特別対談
分断乗り越え手を差し伸べる社会へ
本気の野党共闘で安倍政治終わらせる
医療現場の視点から社会的な発信を続ける精神科医の香山リカさんと、森友事件追及など安倍政治に正面対決して日々奮闘する日本共産党参院議員・たつみコータロー参院議員に、政治転換に向けたたたかいの展望など縦横に語り合っていただきました。
たつみ 大阪の憲法集会など何度かお目にかかりましたが、じっくりお話しさせていただくのは初めてです。どうぞよろしくお願いします。
香山 こちらこそよろしくお願いします。
たつみ 香山さんは大学での講義や各地の講演活動で社会的発信を続ける一方、医療現場でのお仕事もあり、ずいぶんとお忙しいのではないでしょうか。
生きづらさの裏にあるもの
香山 やっぱりそう見えますよね。なるべく授業がない時間帯は診察に充てたいと思っています。精神科医であることが、私にとってのアイデンティティとして大きいですから。
たつみ 診察室での視点が発信の原点ということですね。
香山 診察室にいると社会の様子が結構分かるんですよ。
たつみ たとえばどんなことでしょうか。
香山 長時間残業でうつ病患者が増えたなぁと感じていると、ニュースでブラック企業が特集されて「ああ、やっぱり」と思うことがよくあります。介護疲れやハラスメントの問題も同じですね。
たつみ うつ病などの背景には不況や雇用の悪化、生活苦など社会的な課題が強く影響していますよね。私も国会議員になるまで「生活と健康を守る会」という市民団体で働き、9年間で7千件の生活相談に対応して、そのことを実感しています。
香山 そうなんですね。大阪のどちらですか?
たつみ 下町の雰囲気が残る大阪市此花区という地域です。パートナーからのDVで逃げてきた女性や、「家賃滞納で明日追い出される」と駆け込んできた母子、長期間引きこもり状態が続く青年など、寄り添いながら解決に走り回っていました。
香山 精神科を受診する患者さんも、症状としては不眠やうつ状態として現れるけど、その背景に暴力や生活苦がある。そうすると薬だけでは解決につながらないケースが多いです。
行政の現場も疲弊している
たつみ 病気にまで追い込んでしまうような“生きづらさ”の裏には多くの場合、政治や社会の矛盾があって、その大本が解決されないと前に進むことさえ難しいのですよね。
香山 本当にそうです。職場復帰を勧めた患者に、「ブラック企業に戻るくらいなら、病気が治らないほうがいい」と言われた時は考えさせられました。一刻も早く苦しい症状を治すことが医師としての至上命題ではあるけれど、治療の結果、再び患者を地獄の状況に戻すことが正しいのかと葛藤しました。
たつみ 社会のあり方を根本から変えていかないとだめだと痛感します。社会保障制度でも、生活保護制度を中心に多くのセーフティーネットが整備されていますが、多くの市民はそのことさえ知らされていません。福祉事務所で生活保護を利用したいと相談しても、いわゆる水際作戦で「駄目だ」と言われて返されます。
香山 役所で「あなたの場合、この制度が使えますね」と教えてくれるといいのですけどね。
たつみ 役所の福祉課の窓口も多くが非正規職員です。構造改革が進められ、行政現場が疲弊していますよね。
香山 生産性や競争力も大切だけど、みんなが安心して暮らせる社会になるためにも、福祉や介護、教育分野で働く人が劣悪な労働条件で競争に追い立てられる状況を改めなければならないと思います。
人間らしい生き方求め
たつみ 今の日本社会では人間らしい生き方、暮らし方、働き方、それが全然できていない。だからこそ私たちは、「8時間働けば普通に暮らせる社会を目指そう」と言い続けているのですが、これからも声を大にして追及していきます。
香山 若い頃に先輩医師から、「将来は機械が難しい仕事をして、人間は週に3日か4日働くだけでいいから、ストレスが減る時代がくる。今から精神科医になっても食いっぱぐれるよ」と言われました。確かに優れた道具や便利なインフラは整ったけど、働き方は「24時間働けますか」と言った高度成長期と変わってない。
たつみ 変わっていないですね。2018年に国会で問題になった「働き方改革」では、100時間までの1カ月残業を認める法案が強行されました。本当にひどいです。
社会を考える余裕すらない
香山 働く現場はいったいどうなっているのかと関心を持ち、産業医の資格をとってこの10年ほど毎月いくつかの職場に行っています。毎日働き詰めの人たちは、スマホでニュースの見出しを確認するくらいで、世の中のことを考える余裕もありません。
たつみ 「有権者は寝ていて」と言った自民党幹部がいましたが、集会に行けないほど疲れさせるのがある意味政権側の計算なのかもしれません。
香山 暴言を繰り返したり、強行採決を重ねることに、無力感を覚える人も多いですよね。だけど2015年の戦争法案の問題で、全国で若者たちが立ち上がりました。
連帯をもっと大きくしたい
たつみ 共産党としても、野党共闘を進めると大胆に方針転換をしました。沖縄の問題で、何人ものタレントが声を上げたり、大きな変化も感じます。昨年以降全国に広がった「国会パブリックビューイング」にも励まされているんです。
香山 ずいぶんと広がっていますよね。
たつみ 国会でのやりとりは、普段ほとんど見ることができないですから、政権側のデータのごまかしを淡々と見せていけば、多くの人が立ち止まって見ている。新たな試みが有権者の心に届いていると感じています。
香山 いろんな種がまかれていて、それが社会の問題に目を向けるきっかけになる。今までまったく目に入ってこなかったものが目に入ると思う。
たつみ 連帯の力をもっと大きくしたいと思います。香山さんはヘイトスピーチ問題でも発信されています。国や民族、人種間で分断されているわけですが、国内に目を向ければ労働者間でも分断があります。温かい人間の連帯の力が発揮される社会にしたいですよね。
香山 人種差別や排外主義を叫ぶレイシストたちの発言は結局、ブーメランのようにその人自身に戻ってくることだと思います。他者を攻撃して、いったい誰の利益になるのでしょうか。
貧困は誰の身にも起きうる
生活保護バッシングでも、本当なら「大変でしたね」って手を差し伸べるのが当然だと思います。貧困は誰の身にも起きる可能性があります。それを自己責任だというのは間違っています。
たつみ 「自己責任」論は2003年のイラク戦争で起きた日本人の人質事件以降に使われ始めた言葉ですが、それまでの日本の政治と社会の考え方を根本から変えた罪深い言葉だと思っています。
香山 日本人の人質事件が起きた当時、学会に出席していたスウェーデンでも大きく報道され、無事解放された時には、「良かったね」と声を掛けられました。日本国内で「自己責任」と批判が上がっていることを、海外の人は誰もが「信じられない!」と言いました。「国中で釈放を喜ぶよ、どうして!」と不思議に思うのですね。
たつみ 諸外国なら当然のように英雄だと歓迎されますよね。
9・11テロと報復戦争と続き、アメリカ留学から帰ったばかりの時期にイラク戦争が起きました。無法な戦争政策に追随する日本の政治状況を許してはいけないと、命懸けで戦争反対を貫いた日本共産党に入党しました。
自己責任論乗り越えて
維新の特徴は「自己責任」論
たつみ 自己責任論というのは、日本社会が乗り越えていかなければならない重大な課題だと思います。大阪の維新政治の大きな特徴の1つも「自己責任論」なんです。
香山 府知事になった橋下徹さんは、文楽や大阪フィルハーモニー交響楽団の助成金をばっさりと切り、貴重な資料が残る国際児童文学館も「もうかっていない」と、自己責任の一言で片付けてしまいました。残した傷は大きいと思います。
たつみ 行政機関は効率やコストパフォーマンスだけで見てはいけない部分が絶対にあります。
大阪市長になった橋下さんは二重行政解消といって、レスパイト入院など民間病院では担えない機能を持つ住吉市民病院を閉院しました。
香山 橋下さんの本には絶対負けない交渉術として、「まず敵を見つけて徹底的にたたく」と書いていました。しかし、その後にいったい何が残るというのでしょうか。
たつみ 維新政治がもたらした傷は本当に大きいです。敵をつくって攻撃する政治は、一部の人の心をつかむかもしれませんが、それは政治の破綻でしかありません。
香山 以前に大阪でタクシーに乗った時、運転手さんが、「前の市長は新聞やテレビで見たことがないが、橋下さんは新聞によく出ているので仕事をしている」と言うのです。ちょっと怖い見方だなと感じました。
メディア側の責任は大きい
たつみ 維新はメディアを最大限に利用しています。大阪では維新を「反権力」と思っている市民も多く、メディア側の責任は大きいと思います。
香山 「特別区」なんて東京の真似なのに、大阪ではなぜか反「中央」のイメージがあるのですね。
たつみ 国政の現場では、あれだけ不祥事を起こした安倍政権に出された内閣不信任案に、維新は反対しました。野党であればあり得ない。完全に権力に組み込まれているわけです。
暮らしに希望取り戻す
たつみ 今年7月の参院選は日本の未来、民主主義にとって大事な選挙になるのではないかと思っています。
香山 投票率を上げて、多くの人に感心を持っていただきたいですよね。
たつみ 参院選の1人区を統一候補でたたかう合意をステップにして、安倍政権を終わらせるための本気の野党共闘を発展させたいと思います。
香山 市民連合が広がって、私も各地の講演に呼ばれる中で、市民の方たちの意識が大きく変化していると感じます。
たつみ 国会では、野党合同ヒアリングを200回近く実施しています。森友問題では、野党みんなで豊中市で調査しましたし、各党の調査資料を共有して相談しながら、政府を追及していきます。議員個人のつながりや信頼関係も高まっていますね。
黙っていたら本当に駄目だ
香山 私は、反原発では小泉元首相と一緒に行動しているんです。小泉政権の自衛隊派遣は批判しましたが、意見の違いは尊重しあった上で、一致点では「みんなで一緒にやろう」というスタンスです。自民党の中から「いくら何でも賛成できない」という人がもっと出てきてくれればいいなと思います。
たつみ 香山さんのあふれんばかりの行動のエネルギーは本当にすごいなと思っていたのですが、患者さんを思う優しさや社会を見る視点に触れ、その原動力がよく理解できました。
香山 私にとっても同じ目線で、お話できるホッとする時間でした。排外主義にしても民主主義を壊すような政治にしても、黙っていたら本当に駄目ですね。これからも声を大にして発信し続けます。
たつみ うそがまかり通る安倍政治は、国民から希望を奪っていくと思います。皆さんと力を合わせ、平和を守り、暮らしに希望を取り戻すために全力で頑張りたいと思います。今日は本当にありがとうございました。
香山 ありがとうございました。
(大阪民主新報、2019年4月28日・5月5日合併号より)