法律に抵触するからです。
 「大都市局」は「総務省と調整中」としますが、各省庁からは「なぜ特別区が中核市並の権限を担うのか?」「特別区が事務を処理するために職員体制や専門性の確保が図れるのか」など、基本点での質問が寄せられます。
 橋下市長は、第8回協議会で、「やろうと思えば、事務処理特例条例というものを活用できる」といいだしました。
 国会で「特別区設置法」をつくったのはダブル選挙直後、中央政党が「維新」にひれ伏す形でした。いまやそんな「風」はありません。橋下氏の発言は、それを念頭においたものでしょうが、そんな「裏技」のどこに「大阪都」の大義があるのでしょう。

効果は「過大」、コストは「過小」

 第6に、「パッケージ案」は、「大阪都」実現の「効果」は「過大」、「コスト」は「過小」に見積もったものです。
 当初、松井知事が掲げていた「効果」は「4000億円」でした。ところが「パッケージ案」は最大「976億円」。これには、「大阪都」とは無関係の府市の事業再編や住民サービス削減など706億円を入れたものでした。日本共産党大阪市議団が精査すると、「二重行政解消」なるものの「効果」は、せいぜい「9・4億円」にすぎません。各紙も、「『水増し』批判は避けられない」(「読売」昨年8月10日付)、「都構想 大揺れ皮算用/コスト減試算 1千億円?9億円?」(「朝日」10月19日付夕刊)と指摘します。
 一方、「コスト」を「過小」にするために、たとえば新たな「特別区」の「庁舎」はつくらず、不足は「民間ビルを借り上げる」といいます。日本共産党山中智子市議団幹事長は「区によって不足分は小学校2~3校分になる。結局はタコ足庁舎となり、窓口ごとに行く先が不明・バラバラ。住民の利便性など眼中にない」ときびしく批判しています。

「5区案」に絞り込むというが――
「修正案」「財政シミュレーション」による新たなペテン

 批判があいつぐなかで、12月の第10回「法定協議会」に、新たな「修正案」と「財政シミュレーション」がだされました。
 「修正案」は、「地下鉄民営化」の効果額が違うとか、「職員削減」の起点が違ったなど、当初案のずさんさを認めるものでした。
 加えて「修正案」は、「ネットワークシステムも特別区全体で共同使用」「区間格差をなくすために普通財産も共同活用」といいだしました。新たなとりつくろい策ですが、いよいよ「大阪市分割」の道理のなさを示します。
 「財政シミュレーション」も、新たな問題がうかびあがります。

 ――「7区案」は、2033年度に約1500億円の累積赤字が発生などという数字がでました。それで「5区案」としかいえなくなっています。
 ――「5区案」(北・中央区分離)では、「2022年度には収支不足が解消」「2033年度の単年度収支では約220億のプラス」といいます。しかし、「収支不足」解消の財源は、橋下市長が「市政改革プラン」の際には禁じていた「補てん財源の活用」――土地の切り売りなどに頼るものです。
 ――数字の前提は、税収の伸びが毎年1・7%、職員削減の効果が「最終年度」の「総配置数達成」で117億円などとするものです。その根拠が不確かなうえ、いずれも「大阪都」への「再編」とは無縁なものです。

 「財政シミュレーション」の議論はこれからです。ところが、橋下市長は「5区案(北・中央分離)」をごり押しする構えです。
 「法定協議会」では、「大阪都」の是非そのものを問う議論があとをたたず、当初スケジュールは大幅に遅れています。しかし、だからといって、勝手にもちだした4つの案では財政面でよりマシに見えるというだけで、問答無用に「5区案(北・中央分離)」でつきすすむことが許されるはずがありません。それは、「大阪都」構想の制度設計の破たんと橋下氏の焦りようを示すものです。

5、「大阪府」のあり方の一大変質が不問に

 最後に、「大阪都」は、「大阪府」のあり方を一変させます。ところが、「法定協議会」ではこれが正面から議論されていません

「大阪の統治機構の変革」を叫びながら

 そもそも「維新の会」によれば、「大阪都」は「大阪の統治機構を変える」ものでした。2011年秋にだした「大阪都推進大綱」では、大阪府と大阪市・堺市による「大阪都構想推進協議会」で「大阪都」の所管事務――大規模開発、「成長戦略」、警察、消防から災害復旧、広域の危機管理、雇用対策などを「協議しなければならない」としていました。
 ところが、「都」の制度設計は横におかれ、「財政再生団体」への危惧もあるのに、「都」の「財政シミュレーション」はありません。
 そもそも姑息なやり方ですが、国会でだされた「特別区設置法」は、「大阪都」(この名称は、この法律にはありませんが)をつくるためには、まず大阪市民の住民投票でOKとされてしまいました。衛星都市の住民は、「大阪の統治機構」のあり方について、是非を意思表示できないのです。
 それでいて橋下氏は、昨秋の堺市長選挙で、「大阪と堺が動いたあと、周辺に『大阪都』にはいってきてもらう。最終的には19区ぐらいに」とうそぶいています。

鮮明なのは「カジノ」「リニア」だけ?!

 「強い広域自治体」という展望も、鮮明なのは「一人のリーダー」によって、「カジノ」や「リニア」につっこんでいく姿です。年末に「カジノ」誘致への「大阪府市IR立地準備会議」初会合で、橋下市長は、これが「大阪都構想のための試金石」とのべています。

 前回(昨年12月22日付)と今回、2回にわたって主な問題点をみてきましたが、「大阪都」構想は、民意に逆らう危険な「大阪破壊計画」です。いま求められているのは、「法定協議会」でうきぼりになる問題点の一つ一つを徹底検証、吟味したうえで、この構想を白紙に戻し、「大阪都」をストップすることです。民意を反映した異論、批判のすべてをごまかし、覆い隠して、前にすすめるなど絶対に許してはなりません。

 

(2014年1月12日付「大阪民主新報」より)

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