おおさかナウ

2019年10月13日

〝独自サービスできるはずない〟
東京都の特別区で聞いた生の声
大阪市議会の行政視察に参加
日本共産党大阪市議団 山中智子団長に聞く

 大阪市を廃止して「特別区」に分割する、いわゆる「大阪都」構想をめぐり、推進派の維新は「特別区になればきめ細かい住民サービスが実施できる」などと宣伝しています。本当にそうなのでしょうか。大阪市議会財政総務委員会の行政視察(9月4日、5日)で、東京特別区の実情を調査した日本共産党大阪市議会議員団の山中智子団長に話を聞きました。

都区制度は集権化のために

――今回の視察の目的は。
山中 4月の知事・大阪市長ダブル選と議員選挙の結果を受けて、来年秋冬にも住民投票が再び実施されることが必至という中で、わが国で唯一、「都区制度」をとる東京の実情をあらためて学ぼうというものでした。
 都区制度は、第2次大戦中の1943年、「帝都防衛」の名で集権化を図るために東京府と東京市を廃止して導入され、地方自治法の公布(47年)で特別区は23区となりました。

自治権拡充を求める運動が

 特別区は基礎自治体ですが、基幹税目の固定資産税や法人市民税などが「財政調整」の財源とされ、都と特別区の間で配分・交付される「半人前の自治体」。それだけに特別区では、長年にわたり自治権拡充を求める運動が続いてきました。
 維新が「都」構想を掲げて台頭し、東京以外の道府県でも都区制度を導入することを狙って、2012年に「大都市地域における特別区の設置に関する法律」が強行されました。

都と渡り合うためには区の事情は反映できず

15大阪市会_城東区_山中智子――視察での調査はどのようなものでしたか。
山中 まず、23の特別区のうち、財政状況や課題が対照的な、板橋区と千代田区の各特別区役所を訪ね、財政調整制度について聞きました。
 都区部の北部にある板橋区は自主財源が少なく、都からの財政調整交付金は23区6番目(18年度)に多くなっています。一方、都心の千代田区は自主財源が豊かで、財政調整交付金は23区中3番目(同)に少ない区です。両区の区役所では、率直な生の声を聞きました。
 板橋区は、生活保護を利用する区民も多いことなどから、歳出の6割が民生費。財政担当者は、その現状を財政調整に反映させ、交付金を増やしてほしいと思うが、都心区の要望とぶつかり、まとまらないと言います。「23区がまとまらなければ、『強い都』と渡り合えないので、23区で一致しないことは言えない」とのことでした。

財政調整のため都に3千億円持っていかれる

 一方、千代田区は人口約6万人ですが、大企業の本社や中央官庁などが集中し、昼間人口は約85万人。同区の財政担当者は、財政調整の結果、3千億円が都に持っていかれ、区には30億円しか戻ってこないと訴えました。

昼間人口向けのサービスが

 さらに千代田区は「千代田市」となって、千代田だけでやりたいというお話も印象的でした。都に持っていかれる3千億円があれば、昼間人口のためのサービスもできるというのです。しかし、財政調整に昼間人口を反映させてほしいと考えても、23区の中では少数派であり、要望は通らない。
 「強い都」との関係に加え、長い歴史の中で23区の仲間だから、「二重外交」だとも言われました。

都と特別区が、特別区同士が財源の取り合い

――板橋区と千代田区では財政状況や行政課題も大きく異なりますが、各特別区の切実な意見が財政調整制度に反映されないという点では、悩みは共通していますね。
山中 まさにそうです。特別区長会事務局の担当者は、財政調整制度は「取り合いが宿命だ」と強調しました。まず、都と特別区との「取り合い」があります。財政調整財源の45%は都のもの。しかも都はその根拠を示さず、ブラックボックスになっています。
 児童福祉法の改正で、児童相談所は政令市や中核市だけなく、特別区でも設置できるようになりました。しかし、その運営経費を財政調整に反映させてほしいと求めても、都は「児童相談所は基礎自治体の仕事だ」と背を向けています。こうした争いや議論が果てしなく続いています。
 同時に、特別区で異なる条件が財政調整制度に反映させることができず、大きな配分の変更がない中で、結局、特別区同士も財源の「取り合い」にならざるをえません。
 維新は、府と特別区が財源の取り合いでもめた場合に調整役となる「第三者委員会」を盛り込んだ今回の制度案を、「バージョンアップした」と自慢しています。その必要性について板橋区と千代田区、特別区長会事務局も、「23区の主張が一致しないので、第三者機関があっても、折り合えないだろう」と否定しました。

都の大きな財源と交付金があるから成立する

――維新は特別区なら「各区の特性に応じたきめ細かな対応ができる」と宣伝しています。
山中 その点では視察の中で「区の実情に合った独自の住民サービスは何か」との質問も出ましたが、板橋区の担当者は「そんなの、できるわけがありません」と即答しました。「都心区ならともかく、周辺区の住民サービスは、みんな横並びだ」と。それでもなんとかやっていけるのは、都が大きな財源をもち、交付金をくれるからだというのです。

大阪では何を財源にするか

 逆に、大阪の制度案をめぐって、板橋区の担当者の方から「何を財源にして財政調整をするのか聞きたいと思っていた」と言われる一幕もありました。特別区で「きめ細かい住民サービスが実施できる」という主張は完全に破たんしていると言わざるを得ません。

区間格差出さないため職員採用などは共同で

――東京では特別区単位でなく一部事務組合で共同処理しているものもあります。
山中 今回、視察した中に、人事・厚生事務組合があります。23区の職員の採用・研修を一括して担い、給与や昇進の条件も23区共通です。共同してやる理由は、幼稚園や保護施設など採用数の少ない職種には23区という規模が必要で、給与や昇進がばらばらでは、区によって職員の確保に偏りも出るからです。
 組合の担当者は「国家公務員や政令市の職員を併願する人も多い中で、特別区を選んでもらい、質の高い職員を確保するには、ばらばらでは無理」と話しました。一方で、給与や昇進などを統一的な基準で行うと、自治体としての独自色が出せないという矛盾もあります。

愚策でしかない政令市廃止

 大阪の制度案では、職員採用や研修は特別区ごとに行います。給与も各区ばらばらで、ここの区では職員のなり手がないという事態になったとき、一体、誰が責任を取るのか。東京の特別区では人事だけでも、メリット・デメリットのバランスを取りながら運営されているのに、大阪の制度案にある膨大な一部事務組合を、どう運営しようというのでしょうか。
 今回の視察で、「せめぎあいの歴史」「妥協の産物」などの表現を何度も聞きました。東京の特別区の皆さんは、自治権の拡充や権限・財源の確保などで苦労を重ねておられるからです。
 政令市である大阪市をわざわざ廃止して、この道に大阪市民を引きずり込むような愚策は、決してとるべきではないという決意を新たにしました。

(大阪民主新報、2019年10月13日号より)

月別アーカイブ