住吉市民病院廃止で機能引き継ぐはずの府立病院が入院拒否
新病院に入院ベッドを
市民団体が署名運動へ
大阪市南部で出産や子どもが入院できる数少ない病院だった大阪市立住吉市民病院(大阪市住之江区、2018年3月末に閉鎖)の機能を引き継ぐとされる府立病院(同住吉区)に、子どもが入院を断られるケースが生まれています。ところが市は「現時点においては地域の医療需要に対応できている」として、跡地に建設する新病院に産科・小児科の入院できる病床を設けない案を提示。市民病院を守る運動を続けてきた「地域医療を充実させる市民の会」は19日、住之江区内で緊急報告集会を開き、新病院に小児・周産期の病床をそれぞれ10床以上確保することなどを求める署名を集めることを提起しました。
血便と高熱なのに入院拒否され
安達雅之さん(37)=同市西成区在住=は、1歳の長女が今年2月に血便と高熱を出し、夜間診療所から精密検査を勧められるも、自宅から一番近い府立病院に入院を断られました。長女は自宅から遠い市北部の病院に入院し、約4日間24時間点滴を受けました。
安達さんは集会で「そもそも府立病院は、診療所からの依頼を断った記録を残していない。記録がないから事実もないとされ、問題が隠されていく」と批判しました。
近くの診療所の小児科医師も、「断る以前の問題で、入院が必要な子どもがいても、府立病院は電話に出ない。やむなく別の病院を紹介した」と話しました。
「二重行政」の名で廃止強行され
住吉市民病院は年間約700件の分娩を取り扱い、小児救急を担うなど、地域の小児・周産期医療を長年支えていました。しかし、維新市政は「二重行政」の名のもとに廃止を強行しました。
市民病院は古くなった建物を、18年度までに現地で建て替える計画でした。ところが維新市政が12年、同じ市南部に府立病院「府立病院急性期・総合医療センター」があることから、統合すれば財政負担が減るとして、市民病院廃止と、その機能を総合医療センターに統合することを決めました。
地域医療を担う市民病院と、広域から患者が集まる総合医療センターとでは、求められる機能が違い、当初から医師会や住民から、反対の声が強くありました。
費用についても市は、建て替え案は約57億円で、統合は約30億円で済むとしてきましたが、逆に統合は約89億円もかかることが分かりました。
市民病院跡地について、市は機能を引き継ぐ医療機関が必要だと認め、民間病院を誘致してきましたが、4度にわたり失敗。また、建設計画に大きな不備があったにもかかわらず、市は長期間、その問題を議会に報告していなかったことも発覚しました。
市民病院の患者が多い住之江・西成両区から母子医療センターへは、交通の便が非常に悪いことも、閉鎖前から指摘されていました。市は「アクセス改善を検討中」と説明しながら、手を打っていません。
理解得られるようにと言ったが
松井一郎知事(当時、現大阪市長)は、「大阪府市で市民病院の医療レベルは維持」、吉村洋文大阪市長(当時、現知事)も「市民の理解が得られるように最大限の努力を尽くす」と繰り返してきました。維新の東徹参院議員は、「市民病院と医療センターはそんなに遠くない」と、妊婦たちの声を切り捨てました。
当時、厚労副大臣だった渡嘉敷奈緒美自民党府連会長や同政務官だった太田房江参院候補は、この計画を追認しました。
18年3月末に市民病院が閉鎖され、4月から総合医療センターの敷地内で、府市共同住吉母子医療センターが開業。「24時間365日、断らない救急」などと市は誇りますが、統合前から総合医療センターの患者受け入れは飽和状態に近いと指摘されていました。
小児科の入院ベッド数は、2病院で111床ありましたが、統合のため79床となり、32床少なくなりました。
新病院も入院できず外来のみに
市民病院閉鎖後、現地で診療所が開所していますが、出産も入院もできず、診察は午前中のみで、地域住民のニーズからほど遠いものです。
市民病院跡地について市は、大阪市立大学の付属病院を誘致し、高齢者医療を専門とする市立弘済院(吹田市)の現地建て替えを中止し、機能を移転する計画です。24年開院予定。府と市は住民説明会や府医療審議会などで、産科と小児科の病床を10床ずつ新病院に確保すると示していました。その後、市と市立大学とで医療内容を検討し、小児・周産期医療は外来のみとされたといいます。
跡地の新病院について市は、2019年4月に基本構想案を発表。この間、市民から寄せられたパブリックコメントでは、病床に関する意見392件のうち、入院ベッドを求める意見が268件、「安心して出産、子育てできるようにして」の声が101件で圧倒的です。市は、近接する阿倍野区の病院に産科を10床増やす計画ですが、それで「万全な対応ができる」という意見は1件だけでした。
反故にされてきた約束守らせる
住之江区医師会や市民の会は市民病院廃止の影響を調べるため、地域のクリニックや商業施設、インターネットなどでアンケートを集める活動を続けています。市民病院だった建物の前では時折、元患者らしき通行人が閉鎖を惜しむように、スマートフォンで写真を撮って行きます。
市民の会の井川登志夫会長は、「この間、ずっと約束が反故にされてきた。この町には入院できる施設が必要だ」と話します。
(大阪民主新報、2019年6月30日号より)